労働保険は、労災保険と雇用保険の総称です。令和8年度の雇用保険料率は、一般の事業で賃金の13.5/1,000。そのうち働く人が5/1,000、会社が8.5/1,000を負担します。労災保険料は会社が全額負担し、働く人の給料からは引きません。会社が行う年度更新は、原則として6月1日から7月10日です。
給与明細に雇用保険料があっても、労災保険料がないのは不自然ではありません。確認するのは、保険の名前、加入対象、誰の負担かの違いです。制度と料率は厚生労働省の公式案内を2026年10月23日に確認しました。
労災保険と雇用保険は、支える場面が違う
労災保険は仕事や通勤が原因のけが、病気などに備える保険です。雇用保険は失業したときの生活や再就職を支えるほか、育児休業などの給付にも関係します。「会社で入る保険」という点は同じでも、対象になる出来事と加入の条件は同じではありません。
| 比べる点 |
労災保険 |
雇用保険 |
| 主な場面 |
仕事・通勤のけがや病気 |
失業、育児休業、能力開発など |
| 誰が対象か |
原則すべての労働者 |
労働時間・雇用見込み等の要件を満たす人 |
| 保険料の負担 |
会社が全額 |
会社と働く人 |
| 主な窓口 |
労働基準監督署 |
ハローワーク |
出典:厚生労働省、労働保険の適用・徴収の制度案内。給付ごとに支給要件があり、表の出来事が起きれば全員に給付されるという意味ではありません。
健康保険や厚生年金は、この2つとは別の制度です。求人票に「社会保険完備」とだけあっても、自分の勤務条件で何に入るのかは確認します。名前をまとめて覚えるより、給与明細の控除欄と入社時の説明を照らし合わせるほうが確実です。
けがの治療について会社が「保険に入っていない」と答えたときも、それだけで労災の対象外と決まるわけではありません。業務や通勤との関係を整理し、労働基準監督署に相談します。申請の順番は労災の申請で説明しています。
加入は正社員かどうかだけでは決まらない
労災保険では、パートやアルバイト、短期間の雇用でも、労働者として働いていれば原則対象です。「試用期間だから労災はない」「短時間だから仕事中のけがは自己負担」といった説明を、そのまま受け入れないことです。
雇用保険は別に確認します。現行の原則は、週の所定労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用見込みがあることです。昼間学生などの適用除外もあります。勤務時間を増やしたとき、契約を更新したときには、入社時の判断が今も合っているかを見直します。
根拠は厚生労働省の雇用保険制度の公式案内です。将来の適用拡大と現在の条件を混ぜず、契約の所定時間と雇用見込みで照会します。細かい例は雇用保険の条件にまとめています。
自分が対象か迷うときは、「アルバイトですが入れますか」とだけ聞くより、契約書の勤務時間、契約期間、更新の説明を示します。単発の残業で長く働いた週と、契約上の所定時間も分けます。実態と契約が食い違うなら、その事実も窓口に伝えます。
会社の役員や個人事業主は、雇われて働く人と同じ扱いにはなりません。労災には特別加入の仕組みもありますが、労働者として当然に入る仕組みとは別です。「働いているから全員が同じ労働保険」という理解では、対象を誤ります。
雇用保険料率は、一般の事業と建設業で違う
次は令和8年度の料率です。適用期間は2026年4月1日から2027年3月31日まで。単位は賃金に対する1,000分率で、平均値や中央値ではありません。
| 事業の種類 |
働く人 |
会社 |
合計 |
| 一般の事業 |
5/1,000 |
8.5/1,000 |
13.5/1,000 |
| 農林水産・清酒製造 |
6/1,000 |
9.5/1,000 |
15.5/1,000 |
| 建設 |
6/1,000 |
10.5/1,000 |
16.5/1,000 |
出典:厚生労働省、令和8年度雇用保険料率のご案内の料率表の1ページ。農林水産等には、資料の注記で一般の事業の料率を使う事業があります。
働く人と会社の負担が同額にならないのは、会社だけが負担する雇用保険二事業の分があるためです。一般の事業で、合計13.5/1,000をそのまま従業員の給料に掛けて控除する計算ではありません。
給与明細を確かめるときは、適用年度を見ます。前年度の率で計算した記事や表計算をそのまま使うと、今の控除と合いません。料率の変更日と、給与がどの期間の労働の対価かも、給与担当に確認します。
保険料を計算する賃金は、基本給だけとは限りません。通勤手当や賞与などを含めて扱うため、給与明細の基本給だけに率を掛けても一致しないことがあります。源泉所得税の非課税と、労働保険料の対象賃金も別のルールです。
控除額に疑問があるなら、「率が違う」と結論を出す前に、計算の対象にした賃金、使った料率、端数処理を聞きます。説明を受けた数字と明細がつながれば、次の月も同じ手順で確認できます。
労災保険率の業種別ランキング
労災保険率は事業の種類によって違います。次は令和8年度の表から選んだ業種の一例を、率が高い順に並べたものです。全業種の上位ランキングではありません。平均保険料でも、事故に遭う個人の確率でもありません。
| 順位 |
事業の種類 |
労災保険率 |
| 1 |
林業 |
52/1,000 |
| 2 |
港湾荷役業 |
12/1,000 |
| 3 |
道路新設事業 |
11/1,000 |
| 4 |
建築事業(設備工事を除く) |
9.5/1,000 |
| 5 |
交通運輸事業 |
4/1,000 |
| 6 |
電気機械器具製造業 |
3/1,000 |
| 7 |
原油・天然ガス鉱業 |
2.5/1,000 |
出典:厚生労働省、令和8年度の労災保険率等についての公式資料の1ページの表1。事業番号02・03、74、32、35、71、57、24。令和7年度と同率。建築事業の原表名は既設建築物設備工事業を除く区分です。
雇用保険の事業区分より細かく分かれています。会社の宣伝上の業界名や、従業員個人の職種名だけで率を選ぶことはできません。複数の仕事をしている事業場や、工事ごとに扱う事業では、適用単位の確認も必要です。
この表を就職先の安全ランキングとして使うのも誤りです。率の高低だけでは、その職場の安全教育、設備、事故の実績はわかりません。仕事で使う設備、研修、保護具、事故が起きたときの報告方法を別に聞きます。
実際の申告では、メリット制などにより適用される率が違う事業もあります。公表表の率を見つけたら終わりではなく、労働局からの通知と事業の実態を照合します。申告の担当者は、前年度の書類を写す前に適用区分を確かめます。
会社が初めて人を雇ったときの手続き
労働保険は、人を採用したときの成立手続きと、採用した人の雇用保険の資格取得を分けて進めます。会社の労働保険の手続きが済んでいても、その人の雇用保険の届出まで自動で終わるわけではありません。
| 手続き |
原則の期限 |
確かめること |
| 保険関係の成立届 |
成立の翌日から10日以内 |
事業の開始、雇用の発生 |
| 概算保険料の申告・納付 |
成立の翌日から50日以内 |
年度末までの賃金見込み |
| 雇用保険の事業所設置届 |
設置の翌日から10日以内 |
雇用保険の適用事業所か |
| 雇用保険の資格取得届 |
対象になった月の翌月10日まで |
その人の加入条件 |
出典:兵庫労働局、労働者を雇用したときの手続き一覧。一般の事業の手続き。農林漁業・建設業などの二元適用事業では提出先や進め方が異なります。
会社側は、雇用契約の開始日、所定労働時間、見込み賃金、事業所の情報をそろえます。届出を外部に依頼していても、従業員に説明する担当者と、完了を確認する方法は決めておきます。依頼した日と、届出が受理された日は同じではありません。
働く人は、入社後に「加入予定です」と聞いただけで終わらせず、資格取得の内容を確認します。氏名などの記載に誤りがないか、資格取得日が契約と合っているかを見ます。個人情報を不用意に送らず、会社が指定する正式な提出方法を使います。
採用後に勤務条件が変わることもあります。短時間勤務から通常勤務に変わったとき、別の事業所へ移ったとき、契約を更新したときには、必要な手続きがあるか担当者に確認します。入社時の説明だけで、その後も同じ扱いだとは決めません。
年度更新は、去年の精算と今年の見込みをまとめる
労働保険の保険年度は、4月1日から翌年3月31日までです。年度の最初には賃金の見込額で概算保険料を納め、年度が終わって実際の賃金総額がわかったら精算します。この精算と新年度の申告・納付を行うのが年度更新です。
厚生労働省の年度更新案内に、原則として6月1日から7月10日までとあります。2026年度は、令和7年度の確定分と令和8年度の概算分を区別して書類を確認します。
過去の料率で計算する確定分と、新しい料率で計算する概算分が同じとは限りません。年度更新をする日だけを見て、すべて令和8年度の率に置き換えると誤ります。賃金がどの保険年度のものかを分けて集計します。
会社が用意するのは、賃金台帳、賞与の記録、従業員の加入状況、前回の申告書などです。労災保険の対象賃金と雇用保険の対象賃金は、対象者が違うため一致しないことがあります。給与総額をそのまま両方の欄に転記しないことです。
年度更新の申告・納付が済んでも、従業員の入退社の届出漏れが自動的に直るわけではありません。対象者の一覧と資格取得・喪失の記録を照合し、漏れや誤りを別に直します。保険料の帳尻と、個人の加入記録は両方必要です。
給与明細に疑問があるときの聞き方
「労働保険が高い」とまとめず、控除欄に書かれた正式な項目を確認します。雇用保険料、健康保険料、厚生年金保険料は計算の仕組みが違います。前年同月と比べるときも、手当や賞与、適用料率の変化を分けます。
記録には、給与の対象月、支給日、控除名、金額、会社からの説明を残します。説明を頼む文面は、「【対象月】の雇用保険料について、対象賃金と適用料率を教えてください」で足ります。最初から会社の違反を断定する必要はありません。
労災保険料という名目で従業員負担を求められたら、何の制度の何の費用かを書面で聞きます。労働者の通常の労災保険料を会社が全額負担する原則と照合します。任意保険や組合費など、別の項目と混同されていないかも見ます。
会社から回答がない、説明と実態が合わないというときは、手元の契約書や給与明細を持って窓口に相談します。労災と雇用保険で窓口が違うため、相談内容を先に分けておくと話が進みます。
年度更新で間違えやすいのは、賃金と加入者の範囲
会社が給与ソフトから一覧を出すときは、集計した期間と賃金項目を確かめます。給与の支給総額、所得税の課税支給額、労働保険の賃金総額は同じ名前ではありません。非課税の通勤手当を外したまま転記していないか、賞与を別の一覧に置いたまま落としていないかを見ます。
対象者も分けます。労災の対象となる労働者の一覧と、雇用保険の被保険者の一覧を突き合わせます。雇用保険に入らない短時間の人を労災の集計からも外すと、同じ範囲だと思い込んだまま計算が進んでしまいます。
入退社があった人は、在籍期間と資格取得・喪失の記録を確認します。給与の締め日をまたぐ人、契約を変更した人、事業所を異動した人は、どの区分で計上したかを追えるようにします。判断に迷う賃金や人は、根拠を確認するまで都合よく省きません。
厚生労働省の令和8年度の更新資料には、年度更新の流れと申告書の書き方が載っています。初めて担当するなら、前年の入力欄を埋める作業から始めず、今年の資料と事業区分を先に確認します。
入社・退社の書類は、番号と日付を分けて保管する
働く人は、雇用保険の被保険者番号がわかる書類と、会社で資格を取得した内容がわかる通知を区別して保管します。前の会社から渡された書類があることと、今の会社で資格取得の手続きが済んだことは同じではありません。
退職後の給付を使うときにも、加入歴や離職の記録を確認する場面があります。入社時の説明と資格取得日が違う、退職後の書類に勤務条件の誤りがあるなどの点は、そのままにせず会社へ照会します。後で思い出そうとするより、受け取ったときに契約と照合します。
会社が変わっても、仕事中のけがの発生状況や通院の記録まで消えるわけではありません。労災に関する相談中なら、担当窓口、提出した書類、次に必要なことを手元に残します。退職するから申請の相談も終わりと決めず、窓口に今後の進め方を確認します。
保険の書類は個人情報を含みます。応募先へ提出するもの、今の会社の担当者へ渡すもの、自分で保管するものを分け、番号が載った画像を公開の場所に置かないようにします。制度を調べるときの一般的な質問なら、番号を伝える必要がない場面もあります。
業務委託や派遣では、誰と雇用契約を結ぶかを確認する
勤務先で働いている人でも、直接雇用、派遣、業務委託では契約の相手や仕組みが違います。同じ場所で同じような仕事をしているという理由だけで、加入の説明を一緒にしないことです。入社前に、雇用契約を結ぶ相手と給与を支払う相手を確かめます。
派遣で働く人は、派遣先の担当者の説明だけで雇用保険の手続きを確認したことにはなりません。雇用する会社の担当窓口に、加入条件と資格取得の状況を聞きます。仕事中に事故があったときの連絡は、現場の安全対応と保険の手続きを分けて確認します。
業務委託という契約名なら、雇われて働く人と同じ保険料の扱いをそのまま当てはめません。ただし契約の名前だけで労働者かどうかが決まるわけでもありません。仕事の指示、時間や場所の拘束、報酬の決め方など実態に疑問があれば、窓口で相談します。
募集要項の契約区分と、面接で説明された働き方が違うなら、契約前に質問します。税や保険を自分で手続きすると言われたときも、何の制度を、どの立場で手続きするのかを確かめます。保険の負担だけを比べて、契約の違いを見落とさないことです。
会社が説明に使った資料は、制度の名前と対象者を確認して保管します。別の雇用区分向けの説明を自分に当てはめていたとわかったら、自分の契約に沿った説明を改めて求めます。募集時点と契約時点で条件が変わった点も書面で照合します。
求人票・面接・しょくばらぼで、その会社の運用を確かめる
求人票では加入する保険と勤務条件を読み、面接では自分の契約でいつから加入するかを聞きます。雇用保険の対象なのに「希望者だけ」「試用期間後」と説明されたら、根拠と資格取得日を確認します。
仕事中の事故の連絡先、安全研修、休業中の手続きも聞いておくと、制度の名前だけでは見えない運用がわかります。担当者が不在のとき、どこに連絡するかまで確認しておくと安心です。
厚生労働省のしょくばらぼで公開されている残業時間や休暇などの数字も読みます。掲載されていない項目を、制度がないという意味には取りません。全国の料率と、その会社の実際の働き方は別々に確認します。その会社の実際の数字は、求人票・面接・しょくばらぼで確かめます。