給与のデジタル払いは、会社が、労働者の同意を得て、厚生労働大臣が指定した資金移動業者の口座へ賃金を払う方法です。いわゆる「○○ペイ」のアカウントに給料を入れてもらう形で、労働基準法施行規則7条の2第1項第3号に定めがあります。2023年4月1日施行の省令改正で認められました。
厚生労働省の一覧では、2026年7月1日現在、指定を受けた資金移動業者は4社です。口座の残高上限を100万円以下にすることが指定の要件で、各サービスが決めている受入上限額は10万円から30万円です。デジタル払いは選択肢の1つで、希望しなければ今までどおり銀行口座で受け取れます。会社は強制できません。
この記事の内容は、厚生労働省の賃金のデジタル払いのページとe-Govの条文、厚生労働省の委託調査で2026年10月26日に確認しました。サービスの手数料や細かい条件は、各業者の案内で確かめてください。
給与の払い方は3つ:現金が原則、同意があれば口座
労働基準法24条は、賃金を通貨で払うのが原則と定めています。そのうえで労働基準法施行規則7条の2が、労働者の同意を得た場合に使える方法を3つ挙げています。
| 号 |
支払い先 |
主な条件 |
| 1号 |
労働者が指定する銀行その他の金融機関の預貯金口座 |
労働者の同意 |
| 2号 |
労働者が指定する証券会社の証券総合口座(一定の要件を満たす預り金) |
労働者の同意 |
| 3号 |
厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者の口座(デジタル払い) |
労働者の同意。1号か2号も選べるようにし、要件を説明したうえで同意を得る |
3号のただし書は、デジタル払いを使う場合、会社は労働者が銀行口座か証券総合口座での支払いも選べるようにし、指定の要件について説明したうえで同意を得なければならないと定めています。給料の5原則のうち「通貨払い」の例外にあたる部分で、5原則そのものは給料が遅れた・払われないときで説明しています。
指定を受けた資金移動業者は4社
厚生労働省の指定資金移動業者一覧(2026年7月1日現在)です。業者名、サービス名、上限額は一覧の記載どおりです。
| 指定番号 |
指定年月日 |
指定資金移動業者 |
サービス名称 |
受入上限額 |
| 第00001号 |
令和6年8月9日 |
PayPay株式会社 |
PayPay給与受取 |
20万円 |
| 第00002号 |
令和6年12月13日 |
株式会社リクルートMUFGビジネス |
COIN+(スタンダード) |
30万円 |
| 第00003号 |
令和7年3月19日 |
楽天Edy株式会社 |
楽天ペイ給与受取 |
10万円 |
| 第00004号 |
令和7年4月4日 |
auフィナンシャルサービス株式会社 |
au PAY 給与受取 |
10万円 |
同じページの審査状況では、指定申請があった資金移動業者は累計4社、審査中は0社です(2026年7月1日現在)。厚生労働省の制度の概要によると、資金決済法で登録された資金移動業者は2026年1月31日時点で82事業者あり、そのうち賃金の支払いに使えるのは指定を受けた業者だけです。
指定は業者ごとに審査され、要件を満たさなくなった場合、厚生労働大臣は指定を取り消せます(制度の概要の(3))。一覧には各業者の保証機関も載っています。PayPayは三井住友海上火災保険、リクルートMUFGビジネスは三菱UFJ銀行、楽天Edyは楽天信託、auフィナンシャルサービスはauじぶん銀行です。
指定の要件:100万円以下の上限、破綻時の保証など
厚生労働省の制度の概要は、指定の要件を7つ挙げています。
| 要件 |
内容 |
| 1 |
口座残高の上限額を100万円以下に設定する。超えた場合も速やかに100万円以下にする措置がある |
| 2 |
破産などで債務の履行が難しくなったとき、労働者に対する債務を速やかに保証する仕組みがある |
| 3 |
労働者の意に反する不正な取引など、労働者の責任でない理由で損失が出たとき、補償する仕組みがある |
| 4 |
最後に口座残高が変動した日から少なくとも10年は残高が有効 |
| 5 |
ATMなどで1円単位で受け取れ、少なくとも毎月1回は手数料なしで受け取れる。口座への資金移動も1円単位でできる |
| 6 |
賃金の支払いの業務の実施状況と財務状況を、適時に厚生労働大臣に報告できる体制がある |
| 7 |
業務を適正かつ確実に行う技術的能力と、十分な社会的信用がある |
100万円の上限について、制度の概要は、破綻時に保証機関から速やかに支払える額を最大100万円と想定していることなどを踏まえ、破綻時にも口座残高が全額保証されることを担保するための要件だと説明しています。
預金とは違う:破綻時と不正出金のときの扱い
厚生労働省の同意書の様式例の裏面にある留意事項は、資金移動業者の口座の資金は預金と違い、送金や決済のためのものだとしています。銀行が破綻したときの預金保険制度の対象にはなりません。その代わり、指定業者が破綻した場合は、保証機関から口座残高の全額が速やかに弁済される仕組みです。
不正に出金された場合、労働者に過失がなければ損失の全額が補償されます。過失がある場合も一律に補償しない扱いにはせず、少なくとも個別対応とされています。補償の要件として通知の期限を設ける場合、その期間は損失発生日から少なくとも30日以上確保することになっています。
会社がしなければならないこと
デジタル払いは、労働者が希望するだけでは始まりません。厚生労働省のページのよくある質問によると、会社側には次の手順が要ります。
| 会社の手順 |
内容 |
| 労使協定を結ぶ |
過半数の労働組合(ない場合は過半数代表者)と、対象となる労働者の範囲や、取り扱う指定資金移動業者の範囲などを決める |
| 選択肢を示す |
デジタル払いを示すときは、銀行口座か証券総合口座もあわせて選択肢として示す |
| 留意事項を説明する |
同意書の裏面の留意事項(預金との違い、上限額、破綻時の保証、不正出金時の補償など)を説明する |
| 個別の同意を得る |
希望する労働者から、金額や口座情報を書いた同意書を受け取る |
同意書の留意事項は、会社が現金か資金移動業者の口座かの2つだけを示した場合や、形式的に選択肢を示していても実質的にデジタル払いを強制している場合は、労働基準法24条に違反し、罰則の対象となり得るとしています。
デジタル払いの労使協定は、会社と労働者の側の両方が導入すると決めたときに結ばれるものです。厚生労働省は、労働者だけでなく使用者にも導入を強制するものではないとしています。
デジタル払いで受け取るまでの手続き
厚生労働省の労働者向けリーフレットでは、手続きは次の順です。
- 勤め先に、デジタル払いの労使協定があるかを確かめる。協定には、使える指定資金移動業者が決められている
- 協定に入っている業者のうち、どのサービスを使うかを決める。複数の業者を選ぶこともできる
- 会社(または業者)から留意事項の説明を受け、同意書を会社に出す
- 指定資金移動業者のアプリなどから利用申請をする。このとき保証機関との保証契約も結ぶ
同意書に書く主な項目は次のとおりです。
| 同意書の項目 |
書くこと |
| デジタル払いを希望する賃金の範囲と金額 |
定期賃金【金額】円、賞与【金額】円、退職金【金額】円 など |
| 指定資金移動業者とサービス |
業者名、サービス名、口座番号(アカウントID)、名義人 |
| 支払開始の希望時期 |
【年】年【月】月【日】日 |
| 代替口座 |
受入上限額を超えた分や、破綻時の弁済を受け取る銀行口座などの情報 |
リーフレットは、資金移動業者の口座は預金をするためでなく支払いや送金に使うためのものなので、実際に支払いなどに使う見込みの額を設定するよう求めています。給料の全額ではなく、一部だけをデジタル払いにし、残りを銀行口座で受け取ることもできます。後から銀行口座に戻すこともできます。
賞与や退職金も対象にできる
同意書の様式例では、デジタル払いを希望する賃金の範囲として、定期賃金、賞与、退職金の欄がそれぞれあります。毎月の給料だけでなく、賞与の一部をデジタル払いにすることも、同意書の書き方の上では想定されています。
ただし、受入上限額を超えた分は代替口座へ送られます。賞与や退職金のように額が大きいものは、上限額との関係を先に確かめます。留意事項は、希望額は口座残高の上限(100万円以下)と、業者が1日あたりの払出上限額を決めている場合はその額以下に設定する必要があるとしています。
有効期限と払い出し
指定の要件で、口座残高は最後に変動した日から少なくとも10年は有効です。長く使わない口座に残高を置いたままにしないよう、使わなくなったら銀行口座へ払い出しておきます。払い出しは1円単位ででき、少なくとも毎月1回は手数料がかかりません。
実際に使っている人は1.5%
厚生労働省の委託で行われた令和7年度 賃金のデジタル払いに関するニーズ調査報告書の結果です。労働者調査は2026年1月のWebモニター調査(回収1万件)、企業調査は2026年1月から2月のWebモニター・郵送調査(回収2,002件)です。
| 労働者の給与の受取方法(複数回答) |
割合 |
| 銀行口座等の預貯金口座への支払い |
85.3% |
| 現金手渡し |
8.1% |
| 証券総合口座への支払い |
1.6% |
| 資金移動業者の口座への支払い(デジタル払い) |
1.5% |
| 労働者のデジタル払いの利用意向 |
割合 |
| 利用したくない |
42.4% |
| どちらとも言えない |
42.3% |
| 今後利用したい |
13.8% |
| 既に利用している |
1.5% |
制度そのものを「知らない」と答えた人は42.3%、「名前のみ知っている」は37.9%、「名前も知っており、制度内容も理解している」は19.8%でした(図表2-6)。
| 企業の導入・検討状況 |
割合 |
| 導入の検討をしていない |
62.7% |
| 従業員からの要望があれば、導入を検討したい |
18.0% |
| 導入しない予定である |
15.9% |
| 導入したいが、いくつか障壁がある |
1.1% |
| 導入している |
0.5% |
| 今後導入の検討をする予定である |
0.5% |
| 今後導入する予定である |
0.3% |
| その他 |
1.0% |
利用したくないと答えた4,241人の理由(複数回答)は、「給与の受取方法を追加する必要性を感じない」48.5%、「給与の受取方式を変更したくない」32.5%、「賃金のデジタル払いに抵抗感がある」28.1%の順でした(図表2-17)。全員に聞いた懸念点では、「安全性に不安がある」32.8%、「現金での引き落としや振り込みが必要な支払いがある」29.3%が上位で、「懸念点は無い」は27.3%です(図表2-13)。
利用意向がある人(4,309人)に月に受け取りたい金額を聞くと、「1万円~5万円未満」が32.5%、「5万円~10万円未満」が23.8%、「5千円~1万円未満」が13.0%の順でした(図表2-20)。上位3つは、いずれも10万円未満の区分です。サービスの受入上限額(10万円〜30万円)の範囲に収まる金額を選ぶ人が多いことになります。
導入している企業は0.5%で、「従業員からの要望があれば検討したい」が18.0%です。デジタル払いで受け取りたい人は、まず勤め先の労使協定の有無を確かめ、なければ労働組合や過半数代表者を通して相談することになります。
選ぶ前に確かめること
- 受入上限額:サービスごとに10万円から30万円まで違う。超えた分は代替口座へ送られ、その送金手数料を負担する場合がある
- 払い出しの方法と手数料:毎月1回は手数料なしで払い出せるが、2回目以降や出金先は業者で違う
- 給与明細との照合:デジタル払いの額と銀行振込の額を合わせて、明細の差引支給額と一致するかを見る
- 代替口座:上限を超えた分と、破綻時の弁済を受け取る口座。ふだん使う銀行口座を登録しておく
- やめるとき:受け取り方法を銀行口座などに戻すことはできる。いつの給料から切り替わるかを会社に確かめる
労働者向けのリーフレットは、利用したい業者が勤め先の労使協定に入っていない場合も、会社や労働組合などに相談するよう案内しています。使えるサービスは会社ごとに違うので、今使っている決済アプリがそのまま使えるとは限りません。
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