業務委託とは、会社が仕事の完成や事務の処理を、雇っていない外部の人や会社に任せる契約の呼び方です。法律に「業務委託契約」という名前の契約はありません。民法でいえば、仕事の完成に報酬を払う請負と、事務の処理を任せる委任・準委任にあたります。
雇用との違いは、相手の指揮命令を受けて働くかどうかです。雇用なら労働基準法の残業代、有給休暇、最低賃金が適用されます。業務委託は対等な取引なので、原則として適用されません。ただし、契約書の名前が業務委託でも、実態が指揮命令を受けて働くものなら、労働基準法の労働者と判断されることがあります。
働く人の数で見ると、総務省の令和4年就業構造基本調査で、本業がフリーランスの人は209.4万人、有業者の3.1%でした。副業だけでフリーランスをしている人を加えると257.4万人です。
この記事では、業務委託と雇用の違い、労働者かどうかを判断する基準、請負と派遣を分ける基準、契約前に確かめることを順に見ます。法令と資料は2026年10月25日に確認しました。報酬の支払期日など、取引のルールはフリーランス新法の記事で扱っています。
業務委託とは:請負・委任・準委任をまとめた呼び方
民法の条文を見ると、3つの契約は何に対して報酬を払うかが違います。
| 契約 |
民法の条文 |
報酬を払う対象 |
例 |
| 請負 |
632条 |
仕事の完成 |
建物の工事、ソフトの開発、記事の納品 |
| 委任 |
643条 |
法律行為をすること |
契約の手続きの代理 |
| 準委任 |
656条 |
法律行為でない事務 |
運用の保守、相談業務、受付業務 |
出典:民法632条、643条、656条。2026年10月25日時点の条文で、例は説明のための整理です。
請負は、完成した結果に報酬が払われます。民法633条は、報酬は仕事の目的物の引渡しと同時に払うと定めています。準委任は、決められた事務を処理することに報酬が払われます。民法648条は、委任の報酬は特約がなければ請求できず、事務を終えた後に請求するのが原則としています。準委任にもこの決まりが準用されます。
実際の契約書では「業務委託契約書」という名前で、請負と準委任の要素が混ざっていることもあります。名前より、報酬を何に対して払うのか、成果物の検収があるのかを条文で確かめます。
雇用との違い:指揮命令を受けて働くかどうか
労働基準法9条は、労働者を「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定めています。会社の指揮命令を受けて働き、その対価を受け取る人が労働者です。
| 項目 |
雇用(労働契約) |
業務委託 |
| 仕事の進め方 |
会社の指示に従う |
自分で決める |
| 働く時間と場所 |
会社が決めて管理する |
原則として自分で決める |
| 報酬 |
働いた時間などに対する賃金 |
成果物や処理した事務への代金 |
| 残業代・有給・最低賃金 |
適用される |
原則として適用されない |
| 社会保険・雇用保険 |
条件を満たせば会社で加入 |
原則は自分で国民健康保険と国民年金 |
| 道具や経費 |
会社が用意する |
自分で負担することが多い |
出典:労働基準法9条と、厚生労働省のリーフレットの判断基準をもとに整理。個々の契約がどちらに当たるかを決める表ではありません。
雇用で働くと、会社の社会保険と雇用保険に入れる場合があり、仕事中のけがは労災保険の対象です。業務委託では、健康保険も年金も自分で手続きをします。会社員と同じ条件で働いているつもりでも、契約が業務委託なら、毎月の保険料の払い方も変わります。加入の条件は社会保険の加入条件で確認できます。
労働者かどうかの判断基準:契約の名前ではなく実態で決まる
労働者に当たるかどうかの判断基準は、昭和60年12月19日の労働基準法研究会報告にまとめられています。報告は、指揮監督の下で働いているかと、報酬が働いたことへの対価かの2つを合わせて「使用従属性」と呼び、契約の形式ではなく実態で総合的に判断するとしています。
厚生労働省の働き方チェックのリーフレットは、この報告の基準を8つの点に分けています。Aに当てはまるほど労働者ではない方向、Bに当てはまるほど労働者の方向に働く事情です。
| 見る点 |
A:事業者に近い |
B:労働者に近い |
| 依頼を断れるか |
断る自由がある |
断る自由はない |
| 仕事の進め方 |
自分の裁量で決める |
毎日具体的な指示を受ける |
| 時間と場所 |
基本は自分で決める |
相手に決められている |
| 代わりの人 |
代役を立ててよい |
代役は認められない |
| 報酬の決め方 |
仕事の出来高に見合う |
日や時間あたりで決まる |
| 材料や機械 |
自分で用意する |
相手が用意する |
| 報酬の額 |
正社員より高い |
正社員と同じか、経費を引くと低い |
| ほかの仕事 |
自由に受けられる |
実質的に1社だけに長く従事 |
出典:厚生労働省、フリーランス向けリーフレットの自己診断チェックリスト。令和6年10月の版で、どれか1つの点で決まるものではありません。
報告では、依頼を断る自由がないことは指揮監督関係を推認させる重要な要素とされています。業務の内容と進め方に具体的な指揮命令を受けていることは、基本的で重要な要素です。一方で、注文した人が普通に出す程度の指示なら、指揮監督とは言えないとしています。
時間と場所の指定も、業務の性質や安全のために必要なだけなら、すぐに労働者とはなりません。演奏や建設の現場のように、仕事の性質上、時間と場所が決まる場合があるためです。チェックリストは、自分の働き方を整理して相談するための材料として使います。
この判断基準は作られてから約40年がたちます。厚生労働省は、働き方の変化に合わせて見直しを検討するため、労働基準法における「労働者」に関する研究会を開いています。研究会の開催要綱に、検討の目的が書かれています。
偽装請負とは:37号告示が示す請負の2つの条件
偽装請負は、契約は請負や業務委託なのに、実態は労働者派遣になっている状態をいいます。請負業者が雇う人を発注者の職場で働かせ、発注者が直接指示を出していると、派遣と同じ働き方になります。派遣なら労働者派遣法の決まりを守る必要があるため、請負の形をとって逃れることは認められません。
請負と派遣を分ける基準は、昭和61年労働省告示第37号(37号告示)です。請負業者が次の両方を満たさない限り、派遣事業を行う事業主とされます。
| 条件 |
告示が求めること |
| 1 労務管理を自分で行う |
仕事の進め方の指示と評価、始業と終業の時刻、残業と休日出勤の指示、服務規律、配置の決定を、請負業者が自ら行う |
| 2 仕事を独立して処理する |
資金を自分で調達し、法律上の事業主の責任を負い、自分の機械や材料、または企画や専門技術で仕事をする |
出典:厚生労働省、労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(昭和61年労働省告示第37号、最終改正平成24年)第2条。
2つ目の条件では、単に体を動かす労働力を出すだけのものは請負になりません。告示の第3条は、形の上で条件を満たしていても、法の規定を免れるために故意に偽装したもので、本当の目的が労働者派遣なら、派遣事業を行う事業主であることを免れないとしています。
働く側から見て分かりやすいのは、誰から指示を受けているかです。所属する会社の責任者ではなく、発注者の社員から毎日の作業を直接指示され、勤務時間も管理されているなら、契約の形と実態がずれている可能性があります。
発注者の職場に常駐して働くとき
常駐する業務委託では、発注者の社員と同じ部屋で、同じ時間帯に働くことがあります。同じ場所にいることだけで偽装請負になるわけではありません。告示が見ているのは、仕事の指示と時間の管理を誰が行っているかと、仕事を独立して処理しているかです。
常駐の仕事に入る前は、作業の指示を出す人、勤怠を管理する人、困ったときの連絡先を、契約書や体制表で確かめます。発注者の社員から直接の指示が来たときに、どこへ戻せばよいかを決めておくと、契約の形と実態がずれるのを防げます。
個人が業務委託で働く場合は、この告示より前に、自分が労働者に当たるかどうかが問題になります。上の8つの点で、自分の働き方を書き出しておきます。
業務委託で働く人の数:本業がフリーランスは209.4万人
業務委託で働く人そのものを数えた公的な統計は限られます。総務省の令和4年就業構造基本調査は、実店舗がなく人を雇っていない自営業主や一人社長で、自分の経験や知識、スキルを生かして収入を得る人を「フリーランス」として数えています。業務委託で働く人の多くを含みますが、同じ集団ではありません。
都道府県別の割合:東京都が4.2%で最も高い
| 順位 |
都道府県 |
本業がフリーランスの人 |
有業者に占める割合 |
| 1 |
東京都 |
35.1万人 |
4.2% |
| 2 |
神奈川県 |
18.5万人 |
3.6% |
| 2 |
京都府 |
4.9万人 |
3.6% |
| 4 |
埼玉県 |
13.7万人 |
3.5% |
| 4 |
大阪府 |
16.3万人 |
3.5% |
| 6 |
岐阜県 |
3.4万人 |
3.2% |
| 6 |
福岡県 |
8.5万人 |
3.2% |
| 8 |
千葉県 |
10.3万人 |
3.1% |
| 8 |
静岡県 |
6.1万人 |
3.1% |
| 8 |
兵庫県 |
8.7万人 |
3.1% |
| 8 |
沖縄県 |
2.3万人 |
3.1% |
| ― |
全国 |
209.4万人 |
3.1% |
出典:総務省統計局、令和4年就業構造基本調査、結果の概要の表6-3。2022年10月1日現在、本業がフリーランスの者の数と有業者に占める割合。公表値が同じ都道府県は同順位としています。
割合が最も低いのは岩手県の2.0%で、青森県と鳥取県が2.1%でした。上位には大都市圏が並びます。ただし、この表は働く人が住んでいる都道府県で数えた数字で、仕事を出す会社の所在地とは違います。
年齢別:人数は45〜54歳、割合は高い年齢ほど高い
| 年齢 |
本業がフリーランス |
有業者に占める割合 |
副業のみ |
| 25〜29歳 |
7.7万人 |
1.4% |
3.6万人 |
| 35〜39歳 |
17.1万人 |
2.8% |
6.3万人 |
| 45〜49歳 |
24.5万人 |
3.0% |
6.1万人 |
| 55〜59歳 |
22.5万人 |
3.4% |
4.0万人 |
| 65〜69歳 |
20.8万人 |
5.4% |
3.6万人 |
| 75歳以上 |
17.7万人 |
8.0% |
1.3万人 |
出典:総務省統計局、令和4年就業構造基本調査、結果の概要の表6-1から5歳階級を1つおきに抜粋。
人数が最も多いのは45〜49歳の24.5万人と、50〜54歳の24.4万人です。有業者に占める割合は年齢が上がるほど高く、75歳以上は8.0%でした。20代でフリーランスを本業にする人は、まだ少数です。
業務委託の契約前に確かめること
業務委託の募集は、求人票の形で出ていても、雇用の募集とは条件の書き方が違います。応募の前と契約の前に、次の点を書面で確かめます。
| 確かめること |
見る場所 |
| 雇用か業務委託か |
募集の記載、契約書の名前と条文 |
| 何に報酬が払われるか |
成果物の内容、検収の方法、単価の決め方 |
| 報酬の額と支払日 |
契約書、発注書 |
| 経費の負担 |
交通費や機材、通信費の取り決め |
| 時間と場所の指定 |
稼働時間の条件、常駐の有無 |
| 誰から指示を受けるか |
窓口の担当者、報告の方法 |
| 契約の期間と解除 |
更新の条件、途中で終わるときの予告 |
業務委託の募集に「正社員登用あり」などと書かれていたら、登用の条件と、それまでの期間の契約が雇用か業務委託かを分けて聞きます。会社員として社会保険に入れるかどうかは、契約の種類で大きく変わるためです。
業務委託で働く人の取引には、2024年11月1日からフリーランス・事業者間取引適正化等法が適用されています。発注する会社は、業務の内容、報酬の額、支払期日などを書面やメールで示す必要があります。内容はフリーランス新法で整理しています。
働き方が労働者ではないかと思ったら:相談先
厚生労働省は、フリーランス・事業者間取引適正化等法の施行に合わせ、2024年11月1日から全国の労働基準監督署に相談窓口を設けました。自分の働き方が労働者に当たるかもしれないと考える人が、労働基準法などの違反について相談できます。受付は平日の8時30分から17時15分です。
厚生労働省の発表によると、窓口では判断基準の説明や、自己診断チェックリストを使った確認を行います。申告として調査した場合は、原則として労働基準監督署が、相談した人が労働者に当たるかを判断します。報酬の支払いなど取引の適正化に関する相談は、公正取引委員会または中小企業庁が担当します。
労働者と判断されると、労働基準法の労働時間、割増賃金、年次有給休暇の決まりが、その働き方に適用されます。過去の働いた時間の記録がないと、残業代などをさかのぼって計算する材料がありません。業務委託のつもりで働いている間も、始業と終業の時刻、休んだ日を自分で記録しておきます。
相談の前に、契約書、発注のメール、指示を受けたやり取り、稼働時間の記録、報酬の明細をそろえておきます。いつ、誰から、どんな指示を受けたかが分かる記録が、実態を説明する材料になります。
その会社の実際の数字は、求人票・面接・しょくばらぼで確かめる
業務委託と雇用のどちらで働くかで、残業代、有給休暇、社会保険の扱いが変わります。応募するときは、まず求人票の雇用形態の欄を見ます。「業務委託」「委託」「請負」と書かれていれば雇用ではありません。
面接では「契約は雇用ですか、業務委託ですか」「業務の指示は誰から受けますか」「稼働時間や場所の指定はありますか」と聞きます。答えは、契約書の条文と合っているかを確かめます。
雇用で働く会社を選ぶなら、厚生労働省のしょくばらぼで、掲載している会社の残業時間や有給休暇の取得状況を調べられます。契約の形と、公開されている働き方の数字を両方そろえてから、応募するかを決めます。