カスタマーハラスメント(カスハラ)は、2026年(令和8年)10月1日から、会社に対策の義務がつきました。改正後の労働施策総合推進法33条により、事業主は、顧客や取引先などの言動で、業務の性質などに照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、働く人の就業環境が害されることのないよう、相談体制の整備や抑止のための措置を講じなければなりません。会社の規模による猶予はなく、全ての事業主が対象です。
厚生労働省の令和5年度「職場のハラスメントに関する実態調査」では、過去3年間に顧客等からの著しい迷惑行為を受けた人は10.8%でした。この記事の条文、政令、指針、リーフレットは、2026年10月26日に厚生労働省とe-Gov法令検索で確かめました。目の前の出来事がカスハラに当たるかどうかは、言動の内容、手段、経緯などを総合して判断されるもので、この記事で個別に決めることはできません。
2026年10月1日から:カスハラ対策が会社の義務に
改正は、令和7年6月11日に公布された「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和7年法律第63号)です。施行期日は、令和8年政令第17号で令和8年10月1日と定められました。
同じ改正法の中で、施行日が違うものがあります。治療と就業の両立支援の努力義務と、女性活躍推進法の情報公表の拡大は、令和8年4月1日から施行されています。
| 改正の中身 |
根拠の法律・条文 |
施行日 |
対象 |
| カスハラ対策の措置義務 |
労働施策総合推進法33条 |
令和8年10月1日 |
全ての事業主 |
| 求職者等へのセクハラ対策の措置義務 |
男女雇用機会均等法13条 |
令和8年10月1日 |
全ての事業主 |
| 治療と就業の両立支援 |
労働施策総合推進法27条の3 |
令和8年4月1日 |
全ての事業主(努力義務) |
| 男女間賃金差異・女性管理職比率の公表 |
女性活躍推進法20条 |
令和8年4月1日 |
常時雇用する労働者101人以上 |
この改正で、それまでのパワハラの条文(30条の2)は31条に移り、カスハラは33条に新しく置かれました。古い資料の条番号は、確認日現在の番号と違います。
カスハラの定義:3つの要素を全て満たすもの
厚生労働省のリーフレット(詳細版)と、指針(令和8年厚生労働省告示第51号)は、職場のカスハラを次の3つを全て満たすものとしています。
| 要素 |
中身 |
| ①顧客等の言動 |
顧客、取引の相手方、施設(駅、空港、病院、学校、福祉施設、公共施設等)の利用者など、事業に関係を持つ人の言動。今後商品を買ったりサービスを使ったりする可能性がある人も含む |
| ②社会通念上許容される範囲を超えたもの |
言動の内容が契約内容からみて相当性を欠くもの、または手段や態様が相当でないもの |
| ③就業環境が害されるもの |
身体的・精神的な苦痛を与えられ、能力の発揮に重大な悪影響が出るなど、働くうえで見過ごせない程度の支障が出ること |
電話やSNSなどインターネット上の言動も含まれます。取引先の担当者や、施設の利用者の家族、施設の近隣住民も「顧客等」の例に挙がっています。店頭のお客様だけの話ではありません。
「内容」と「手段・態様」の一方だけでも当たり得る
②の判断には、内容と手段の2つの面があります。リーフレットの典型例です。
| 言動の内容が範囲を超えるもの |
手段や態様が範囲を超えるもの |
| そもそも要求に理由がない、商品・サービスと全く関係のない要求 |
身体的な攻撃(暴行、傷害等) |
| 契約などで想定しているサービスを著しく超える要求 |
精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要等) |
| 対応が著しく困難、または不可能な要求 |
威圧的な言動 |
| 不当な損害賠償要求 |
継続的、執拗な言動 |
| ― |
拘束的な言動(不退去、居座り、監禁) |
リーフレットは、内容と手段の一方だけが範囲を超える場合でも当たり得るとしています。正当な苦情でも、土下座を求める、何時間も帰らないといった手段をとれば対象になり得ます。
一方で、顧客等からの苦情の全てがカスハラに当たるわけではありません。障害のある人が、不当な差別的取扱いをしないよう求めることや、社会的障壁の除去が必要だと意思を伝えること自体は、カスハラに当たらないとも明記されています。判断では、言動の目的、経緯、業種・業態、頻度、働く人の心身の状況などを総合的に考えます。
会社が講じる措置:「特に悪質なカスハラ」への備えも義務
リーフレットは、会社が必ず講じる措置を次のように示しています。パワハラの措置と似ていますが、違う点があります。
| 区分 |
会社がやること |
| 方針の明確化と周知・啓発 |
①毅然とした態度で対応し、労働者を保護する方針を明確にして周知する ②カスハラの内容と、あらかじめ定めた対処の内容を労働者に周知する |
| 相談体制の整備 |
③相談窓口を定めて周知する ④窓口担当者が適切に対応できるようにする |
| 事後の迅速・適切な対応 |
⑤事実関係を迅速かつ正確に確認する ⑥被害者への配慮の措置を適正に行う ⑦再発防止の措置を講じる |
| 抑止のための措置 |
⑧特に悪質と考えられるカスハラへの対処方針を定めて周知し、対処できる体制を整える |
| あわせて講じる措置 |
⑨相談者等のプライバシーを守る ⑩相談したこと等を理由に不利益な扱いをしない旨を定めて周知する |
②の「対処の内容」の例として、管理監督者にその場の対応の指示を仰ぐ、できる限り一人で対応させない、犯罪に当たり得る言動は警察へ通報する、本社・本部に情報を共有して指示を仰ぐ、が挙がっています。行為者は社外の人なので、パワハラのような「行為者への処分」の代わりに、抑止の措置(⑧)が入っています。
会社の具体的な進め方は、厚生労働省のカスタマーハラスメント対策企業マニュアルにもまとめられています。
業種別ランキング:生活関連サービス業、娯楽業16.6%が最も高い
厚生労働省の令和5年度「職場のハラスメントに関する実態調査」報告書で、過去3年間に顧客等からの著しい迷惑行為を一度以上経験した人の割合を、勤務先の業種別に並べました。調査は20〜64歳の労働者8,000人へのインターネット調査(2024年1月実施)で、全体は10.8%です。調査はカスハラ対策の義務化の前に行われたもので、当時の言葉は「顧客等からの著しい迷惑行為」です。
| 順位 |
業種 |
受けた割合 |
回答者数 |
| 1 |
生活関連サービス業、娯楽業 |
16.6% |
235人 |
| 2 |
卸売業、小売業 |
16.0% |
855人 |
| 2 |
宿泊業、飲食サービス業 |
16.0% |
200人 |
| 4 |
複合サービス事業(郵便局、農業協同組合等) |
15.5% |
71人 |
| 5 |
医療、福祉 |
15.1% |
635人 |
| 6 |
金融業、保険業 |
14.6% |
471人 |
| 7 |
学術研究、専門・技術サービス業 |
13.4% |
172人 |
| 8 |
運輸業、郵便業 |
12.8% |
515人 |
| 9 |
電気・ガス・熱供給・水道業 |
12.3% |
154人 |
| 10 |
教育、学習支援業 |
12.1% |
107人 |
| 11 |
建設業 |
11.6% |
482人 |
| 12 |
不動産業、物品賃貸業 |
11.1% |
189人 |
| 13 |
その他サービス業 |
10.5% |
935人 |
| 14 |
情報通信業 |
7.7% |
711人 |
| 15 |
製造業 |
4.6% |
1,996人 |
お客様と直接やりとりする業種が上に並びます。報告書は、接客の頻度が高いほど経験した割合が高い結果だったとしています。製造業は4.6%と低いものの、営業や品質の問い合わせ対応の部署なら事情は変わります。業種の順位は、配属先の仕事ほど当てになりません。
受けた内容は、「継続的な(繰り返される)、執拗な(しつこい)言動」57.3%、「威圧的な言動」50.2%、「精神的な攻撃」33.1%、「明らかに業務内容と関係のない言動(セクハラ、プライバシーの侵害等)」21.7%、「拘束的な言動」15.8%、「身体的な攻撃」5.9%でした(図表139、861人の複数回答)。受けた後の対応は「上司に引き継いだ」37.4%、「謝り続けた」32.1%です。
会社側の数字:医療、福祉は53.9%の企業に相談があった
同じ調査の企業調査(従業員30人以上の7,780社)では、過去3年間に顧客等からの著しい迷惑行為の相談があった企業は27.9%でした。業種別では「医療、福祉」53.9%、「宿泊業、飲食サービス業」46.4%、「不動産業、物品賃貸業」43.4%の順です(図表29)。相談件数が「増加している」と答えた企業の割合が「減少している」を上回ったのは、6種類のハラスメントの中でカスハラだけでした。
規模別:義務化の前に対策をしていた企業は30.1%
義務化の前の取組の状況は、厚生労働省の令和7年度雇用均等基本調査(企業調査)付属統計表第19表でわかります。調査は令和7年10月1日現在で、常用労働者10人以上の企業が対象です。
| 企業規模 |
一定の取組をしている |
今後取組を検討している |
取り組んでいない |
| 5,000人以上 |
73.9% |
20.0% |
6.1% |
| 1,000〜4,999人 |
59.6% |
26.1% |
14.3% |
| 300〜999人 |
45.3% |
35.6% |
19.0% |
| 100〜299人 |
36.3% |
30.4% |
33.3% |
| 30〜99人 |
30.2% |
33.0% |
36.8% |
| 10〜29人 |
28.3% |
32.6% |
39.1% |
| 10人以上計 |
30.1% |
32.6% |
37.3% |
義務化のちょうど1年前の時点で、10〜29人の企業の39.1%が取り組んでいませんでした。産業別では、医療、福祉52.4%、生活関連サービス業、娯楽業51.6%が「一定の取組をしている」の上位で、製造業は17.6%です。2026年10月からは、規模にかかわらず、措置をとっていない会社は法律の義務を果たしていないことになります。応募先の対策が今どうなっているかは、聞かないとわかりません。
カスハラで心身を壊したら:精神障害の労災は127件
厚生労働省の令和7年度「過労死等の労災補償状況」では、精神障害の労災で「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」出来事の支給決定が127件ありました(決定240件)。令和6年度の108件から増えています。
| 年度 |
決定件数 |
うち支給決定件数 |
うち女性の支給決定 |
| 令和6年度 |
207件 |
108件 |
78件 |
| 令和7年度 |
240件 |
127件 |
98件 |
精神障害の支給決定1,082件のうち、件数が最も多い出来事は上司等からのパワハラ(222件)で、カスハラはセクハラと並んで127件です。社内のパワハラについてはパワハラの定義で、セクハラについてはセクハラ・マタハラの定義で説明しています。
求職者等へのセクハラ対策も同じ日に義務化
同じ2026年10月1日から、求職者等に対するセクシュアルハラスメントの防止も事業主の義務です。根拠は改正後の男女雇用機会均等法13条で、会社の労働者による性的な言動で、求職者等の求職活動が妨げられないようにする措置を求めています。
対象の「求職者等」は、求人に応募する人と、会社の採用につながる活動に参加する人、教育実習や看護実習を受ける人です。採用面接、就職説明会、社員への訪問、インターンシップが例に挙がり、SNSなどオンラインのものも含みます。会社には、面談の時間や場所、使うSNSの種類といった求職活動のルールを決めて、労働者と求職者等に周知する措置も求められています。
令和5年度の実態調査では、就活等セクハラの該当事案があった企業で、行為者は「インターンシップを担当した自社従業員」が40.0%で最も多い結果でした(企業調査。サンプル数が少ないため参考値)。就活中に困ったときは、大学のキャリアセンターのほか、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に相談できます。
働く側が今日からできること
カスハラの場面では、その場で一人で抱えないことが一番です。会社の決めた対処(上司に代わる、警察に通報するなど)を、入社したら最初に確かめます。決まっていなければ、それ自体が2026年10月以降は会社の措置義務の問題です。
起きたことは記録に残します。日時、相手、要求の内容、言われた言葉、対応にかかった時間、上司に報告した時刻です。電話なら通話の記録、メールやSNSなら画面をそのまま保存します。社内の窓口で解決しないときは、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)や総合労働相談コーナーに相談できます。会社の措置をめぐる争いは、労働局長の助言・指導・勧告や調停の対象です(労働施策総合推進法36条・37条)。
その会社の実際の数字は、求人票・面接・しょくばらぼで確かめる
接客の多い仕事を選ぶなら、カスハラへの備えは会社選びの条件になります。数字でわかるのは、人の入れ替わりや働く時間です。厚生労働省のしょくばらぼには、会社が公表した離職率や平均残業時間が載っています。カイシャのホントの会社の比較ページでは、県ごとにこうした数字を並べて比べられます。
面接では「お客様から理不尽な要求を受けたとき、現場ではどう対応する決まりですか」「一人で対応しないための体制はありますか」「カスハラの相談窓口はどこですか」と聞きます。具体的な手順が返ってくるかどうかで、会社の準備の度合いがわかります。