みなし労働時間制とは、実際に働いた時間にかかわらず、あらかじめ決めた時間を働いたものとみなす制度です。労働基準法には3種類あります。会社の外で働く人の事業場外みなし(38条の2)、専門業務型裁量労働制(38条の3)、企画業務型裁量労働制(38条の4)です。
厚生労働省の令和7年就労条件総合調査では、みなし労働時間制の適用を受ける労働者は11.8%でした。種類別では事業場外みなしが10.5%、専門業務型が1.1%、企画業務型が0.3%です。みなし労働時間制で働く人の多くは、裁量労働制ではなく事業場外みなしで働いています。
みなし労働時間制でも、残業代が必ずなくなるわけではありません。みなした時間が1日8時間を超えれば、その分は時間外労働です。深夜と休日に働いた分も別に扱います。
この記事では、事業場外みなしを中心に、裁量労働制との違い、残業代の考え方、適用される人の割合を見ます。法令と資料は2026年10月25日に確認しました。裁量労働制の対象業務と手続きは、裁量労働制とはの記事で詳しく扱っています。
みなし労働時間制の3種類:事業場外みなしと裁量労働制
3つの制度は、どれも「決めた時間を働いたとみなす」点が共通です。違うのは、使える理由と手続きです。
| 種類 |
条文 |
使える場面 |
みなす時間 |
| 事業場外みなし |
38条の2 |
会社の外で働き、労働時間を算定し難いとき |
所定労働時間、または通常必要な時間 |
| 専門業務型裁量労働制 |
38条の3 |
省令で決めた専門業務に就くとき |
労使協定で定めた時間 |
| 企画業務型裁量労働制 |
38条の4 |
企画・立案・調査・分析の業務に就くとき |
労使委員会の決議で定めた時間 |
出典:労働基準法38条の2、38条の3、38条の4。2026年10月25日時点の条文です。
事業場外みなしは「時間を数えにくい」ことが理由の制度です。仕事の進め方を本人に任せることが理由の裁量労働制とは、考え方が違います。会社の外で働くだけで、当然に使えるものではありません。
裁量労働制は、業務の性質上、進め方や時間配分を本人の裁量に任せる必要がある業務に限って使えます。本人の同意を得ることなどの手続きがあり、2024年4月に決まりが改められました。内容は裁量労働制とはで確認できます。
手続きの違い:事業場外みなしには本人の同意の定めがない
| 種類 |
会社が必要な手続き |
本人の同意 |
| 事業場外みなし |
原則は不要。通常必要な時間を決めるときは労使協定 |
条文に定めはない |
| 専門業務型裁量労働制 |
労使協定を結び、労働基準監督署に届け出る |
必要 |
| 企画業務型裁量労働制 |
労使委員会で決議し、労働基準監督署に届け出る |
必要 |
出典:労働基準法38条の2から38条の4、労働基準法施行規則24条の2の2第3項。2026年10月25日時点の条文です。
裁量労働制では、同意しなかった人を解雇したり不利益に扱ったりしてはならないことも、協定や決議で定めます。事業場外みなしは、条件を満たす働き方なら、本人の同意がなくても所定労働時間とみなされます。だからこそ、自分の働き方が条件に当てはまっているかを確かめる意味があります。
事業場外みなしの条件:外で働き、時間を算定し難いこと
労働基準法38条の2は、労働時間の全部または一部を事業場の外で働いた場合で、労働時間を算定し難いときに、所定労働時間を働いたものとみなすと定めています。条件は2つで、両方そろって初めて使えます。
- 事業場の外で仕事をしていること
- 会社が労働時間を算定し難いこと
2つ目の条件が大切です。会社の外にいても、上司から随時具体的な指示を受け、仕事の始まりと終わりを会社が把握できるなら、時間を算定し難いとは言えません。
テレワークで使える2つの条件
厚生労働省のテレワーク指針は、テレワークで事業場外みなしを使える条件を次の2つとしています。両方を満たす必要があります。
| 条件 |
満たすと認められる例 |
| 1 通信機器を、会社の指示で常に通信できる状態にしておくとされていない |
自分の意思で回線を切れる、応答のタイミングを自分で決められる |
| 2 随時、会社の具体的な指示で仕事をしていない |
指示が仕事の目的、目標、期限などの基本的なことにとどまる |
出典:厚生労働省、テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドラインの6(2)ウ。条件を整理して載せています。
会社支給の携帯電話を持っていても、応答するか、いつ折り返すかを自分で決められるなら、1つ目の条件を満たすと書かれています。反対に、1日の作業の内容と時間をあらかじめ細かく決められているなら、2つ目の条件を満たしません。
事業場外みなしで何時間とみなすか:3通りの決め方
事業場外みなしでは、何時間とみなすかが3通りあります。
| 場合 |
みなす時間 |
手続き |
| 原則 |
所定労働時間 |
なし |
| 仕事に通常、所定労働時間を超える時間が必要なとき |
その仕事に通常必要な時間 |
なし |
| 通常必要な時間を労使協定で決めたとき |
協定で定めた時間 |
協定を労働基準監督署に届け出る |
出典:労働基準法38条の2第1項から第3項、労働基準法施行規則24条の2。
協定の届出は、協定で定めた時間が法定労働時間以下なら要りません。施行規則24条の2にそう書かれています。協定の内容は、時間外労働の協定(36協定)の届出に付けて出すこともできます。
事業場外で働いた時間の後に会社に戻って内勤をした日は、注意が要ります。38条の2は「労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合」が対象です。外の時間と内勤の時間をどう数えるかは会社の決め方を就業規則で確かめ、分からなければ労働基準監督署に聞きます。
残業代の考え方:みなし時間が8時間を超えると時間外労働
みなし労働時間制の残業代は、みなした時間と法定労働時間を比べて考えます。
| みなした時間 |
時間外労働 |
割増賃金 |
| 1日7時間 |
なし |
時間外の割増はなし |
| 1日8時間 |
なし |
時間外の割増はなし |
| 1日9時間 |
1時間 |
1時間分の割増が必要 |
この表は、法定労働時間を1日8時間として考え方を示した例です。
みなした時間が9時間なら、毎日1時間の時間外労働があることになり、36協定と割増賃金が必要です。みなした時間が所定労働時間の7時間なら、実際に何時間働いたかにかかわらず、時間外労働はないものとして扱われます。そのため、みなし時間が実態に合っているかが大事になります。
テレワーク指針の7(3)は、事業場外みなしを使う場合、必要に応じて、実態に合ったみなし時間になっているかを労使で確かめ、会社がその結果に応じて業務量などを見直すことを求めています。
深夜と休日の割増は別に扱う
施行規則24条の2第1項は、事業場外みなしの決まりが、労働時間の章の規定を当てはめるための労働時間の算定に使われると定めています。みなすのは「何時間働いたか」の部分です。
午後10時から午前5時の深夜に働いた分と、法定休日に働いた分の割増賃金は、みなしとは別の決まりです。テレワーク指針の7(4)エも、深夜に働かせる場合は深夜の割増賃金の支払いが必要としています。計算の方法は残業代の計算で確認できます。
みなし労働時間制の適用を受ける人の割合:企業規模別
厚生労働省の令和7年就労条件総合調査は、常用労働者30人以上の民営法人を対象に、令和7年1月1日現在の制度を聞いた調査です。適用を受ける労働者の割合を、企業規模別に並べます。
| 企業規模 |
みなし労働時間制 |
事業場外みなし |
専門業務型 |
企画業務型 |
| 1,000人以上 |
16.6% |
14.6% |
1.6% |
0.4% |
| 300〜999人 |
9.3% |
8.2% |
0.9% |
0.1% |
| 100〜299人 |
9.9% |
8.8% |
0.8% |
0.4% |
| 30〜99人 |
7.8% |
6.9% |
0.8% |
0.1% |
| 計 |
11.8% |
10.5% |
1.1% |
0.3% |
出典:厚生労働省の就労条件総合調査、令和7年の結果の概況第11表。労働者計を100とした適用労働者の割合。
令和6年調査の11.8%に当たる数字は9.2%で、1年で2.6ポイント上がりました。事業場外みなしは7.6%から10.5%に増えています。一方、企業の割合で見ると、みなし労働時間制がある企業は15.8%で、令和6年の15.3%からの伸びは小さめです。
1,000人以上が16.6%で最も高く、30〜99人が7.8%で最も低くなっています。ただし、300〜999人は100〜299人より低く、規模の順にきれいに並んでいるわけではありません。
企業の割合と労働者の割合は別の数字
同じ概況の第10表では、みなし労働時間制がある企業は15.8%、事業場外みなしがある企業は13.8%です。こちらは制度がある会社の割合で、その会社の社員全員が対象という意味ではありません。制度がある会社でも、外回りの部署の人だけが対象ということがあり得ます。
働く人の目線では、第11表の労働者の割合のほうが実感に近い数字です。30人以上の会社で働く人の11.8%が、何らかのみなし労働時間制で働いています。応募先に制度があるかだけでなく、自分が就く仕事が対象かを聞きます。
事業場外みなしの適用を受ける人の割合:業種別ランキング
同じ調査の原表19から、事業場外みなしの適用を受ける労働者の割合を、業種別に高い順に並べました。
| 順位 |
業種 |
事業場外みなし |
みなし労働時間制の計 |
| 1 |
複合サービス事業 |
69.3% |
69.3% |
| 2 |
金融業,保険業 |
32.6% |
33.3% |
| 3 |
生活関連サービス業,娯楽業 |
15.0% |
15.3% |
| 4 |
卸売業,小売業 |
12.9% |
13.3% |
| 5 |
学術研究,専門・技術サービス業 |
12.8% |
18.3% |
| 6 |
不動産業,物品賃貸業 |
12.4% |
12.8% |
| 7 |
運輸業,郵便業 |
10.9% |
11.3% |
| 8 |
建設業 |
8.2% |
8.3% |
| 9 |
教育,学習支援業 |
7.3% |
16.4% |
| 9 |
サービス業(他に分類されないもの) |
7.3% |
7.4% |
| 11 |
情報通信業 |
7.1% |
17.0% |
| 12 |
製造業 |
7.0% |
7.8% |
| 13 |
電気・ガス・熱供給・水道業 |
4.6% |
4.7% |
| 14 |
宿泊業,飲食サービス業 |
3.8% |
4.0% |
| 15 |
医療,福祉 |
3.6% |
3.8% |
| 16 |
鉱業,採石業,砂利採取業 |
3.5% |
3.5% |
出典:厚生労働省の就労条件総合調査、令和7年の原表19の統計表CSV。企業規模計、労働者計を100とした割合。公表値が同じ業種は同順位としています。
複合サービス事業と金融業・保険業は、みなし労働時間制の適用を受ける人のほぼすべてが事業場外みなしです。どの職種の人が適用を受けているかまでは、この表からは分かりません。
情報通信業と教育・学習支援業は、みなし労働時間制の計に比べて事業場外みなしが小さい業種です。原表19では、情報通信業の専門業務型が9.3%、教育・学習支援業の専門業務型が9.0%で、裁量労働制の分が大きくなっています。
みなし労働時間制の人も、労働時間の状況は把握される
みなし労働時間制だからといって、会社が働いた時間をまったく見なくてよいわけではありません。労働安全衛生法66条の8の3は、高度プロフェッショナル制度の対象者を除くすべての労働者について、会社に労働時間の状況を把握するよう求めています。長時間働いた人の医師による面接指導につなげるためです。
みなし時間が実態より短いと、実際の働き方と賃金の計算がずれます。たとえば、所定労働時間の8時間とみなされているのに、毎日10時間前後働いているなら、仕事に通常必要な時間が所定労働時間を超えているのかもしれません。38条の2のただし書は、その場合は通常必要な時間を働いたものとみなすとしています。外回りや在宅の日も、始業と終業の時刻、移動の時間、休憩を自分でも記録しておきます。記録があれば、会社とみなし時間の見直しを話すときの材料になります。
応募前に確かめること:どの制度で何時間とみなすか
求人票に「みなし労働時間制」「事業場外みなし」と書かれていたら、次の点を確かめます。
| 確かめること |
聞き方の例 |
| どの種類のみなしか |
みなし労働時間制は、事業場外みなしですか、裁量労働制ですか |
| 何時間とみなすか |
1日何時間とみなしていますか |
| 対象になる日 |
内勤の日や在宅の日も、みなしの対象ですか |
| 時間外の扱い |
みなし時間が8時間を超える分の割増は、どう払われますか |
| 深夜・休日 |
深夜や休日に働いた分の割増は、どう払われますか |
| 時間の記録 |
勤怠はどの方法で記録していますか |
求人票に固定残業代も書かれていたら、固定残業代の時間数と、みなし時間の関係を分けて聞きます。固定残業代の見方は固定残業代の記事にまとめています。
その会社の実際の数字は、求人票・面接・しょくばらぼで確かめる
みなし労働時間制は、会社によって使う種類も、みなす時間も違います。業種別の表のとおり、金融業・保険業では3割を超える人が事業場外みなしで働いていますが、医療・福祉では3.6%です。応募先がどちらに近いかは、業種の平均ではなく会社ごとに確かめます。
求人票では、労働時間の欄に「事業場外みなし」「裁量労働制」と書かれているか、みなし時間が何時間かを見ます。書かれていなければ、面接や内定後の条件確認で聞きます。始業と終業の時刻など労働時間に関することは、労働条件通知書で書面で示されます。
残業の実態は、厚生労働省のしょくばらぼで、掲載している会社の月平均の残業時間を調べられます。みなし時間と、公開されている残業の数字が大きく離れていないかを、応募の前に見ておきます。