定年退職の手続きは、会社とのやりとり、雇用保険、健康保険、年金の4つに分けると漏れません。会社からは離職票と源泉徴収票を受け取り、健康保険は退職日の翌日から20日以内の任意継続か、国民健康保険か、家族の扶養に切り替えます。年金の請求書は、受給開始年齢の3か月前から日本年金機構が送ってきます。
定年の年齢は会社によって違います。厚生労働省の令和7年高年齢者雇用状況等報告では、定年を60歳とする企業が62.2%、65歳以上(定年制の廃止を含む)が34.9%でした。60歳で辞めるのか、再雇用で65歳まで働くのかで、手続きの中身も時期も変わります。この記事の制度の説明は、2026年10月25日に各機関の公式ページで確かめました。
定年の年齢:60歳の会社が6割
使う資料は、厚生労働省の令和7年高年齢者雇用状況等報告です。常時雇用する労働者が21人以上の企業237,739社の、令和7年6月1日時点の状況をまとめています。数字は発表資料と別表で確かめました。
| 企業規模 |
60歳 |
61〜64歳 |
65歳 |
66〜69歳 |
70歳以上 |
定年制の廃止 |
| 21〜30人 |
56.8% |
2.0% |
29.8% |
1.4% |
3.4% |
6.5% |
| 31〜300人 |
63.2% |
3.0% |
26.9% |
1.2% |
2.4% |
3.3% |
| 301人以上 |
71.4% |
5.2% |
21.5% |
0.3% |
0.9% |
0.7% |
| 21人以上の計 |
62.2% |
2.9% |
27.2% |
1.2% |
2.5% |
3.9% |
出典:厚生労働省、令和7年高年齢者雇用状況等報告、別表9頁の表5。令和7年6月1日時点。報告した全ての企業を100とした割合で、60歳未満の定年は0社です。
規模が大きいほど、60歳定年の割合が高くなっています。301人以上の企業は71.4%で、21〜30人の企業より14.6ポイント高い値です。65歳以上の定年(定年制の廃止を含む)は、21〜30人が41.2%、31〜300人が33.8%、301人以上が23.4%でした。
前の年と比べると、21人以上の計で60歳定年は64.4%から62.2%に下がり、65歳定年は25.2%から27.2%に上がっています。どちらも表5のかっこ内に載っている前年の値です。
自分の会社の定年は、就業規則の退職の章に書いてあります。定年に達した日に辞めるのか、その月の末日か、年度末かも就業規則で決まります。この日付が、離職票や健康保険の資格喪失日の起点になります。60歳と65歳の違いは定年は何歳かで詳しくまとめています。
退職か再雇用かを先に決める
定年を65歳未満にしている会社は、65歳までの雇用確保措置をとる義務があります(高年齢者雇用安定法9条)。定年の引上げ、定年制の廃止、継続雇用制度の導入のどれかです。令和7年の報告では、実施済みの企業のうち65.1%が継続雇用制度、31.0%が定年の引上げでした。
継続雇用制度の対象は、原則として希望者全員です。対象者を絞る基準を残せる経過措置は、令和7年3月31日で終わりました。60歳定年の会社に勤めていて、65歳まで働きたいと希望すれば、会社は雇用を続ける仕組みを用意しています。
手続きの順番は、どちらを選ぶかで変わります。
| 選ぶ道 |
主な手続き |
| 定年で退職する |
退職日の確認、離職票と源泉徴収票の受け取り、健康保険と年金の切り替え、ハローワーク |
| 同じ会社で再雇用 |
新しい労働条件通知書の確認、賃金が下がった場合の給付の確認 |
| 別の会社に移る |
退職の手続きに加え、次の会社への源泉徴収票の提出 |
再雇用では、賃金や勤務日数、契約期間が定年前と変わることがあります。労働条件通知書で、契約期間、更新の有無、更新の上限、仕事の内容を確かめます。60歳以降の賃金が定年前より大きく下がる場合は、雇用保険の高年齢雇用継続給付の、対象になることがあります。条件と支給率は高年齢雇用継続給付にまとめています。
会社に出すもの・会社から受け取るもの
定年退職でも、手続きの基本はほかの退職と同じです。会社によって書式や時期が違うので、人事の担当者に一覧をもらうのが確実です。
| 区分 |
主なもの |
何に使うか |
| 会社に出す |
退職の意思を示す書類 |
定年で辞めるのか、再雇用を希望しないのかを残す |
| 会社に出す |
退職所得の受給に関する申告書 |
退職金の源泉徴収を正しく計算してもらう |
| 会社に出す |
社員証や貸与品 |
会社の決まりに沿って返す |
| 受け取る |
離職票 |
ハローワークでの失業手当や受給期間の延長 |
| 受け取る |
給与の源泉徴収票 |
年末調整を受けていない分の確定申告、次の勤め先 |
| 受け取る |
退職金の明細 |
支払額と源泉徴収された税額の確認 |
出典:国税庁、タックスアンサーNo.1420とNo.2732、ハローワーク、基本手当の案内などをもとに整理。
退職金は「申告書」を出すかどうかで税金の引かれ方が違う
国税庁の退職所得の説明によると、退職所得は原則として、退職金の額から退職所得控除額を引き、その2分の1を課税の対象にします。「退職所得の受給に関する申告書」を出していれば、会社が税額を計算して源泉徴収するので、原則として確定申告は要りません。
退職所得控除額は、勤続年数で決まります。同じページの表では、次のとおりです。
| 勤続年数 |
退職所得控除額 |
| 20年以下 |
40万円 × 勤続年数(80万円に満たないときは80万円) |
| 20年超 |
800万円 + 70万円 × (勤続年数 − 20年) |
出典:国税庁、タックスアンサーNo.1420、退職所得控除額の計算の表。1年未満の端数は1年に切り上げます。
国税庁の例では、勤続30年の人の控除額は 800万円 + 70万円 × 10年 = 1,500万円です。前の年以前にも退職金を受け取っている場合や、同じ年に2か所以上から受け取る場合は、計算が変わることがあります。定年後の再雇用の期間に退職金が出る会社では、この点を人事の担当者に確かめます。
出していないと、源泉徴収の計算が変わり、確定申告で精算することになります。医療費控除などを受けるために確定申告をするときは、退職所得の金額も書きます。退職金が出る会社なら、申告書の提出を忘れないようにします。
離職票は再就職するつもりがなくても受け取っておく
離職票は、ハローワークで失業手当を申し込むときに使います。すぐに働くつもりがなくても、受給期間を延ばす手続きで必要になる場合があります。会社がハローワークに手続きをしてから届くので、届く時期を担当者に聞いておきます。
雇用保険:65歳の前か後かで給付が変わる
ハローワークの基本手当の案内では、定年も基本手当の支給理由の一つに挙げています。受け取るには、働く意思と能力があり、仕事を探しているのに就けない「失業の状態」であることが必要です。定年で辞めてしばらく休むつもりのときは、その間は受け取れません。
60歳以上の定年なら、受給期間を延ばせる
失業手当を受け取れる期間は、原則として離職日の翌日から1年間です。60歳以上の定年で辞めてしばらく休む場合は、申請すれば最大1年延ばせます。沖縄労働局のよくある質問では、次のように説明しています。
- 対象は、離職票の離職区分が「2E」の人
- 離職日の時点で65歳以上の人は申請できない
- 申請期間は離職日の翌日から2か月以内で、過ぎると受理されない
- 在職中には申請できない
- 必要なのは受給期間延長申請書と離職票2
- 延長を申請している間は、失業手当は出ない
2か月の期限は短いので、離職票が届いたら早めに予定を決めます。休んでから仕事を探すつもりなら延長を申請し、すぐ探すなら求職の申し込みをします。
65歳以上で辞めたら高年齢求職者給付金
65歳以上の被保険者が辞めた場合は、基本手当ではなく高年齢求職者給付金になります。ハローワークの案内では、被保険者だった期間が1年以上なら基本手当日額の50日分、1年未満なら30日分が支給されます。受け取るには、ハローワークで求職の申し込みをして、受給資格の決定を受けます。
健康保険:任意継続・国保・家族の扶養から選ぶ
会社の健康保険は、退職日の翌日に資格を失います。その後の入り方は、主に3つです。どれが得かは、収入や家族の状況で変わります。
| 入り方 |
期限・期間 |
保険料の考え方 |
| 任意継続 |
資格喪失日から20日以内に申し出。加入期間は2年間 |
退職時の標準報酬月額をもとに計算し、全額を自分で払う |
| 国民健康保険 |
住んでいる市区町村で手続き |
前年の所得などで市区町村が計算する |
| 家族の扶養 |
家族の勤め先を通じて手続き |
本人の保険料はかからないが、収入などの条件がある |
出典:協会けんぽ、任意継続のよくある質問(加入条件・加入期間・保険料)。
協会けんぽの任意継続に入るには、資格喪失日の前日までに、健康保険の被保険者期間が続けて2か月以上あることが必要です。保険料は原則2年間変わりません。在職中は会社と半分ずつ払っていた保険料を、退職後は自分で全額払います。保険料には上限があり、退職時の標準報酬月額が32万円を超えていた人は、32万円で計算されます。
健康保険組合に入っていた人は、組合ごとに手続きと保険料が違います。どれを選ぶか迷うときは、任意継続の保険料の見込みと、市区町村に聞いた国民健康保険料を並べて比べます。比べ方の詳細は退職後の健康保険と年金にあります。
年金:請求書は受給開始年齢の3か月前に届く
日本年金機構の事前送付の案内によると、受給開始年齢に達して、年金を受け取る権利ができる人には、到達する3か月前から「年金請求書(事前送付用)」が届きます。基礎年金番号、氏名、住所、年金の加入記録などが印字されています。
令和8年に送られるのは、主に次の人です。
- 63歳になる女性(昭和38年4月2日から昭和39年4月1日生まれ)で、加入期間が10年以上あり、厚生年金と共済組合の加入期間があわせて1年以上ある人
- 65歳になる人(昭和36年4月2日から昭和37年4月1日生まれ)で、加入期間の条件を満たす人
最後の加入記録が共済組合の人には、その共済組合から届きます。請求書の記録に漏れや誤りがあれば、年金事務所に問い合わせます。
年金は、受け取る権利ができても自動では始まりません。日本年金機構の請求の流れによると、紙の請求書は受給開始年齢の誕生日の前日以降に、添付書類と一緒に年金事務所へ出します。一定の条件を満たす人は電子申請も使えます。提出から約1〜2か月後に年金証書と決定通知書が届き、受け取れるのは受給権ができた月の翌月分からです。
請求しないまま5年を過ぎると、過ぎた分は時効で受け取れなくなる場合があります。定年後に再雇用で働き続ける人も、請求書が届いたら放っておかずに中身を確かめます。
60歳以降の国民年金と、配偶者の切り替え
国民年金の加入義務は、日本に住む20歳以上60歳未満の人です。60歳以上で会社を辞めた本人は、原則として国民年金に入り直す必要はありません。満額に届かない人などは、65歳まで任意加入できます。
気をつけたいのは、60歳未満の配偶者を扶養に入れていた場合です。日本年金機構の退職時の国民年金の案内では、厚生年金に入っていた本人が退職すると、扶養されていた配偶者も同時に第3号被保険者の資格を失い、第1号被保険者の手続きが要るとしています。日本年金機構の加入手続きの案内では、第1号の加入の届け出は退職日の翌日から14日以内に、住んでいる市区町村の窓口に出すとしています。
再雇用で続けるなら、新しい契約で確かめること
再雇用は、定年前の契約の続きではなく、新しい条件での契約になることが多い形です。同じ職場、同じ仕事でも、次の点は書面で確かめます。
| 確かめる点 |
見る場所 |
| 契約期間と更新の上限 |
労働条件通知書の契約期間と更新の欄 |
| 賃金の決め方 |
基本給、手当、賞与の有無と計算方法 |
| 勤務日と時間 |
週の勤務日数、1日の時間、残業の有無 |
| 仕事の内容と変更の範囲 |
担当業務、勤務地、配置転換の範囲 |
| 65歳以降の扱い |
70歳までの継続雇用などの仕組みがあるか |
賃金が下がること自体は珍しくありませんが、仕事の中身が変わらないのに手当がなくなるなら、理由を聞きます。有期契約の人と正社員との間で、不合理な待遇の差を設けることは、パートタイム・有期雇用労働法で禁じられています。
勤務日数や時間を減らすと、健康保険や厚生年金の、加入条件から外れることがあります。外れた場合は、退職したときと同じく、健康保険の切り替えが要ります。減らす前に、加入が続くかを会社に確かめます。
70歳まで働ける仕組みがある会社の割合(都道府県別)
65歳から70歳までの就業機会を確保することは、会社の努力義務です。定年の引上げ、継続雇用、業務委託契約の制度などの方法があります。令和7年の報告では、実施済みの企業は34.8%でした。都道府県別では、地域によって差があります。
| 順位 |
都道府県 |
70歳までの就業確保措置の実施済み企業の割合 |
| 1 |
島根 |
47.0% |
| 2 |
大分 |
45.7% |
| 3 |
岩手 |
45.0% |
| 4 |
青森 |
44.8% |
| 5 |
鹿児島 |
44.3% |
| ― |
全国計 |
34.8% |
| 43 |
新潟 |
31.0% |
| 44 |
大阪 |
30.7% |
| 45 |
富山 |
29.4% |
| 45 |
京都 |
29.4% |
| 47 |
東京 |
27.8% |
出典:厚生労働省、令和7年高年齢者雇用状況等報告、別表10頁の表7。令和7年6月1日時点、報告した企業に占める割合。公表値が同じ県は同順位としています。
この表は、会社に70歳まで働ける仕組みがあるかの割合です。実際に70歳まで働いている人の割合ではありません。全国の値は前年の31.9%から上がっています。定年後も同じ地域で働き続けたいなら、応募先や今の会社に、65歳以降の仕組みがあるかを聞いてみます。
手続きの時期をまとめる
最後に、定年で辞める人の手続きを時期の順に並べます。会社の手続きの進み方で前後するので、期限のあるものから先に片づけます。
| 時期 |
やること |
| 定年が近づいたら |
再雇用を希望するか決め、会社に伝える。就業規則で退職日を確かめる |
| 退職前 |
退職所得の受給に関する申告書を出す。離職票が届く時期を聞く |
| 退職日の翌日から14日以内 |
配偶者が第3号だった場合、国民年金の切り替えを届け出る |
| 資格喪失日から20日以内 |
任意継続を選ぶなら申し出る |
| 離職日の翌日から2か月以内 |
休んでから探すなら、受給期間の延長を申請する |
| 受給開始年齢の3か月前から |
年金請求書(事前送付用)が届く。誕生日の前日以降に提出する |
出典:各機関の案内(本文の各リンク先)をもとに整理。2026年10月25日に確認。
その会社の実際の数字は、求人票・面接・しょくばらぼで確かめる
規模別の定年や都道府県別の割合は、今の会社や応募先が、平均と比べてどうかを見る物差しです。その会社の定年が何歳で、再雇用後にどんな条件で働けるかは、就業規則、求人票、面接で確かめます。
厚生労働省のしょくばらぼでは、掲載している企業の平均勤続年数や、有給休暇の取得状況などを見られます。定年後も働き続けたい会社かどうかを、数字とあわせて比べます。