職場の熱中症対策は、2025年(令和7年)6月1日から事業者の義務です。新しく設けられた労働安全衛生規則612条の2は、熱中症のおそれのある作業をさせるときに、①報告体制の整備、②悪化を防ぐ措置の手順の作成、③その2つを作業する人に周知すること、を求めています。対象は、WBGT(暑さ指数)28度以上または気温31度以上の場所で、連続1時間以上か1日4時間を超えて行われる見込みの作業です。
厚生労働省の統計では、2025年の職場の熱中症による死傷者は1,803人で、統計を取り始めた2005年以降で最も多くなりました。この記事の省令と通達は、2026年10月26日に厚生労働省とe-Gov法令検索で確かめました。自分の職場が対象に当たるかは、実際の暑さと作業時間で決まります。この記事で個別に決めることはできません。
義務化の根拠:労働安全衛生規則612条の2(2025年6月1日施行)
改正は、労働安全衛生規則の改正省令(令和7年厚生労働省令第57号)です。令和7年4月15日に公布され、6月1日に施行されました。労働安全衛生規則の第3編第5章「温度及び湿度」に、612条の2「熱中症を生ずるおそれのある作業」が加わりました。
厚生労働省の施行通達(令和7年5月20日 基発0520第6号)は、改正の理由を、熱中症による死亡災害の原因の多くが初期症状の放置や対応の遅れにあるためと説明しています。重くなる前に見つけて、すぐ手当てするための決まりです。
612条の2は労働安全衛生法22条にもとづく規定で、通達は、個々の事業者に措置義務が課されるものだとしています。
対象の作業:暑熱な場所で、一定の時間以上続く作業
対象の範囲は、施行通達の細部事項に書かれています。
| 項目 |
中身 |
| 暑熱な場所 |
WBGT(湿球黒球温度)が28度以上、または気温が31度以上の場所 |
| 時間 |
その場所で、継続して1時間以上、または1日あたり4時間を超えて行われることが見込まれる作業 |
| 場所の範囲 |
決まった作業場だけでなく、出張先での作業、複数の場所を移動して行う作業、作業場所から作業場所への移動中も含む |
| 臨時の作業 |
非定常作業や臨時の作業でも、上の条件を満たす見込みなら対象 |
| 対象の人 |
労働者だけでなく、同じ場所で作業に従事する労働者以外の人も含む |
| 判断の方法 |
原則は作業場所で実測。通風のよい屋外なら、天気予報や環境省の熱中症予防情報サイトなどで判断してもよい |
屋外の工事だけの決まりではありません。空調の効かない工場や倉庫、厨房なども、WBGTや気温が基準を超え、作業時間の条件に当たれば対象です。通達は、対象に当たらない作業でも、作業の強さや服装によっては熱中症の危険が高まるため、改正に準じた対応をするよう努めることとしています。
建設現場のように、同じ作業場で複数の会社が作業する場合は、元方事業者と関係請負人のいずれにも措置義務があります。元請が対応していなかったときも、その作業場に関わる全ての事業者に違反が生じると通達は書いています。
会社がやること:報告体制・手順・周知の3つ
省令の条文は2項からなり、それぞれに「周知させなければならない」が付いています。
| 義務 |
条文 |
通達が示す具体的な中身 |
| ①報告体制の整備 |
612条の2第1項 |
熱中症の疑いがある人がいたら、だれに、どう知らせるか(責任者の連絡先と連絡方法)を決めて明示し、作業中いつでも報告を受けられる状態にする |
| ②悪化を防ぐ措置と手順 |
612条の2第2項 |
作業場ごとに、作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じた医師の診察や処置などの措置の内容と、実施の手順を決める。緊急連絡網、緊急搬送先の連絡先も含める |
| ③周知 |
第1項・第2項 |
①の体制と②の措置・手順を、作業に従事する人に知らせる |
報告体制は、電話を受けるだけでは足りないこともあります。通達は、早く見つけるために推奨される方法として、責任者による作業場所の巡視、2人以上で互いの体調を確かめるバディ制、ウェアラブルデバイスによるリスク管理、責任者と労働者の双方向の定期連絡などを挙げています。ウェアラブルデバイスは体の状態を正確に把握できるとは限らないので、ほかの方法と組み合わせることが望ましいともしています。
体制の整備は、熱中症のおそれのある作業が想定される日の作業開始前までに行う必要があります。夏の屋外作業のように暑い中での作業が続くとわかっている場合は、十分に余裕をもって体制を整えて周知するよう努めることとされています。
複数の会社が混在する現場では、各社が共同で1つの緊急連絡先を決めて見やすい場所に掲示する、メールで送る、文書を配る、といった周知の方法が例に挙がっています。
手順に入れる中身:体の冷やし方と、一人にしないこと
通達は、手順に入れる「身体の冷却」の例として、作業着を脱がせて水をかける、アイスバスに入れる、十分に涼しい休憩所に避難させる、ミストファンを当てる、といった体の外から冷やす方法と、アイススラリー(流動性の氷状飲料)を飲ませる体の内から冷やす方法を挙げています。その間に容態が急変することがあるので、熱中症のおそれがある人を一人きりにせず、ほかの人が見守ることが重要だとしています。
判断に迷うときは、放置したり措置を先送りにしたりせず、#7119などを使って専門機関や医療機関に相談し、速やかに指示を仰ぐことが望ましいともしています。手順には、事業場の緊急連絡網と、搬送先の医療機関の連絡先(所在地を含む)も書いておくことが望ましいとされています。
熱中症は、帰宅後も含めて時間が経ってから悪くなることがあります。通達は、職場での回復の判断を慎重に行うこと、回復後に体調が急変したらすぐ受診することを本人に十分理解させること、具合が悪くなったら本人や家族が救急搬送を頼む、会社から様子をうかがう連絡をとるといった対応を決めておくことが重要だとしています。
周知は、掲示、メール、文書の配布、朝礼での口頭の伝達のいずれでもかまいませんが、口頭だけでは確実に伝わらない場合などは、複数の手段を組み合わせることとされています。
2025年の死傷者は過去最多
厚生労働省の「令和7年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況」(確定値)は、労働者死傷病報告をもとに、職場での熱中症による死亡者と休業4日以上の人(あわせて死傷者)を数えています。
| 年 |
死傷者数 |
うち死亡者数 |
| 2016年 |
462人 |
12人 |
| 2017年 |
544人 |
14人 |
| 2018年 |
1,178人 |
28人 |
| 2019年 |
829人 |
25人 |
| 2020年 |
959人 |
22人 |
| 2021年 |
561人 |
20人 |
| 2022年 |
827人 |
30人 |
| 2023年 |
1,106人 |
31人 |
| 2024年 |
1,257人 |
31人 |
| 2025年 |
1,803人 |
19人 |
2025年の死傷者は2024年より約43%増え、2005年以降で最多です。資料は、2025年夏(6〜8月)の平均気温が基準値より2.36度高く統計開始以来最高だったことを、増えた一因と推測しています。
一方で、死亡者は19人で、2024年の31人から約39%減りました。資料は、2025年の省令改正で報告体制と手順の整備が義務づけられ、重篤化による死亡災害の防止が一定程度図られたと考えられる、としています。
業種別ランキング:死傷者は製造業が最も多い
同じ資料の業種別の表から、2025年の死傷者を多い順に並べました。
| 順位 |
業種 |
2025年の死傷者数 |
うち死亡者数 |
2021〜2025年の死傷者数 |
| 1 |
製造業 |
365人 |
2人 |
1,063人 |
| 2 |
建設業 |
292人 |
5人 |
1,038人 |
| 3 |
商業 |
237人 |
2人 |
623人 |
| 4 |
運送業 |
220人 |
1人 |
742人 |
| 5 |
警備業 |
199人 |
3人 |
614人 |
| 6 |
清掃・と畜業 |
121人 |
1人 |
347人 |
| 7 |
農業 |
34人 |
2人 |
128人 |
| 8 |
林業 |
9人 |
0人 |
41人 |
| ― |
その他 |
326人 |
3人 |
958人 |
| ― |
計 |
1,803人 |
19人 |
5,554人 |
死傷者の数では製造業が建設業を上回りました。屋内の工場でも熱中症は起きています。死亡者は、2021〜2025年の5年間の合計131人のうち建設業が52人、警備業が18人で、資料はこの2業種で約4割から7割程度を占めるとしています。
人数は、その業種で働く人の多さにも左右されます。この表は、どの業種で多く起きているかを示すもので、働く人1人あたりの起きやすさの順位ではありません。
7月と8月に集中
2025年の死傷者を月別にみると、7月718人、8月583人、6月268人、9月188人でした。資料は、約72%が7月か8月に集中しているとしています。6月の268人は、2024年の6月(57人)を大きく上回ります。暑くなり始めた時期に、体が暑さに慣れていないまま作業をすることが危険です。
時間帯では、2025年は15時台233人、9時台以前229人、14時台226人、11時台202人で、午前中や午後3時前後に多く、日中のどの時間帯でも起きています。18時台以降も145人いました。資料は、日中に重い症状がなかったのに、作業を終えた後や帰宅後に体調が悪くなり、17時台や18時台以降に亡くなったケースも少なくないと書いています。
年齢別:50歳代以上が半分を超える
同じ資料の年齢別の表から、2025年の死傷者を並べました。
| 年齢 |
死傷者数 |
うち死亡者数 |
| 19歳以下 |
38人 |
0人 |
| 20〜24歳 |
151人 |
0人 |
| 25〜29歳 |
129人 |
0人 |
| 30〜34歳 |
123人 |
0人 |
| 35〜39歳 |
121人 |
0人 |
| 40〜44歳 |
133人 |
1人 |
| 45〜49歳 |
179人 |
2人 |
| 50〜54歳 |
241人 |
5人 |
| 55〜59歳 |
229人 |
4人 |
| 60〜64歳 |
181人 |
3人 |
| 65歳以上 |
278人 |
4人 |
| 計 |
1,803人 |
19人 |
資料は、2025年の死傷者のうち50歳代以上が全体の約52%、死亡者では約84%を占めるとしています。加齢で暑さや水分不足を感じにくくなり、体の調節機能も落ちるため、死亡に至る割合が高くなっていると考えられる、という説明です。ただし20〜24歳でも151人が休業4日以上になっていて、若い人なら安全という数字ではありません。
働く人が確かめておくこと
対象の作業をする職場なら、入社時や夏の前に次のことを確かめます。
| 確かめること |
聞き方の例 |
| 報告先 |
体調がおかしいとき、作業中に誰へ、どの方法で連絡しますか |
| 手順 |
熱中症が疑われる人がいたら、どこで休ませ、どう体を冷やし、どの病院へ運ぶ決まりですか |
| 暑さの測り方 |
WBGTは現場で測っていますか、何を見て作業を止めますか |
| 見回り |
巡視やバディ制など、一人で作業している人に気づく仕組みはありますか |
通達は、熱中症が疑われる場合は、WBGTの値や作業時間にかかわらず、決めた手順を踏まえて適切に対処することが重要だとしています。数値の基準は、会社が体制を準備しておく範囲の線引きです。体調の異変は、基準に関係なくすぐ報告します。
職場の健康管理全体については、健康診断は会社の義務でも説明しています。持病や服薬があると暑さの影響を受けやすいこともあるので、健康診断の結果と一緒に産業医などに相談できます。
仕事中に熱中症になったら
仕事が原因の熱中症は、業務上の疾病として労災保険の対象になり得ます。この記事の統計そのものが、休業4日以上の業務上の疾病として会社が労働基準監督署に出した労働者死傷病報告の集計です。治療費や休業の補償の手続きは、労災の申請で順番に説明しています。
その会社の実際の数字は、求人票・面接・しょくばらぼで確かめる
暑い場所での仕事は、求人票の「仕事内容」と「就業場所」から読み取ります。屋外の現場、空調のない倉庫や工場、移動の多い仕事なら、熱中症対策の具体的な中身を面接で聞きます。
働く時間の長さや休みの取りやすさは、体調管理にも関わります。厚生労働省のしょくばらぼには、会社が公表した平均残業時間や有給の取得日数が載っています。カイシャのホントの会社の比較ページでは、県ごとにこうした数字を並べて比べられます。