退職勧奨は、会社が社員に「辞めてほしい」と勧め、合意で退職してもらうことです。応じるかどうかは本人が決めます。断っても、それだけで解雇になるわけではありません。厚生労働省の令和7年度個別労働紛争解決制度の施行状況では、労働局などに寄せられた民事上の相談のうち、退職勧奨は26,022件でした。10年前の平成28年度は21,901件です。
勧めに応じて辞めた人は、ハローワークの基準で特定受給資格者に当たります。失業保険の給付日数などが、自分から辞めた場合と変わります。ただ、早期退職優遇制度のように、前からある制度に応募した場合は当たりません。
制度と統計は、厚生労働省とハローワークの公表資料で2026年10月25日に確かめました。この記事は一般的な仕組みの説明で、自分の場合に違法かどうか、給付がいくらかは、労働局やハローワークで確かめます。
退職勧奨とは:会社からの「辞めませんか」という申し入れ
退職勧奨は法律の用語ではありません。厚生労働省のドメインにある愛知県雇用労働相談センターのサイトに、雇用指針が載っています。そこでは、雇用関係にある人に、自発的な退職の意思を作ってもらうための、説得などの行為と説明しています。勧められた人は、何の拘束もなく自由に決められるとも書いています。
解説は雇用指針の該当頁で読めます。指針は、裁判例の分析は一般的な傾向で、個別の判断は事案ごとの状況で決まると断っています。
会社が一方的に契約を終わらせる解雇とは違います。退職勧奨は、あくまで社員の同意を求める話し合いです。同意しなければ、雇用契約はそのまま続きます。
希望退職の募集とも分けて考える
人員を減らすときに、会社が全体に向けて「希望退職者」を募ることがあります。これも応募するかは本人が決めます。退職勧奨は、特定の人に個別に勧める点が違います。
雇用保険では、この2つの扱いが分かれることがあります。あとの節で、ハローワークの基準の文言を見ます。
退職勧奨は断れる:違法とされた勧め方
退職を勧めること自体は、すぐに違法になるわけではありません。問題になるのは勧め方です。
雇用指針は、退職勧奨を違法とした最高裁判所の1980年の判決を挙げています。勧められた人が応じないと表明した後も、辞めるまで続けると繰り返し言い、短い期間に何度も、長い時間をかけて勧めた事案です。応じなければ、組合の要求にも応じないという態度も示していました。裁判所は、このような勧め方を違法と判断しました。
この判決から読めるのは、断った人に同じ話を何度も長く続けると、問題になりうるということです。どの程度なら違法かは、回数、時間、言葉、断った後の対応などを合わせて個別に判断されます。
| 面談の様子 |
確かめること |
| 断ったのに何度も呼ばれる |
面談の日時と回数を記録する |
| 1回の面談が長い |
始まりと終わりの時刻を残す |
| 辞めないと不利益があると言われる |
誰が何と言ったかを書き留める |
| 仕事を取り上げられた |
業務の指示と変化を日付で残す |
| 退職届をその場で求められる |
署名せず、持ち帰ると伝える |
断るときは、「退職するつもりはありません」と短く伝えれば足ります。理由を長く説明する義務はありません。言った日時と相手、相手の返事をメモにしておきます。メールで伝えると、記録として残ります。
応じない人を解雇できるわけではない
断った後に、会社が解雇に進むことはあります。ただし解雇には別の決まりがあります。労働契約法16条は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は、権利の濫用として無効と定めています。
退職勧奨を断ったことは、それだけで解雇の理由にはなりません。解雇を言い渡されたら、解雇の理由を書いた証明書を求めることができます。手順は解雇予告手当の記事にまとめています。
退職勧奨と解雇の違い
どちらも会社を離れる話ですが、手続きと書類が違います。混ぜて考えると、後で離職理由や受け取るお金で困ります。
| 比べる点 |
退職勧奨に応じた場合 |
解雇された場合 |
| 契約が終わる理由 |
本人と会社の合意 |
会社からの一方的な終了 |
| 本人の同意 |
必要 |
不要 |
| 30日前の予告 |
法律上の決まりはない |
原則として必要 |
| 解雇予告手当 |
対象ではない |
予告が足りない日数分が要る |
| 争うときの論点 |
合意が自由な意思だったか |
理由と相当性があるか |
| 雇用保険の扱い |
特定受給資格者に当たる |
重責解雇を除き当たる |
退職勧奨で合意すると、退職日や退職金の上乗せなど条件を話し合えます。その分、書面にサインすると「自分で合意した」記録が残ります。後から取り消したいと思っても、簡単ではありません。
解雇では、労働基準法20条の予告か、予告に足りない日数分の、平均賃金を払う必要があります。退職勧奨に応じた退職には、この決まりは当てはまりません。退職日をいつにするかは、話し合いで決めます。
雇用保険では会社都合になるか:ハローワークの基準
失業保険(雇用保険の基本手当)の日数は、離職理由で変わります。会社の都合で辞めざるを得なかった人は「特定受給資格者」として扱われます。
ハローワークの特定受給資格者の範囲には、「解雇」等により離職した者の項目の一つとして、事業主から直接または間接に退職を勧められ、それで離職した人が挙がっています。そのうえで、前から常に設けられている早期退職優遇制度などに、応募して辞めた場合は、これに当たらないと書いています。
同じページの特定理由離職者の項目には、人員整理などの希望退職の募集に、応じて辞めた人も載っています。個別に勧められたのか、全体の募集に応じたのかで、当てはまる項目が変わります。
| 辞め方 |
ハローワークの範囲での扱い |
| 個別に退職を勧められて応じた |
特定受給資格者の項目にある |
| 前からある早期退職優遇制度に応募 |
特定受給資格者には当たらない |
| 人員整理の希望退職に応募 |
特定理由離職者の項目にある |
| 自分の意思で退職を申し出た |
正当な理由がなければ自己都合 |
出典:ハローワーク、特定受給資格者と特定理由離職者の範囲の概要。2026年10月25日確認。表は文言を短くまとめたもので、実際の判断は個別の事情によります。
自己都合と会社都合で、給付日数がどれだけ違うかは自己都合と会社都合の記事に表を載せています。
離職票の離職理由を必ず見る
退職すると、会社から離職票が届きます。離職理由の欄が「自己都合」になっていないかを確かめます。退職勧奨に応じたのに自己都合と書かれていたら、ハローワークで手続きをするときに申し出ます。
そのとき役に立つのが、面談の記録や会社からのメールです。「会社から勧められた」と示せる資料があると、説明しやすくなります。退職届に「一身上の都合」と書くよう求められたら、そのまま書く前に、勧奨による退職だと分かる書き方に、できないか聞きます。
退職勧奨の相談件数:10年の推移
厚生労働省の施行状況の資料には、労働局の総合労働相談コーナーなどに寄せられた相談を、内容別に数えた表があります。退職勧奨の列だけを10年分並べました。
| 年度 |
相談件数 |
相談の内訳に占める割合 |
| 平成28年度 |
21,901件 |
7.1% |
| 平成29年度 |
20,736件 |
6.8% |
| 平成30年度 |
21,125件 |
6.5% |
| 令和元年度 |
22,752件 |
6.6% |
| 令和2年度 |
25,560件 |
7.4% |
| 令和3年度 |
24,603件 |
7.0% |
| 令和4年度 |
24,178件 |
7.6% |
| 令和5年度 |
25,234件 |
8.0% |
| 令和6年度 |
25,604件 |
8.1% |
| 令和7年度 |
26,022件 |
7.9% |
出典:厚生労働省、令和7年度個別労働紛争解決制度の施行状況、参考第1表(相談内容別の推移)の退職勧奨の列。民事上の個別労働関係紛争の相談で、1回の相談が複数の内容にまたがるときは、それぞれ数えた延べ件数です。
令和7年度の26,022件は、この10年で最も多い数です。割合は令和6年度の8.1%が最も高く、令和7年度は7.9%でした。数えているのは相談の件数で、退職勧奨を受けた人の数ではありません。違法な勧奨があった件数でもありません。
件数の多い年度ランキング
同じ列を、件数の多い順に並べ替えました。
| 順位 |
年度 |
相談件数 |
| 1 |
令和7年度 |
26,022件 |
| 2 |
令和6年度 |
25,604件 |
| 3 |
令和2年度 |
25,560件 |
| 4 |
令和5年度 |
25,234件 |
| 5 |
令和3年度 |
24,603件 |
| 6 |
令和4年度 |
24,178件 |
| 7 |
令和元年度 |
22,752件 |
| 8 |
平成28年度 |
21,901件 |
| 9 |
平成30年度 |
21,125件 |
| 10 |
平成29年度 |
20,736件 |
出典:同資料、参考第1表の退職勧奨の列。
令和2年度に前の年度から2,808件増え、その後も2万4千件台から2万6千件台で推移しています。増えた理由までは、この表には書かれていません。
同じ表の令和7年度では、解雇の相談が32,651件、自己都合退職の相談が38,386件でした。雇止めは15,775件です。退職をめぐるこれらの項目の中で、退職勧奨は自己都合退職と解雇に次ぐ件数です。合意で辞める形をとる話でも、労働局に相談が寄せられているということです。
相談から、労働局の助言やあっせんへ進んだ件数
総合労働相談コーナーでの相談のあと、労働局長に「会社へ助言・指導してほしい」と申し出たり、紛争調整委員会のあっせん(第三者が間に入る話し合い)を申請したりできます。同じ資料から、退職勧奨の件数を並べます。
| 年度 |
助言・指導の申出 |
あっせんの申請 |
| 平成28年度 |
614件 |
374件 |
| 令和元年度 |
613件 |
352件 |
| 令和4年度 |
527件 |
258件 |
| 令和5年度 |
556件 |
278件 |
| 令和6年度 |
638件 |
344件 |
| 令和7年度 |
637件 |
362件 |
出典:同資料、参考第3表(助言・指導申出件数の推移)と参考第7表(あっせん申請件数の推移)の退職勧奨の列。どちらも内容別の延べ件数です。抜粋した年度だけを載せています。
令和7年度の退職勧奨は、助言・指導の申出全体の5.6%、あっせん申請全体の7.4%です。相談の段階で整理がつくことも多く、次の手続きに進む件数は相談より大きく減ります。
あっせんは、裁判とは別の話し合いの場です。資料の流れ図のとおり、相手が参加しなければ打ち切りになります。合意できれば、退職の条件や解決金を取り決めることもできます。相談先は、厚生労働省の総合労働相談コーナーの一覧で探せます。
退職勧奨の面談で確かめること
面談は、突然呼ばれることが多いものです。その場で返事をしなくてかまいません。「持ち帰って考えます」と伝え、聞いた内容を書き留めます。
| 聞くこと |
理由 |
| なぜ自分に勧めるのか |
理由が仕事の評価か、会社の事情かを知る |
| 退職日はいつの想定か |
有給休暇の消化と次の仕事の準備に関わる |
| 退職金の額と上乗せ |
規程どおりの額か、上乗せがあるかを分ける |
| 残った有給休暇の扱い |
消化か、買い取りの話があるかを確かめる |
| 離職票の離職理由 |
勧奨による退職と書かれるかを確かめる |
| 応じない場合どうなるか |
配置や仕事の変更の話があるかを知る |
| 返事の期限 |
考える時間がどれだけあるかを知る |
条件を書いた書面(退職合意書など)を見せられたら、持ち帰って読みます。退職日、退職金の額と支払日、離職理由の書き方、口外しない約束の範囲などを確かめます。分からない点を残したまま署名しないことです。
退職金は規程の額と上乗せを分ける
退職金がある会社では、就業規則や退職金規程に計算の方法が書かれています。まず規程どおりの額を自分で確かめ、そのうえで上乗せがいくらかを聞きます。合計額だけを示されると、上乗せが本当にあるのか分かりません。
残った有給休暇は、退職日までに使うのが基本です。引き継ぎとの兼ね合いで使い切れないときは、退職日を後ろにずらせないか相談します。
応じるなら条件を書面に残す
辞めてもよいと思ったら、条件を話し合います。上乗せの退職金、退職日までの有給休暇の消化、再就職の支援などを、口頭の約束で終わらせず書面にします。
退職日を決めたら、健康保険と年金の切り替え、住民税の払い方も考えます。退職後の手続きは退職後の健康保険と年金にまとめています。
断ったあとに起きやすいこと
退職しないと伝えたあと、異動や担当の変更を言い渡されることがあります。配置転換は、就業規則や契約で会社に命じる権限があれば、原則として従うことになります。ただし、業務上の必要がない場合や、退職させる目的で行う場合は、権利の濫用として争われることがあります。
ここでも記録が役に立ちます。いつ、誰から、どんな理由で異動を告げられたか。異動先の仕事が、これまでの経験とどう違うか。断った時期と異動の時期の近さも、後で説明するときの材料になります。
評価や賞与が下がった場合は、評価の基準と、下がった理由の説明を求めます。給与が減ったときは、減った項目と根拠になった規程を確かめます。
一人で抱えていると、話し合いの席で言い返せず、そのまま合意に流れがちです。家族や信頼できる人に経過を話しておくと、自分が何に困っているのかが見えやすくなります。
退職勧奨を受けたときの順番
気持ちが揺れている日に決めると、後で迷います。次の順に進めると、選べる道を減らさずに済みます。
- 面談の日時、相手、言われたことを書き留める
- その場で署名や返事をせず、持ち帰る
- 雇用契約書、就業規則、退職金の規程を見直す
- 続けたいか、条件次第で辞めるかを決める
- 続けるなら、退職しないとはっきり伝える
- 辞めるなら、条件を書面にしてから合意する
- 迷うときや強く迫られるときは、労働局に相談する
退職勧奨を受けたことは、自分の能力が否定されたこととは限りません。会社の事業や人員の都合で行われることもあります。次の会社を探すなら、面接で辞めた事情を聞かれたときに、事実を短く話せるよう整理しておきます。
その会社の実際の数字は、求人票・面接・しょくばらぼで確かめる
退職勧奨のような出来事は、外からは見えにくいものです。転職先を選ぶときは、離職の状況や平均勤続年数など、公開されている数字から職場の様子を読みます。
厚生労働省のしょくばらぼでは、掲載企業の採用者数と離職者数、平均勤続年数などを見られます。求人票の情報と合わせ、分からない点は面接で聞きます。退職を伝える時期は、退職は何日前の記事で整理しています。