病気やけがの治療と仕事の両立支援は、2026年(令和8年)4月1日から会社の努力義務になりました。改正後の労働施策総合推進法27条の3は、事業主に、治療を受ける労働者について、症状が悪くなることを防ぎ治療と就業の両立を支えるため、相談に応じて適切に対応する体制の整備その他の措置を講ずるよう努めることを求めています。会社の規模を問わず、全ての事業主が対象です。
厚生労働省の2025年国民生活基礎調査では、仕事をしながら通院している15歳以上の人は2,337万3千人でした。この記事の条文、指針、通達は2026年10月26日に厚生労働省とe-Gov法令検索で確かめました。努力義務なので、会社に特定の制度を作らせる効力まではありません。自分の場合に何が使えるかは、会社の就業規則と主治医の意見で決まります。
2026年4月からの努力義務と根拠の条文
根拠は、令和7年法律第63号による改正で加わった労働施策総合推進法の第8章「治療と就業の両立支援」です。公布時の厚生労働省の通知(令和7年6月11日 基発0611第1号・雇均発0611第1号)で、この部分の施行日は令和8年4月1日とされています。同じ改正法のカスハラ対策の義務化は、令和8年10月1日施行で、施行日が別です。
| 項目 |
中身 |
| 第1項 事業主の努力義務 |
治療を受ける労働者について、症状の悪化などを防ぎ、治療と就業の両立を支援するため、相談に応じて適切に対応する体制の整備その他の必要な措置を講ずるよう努める |
| 第2項 指針 |
厚生労働大臣が、治療と就業の両立支援指針を定めて公表する |
| 第3項 安衛法との調和 |
指針は、労働安全衛生法70条の2の健康保持増進の指針と調和が保たれたものでなければならない |
| 第4項 指導と援助 |
厚生労働大臣は、指針に従い事業主やその団体に必要な指導、援助などができる |
これまでは、厚生労働省の「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」(平成28年)で取組が勧められてきました。法律の努力義務になったことで、治療と就業の両立支援指針(令和8年厚生労働省告示第28号)が定められ、令和8年4月1日から適用されています。
指針の対象:反復・継続した治療が必要な病気
指針が対象にするのは、国際疾病分類に掲げられた疾病(負傷を含む)で、医師の診断により、悪化の防止などのため反復・継続して治療が必要と判断され、かつ、就業の継続に配慮が必要なものです。雇用形態に関わらず、全ての労働者が対象です。
指針は、かつて「不治の病」とされていたがんなども、医療の進歩で生存率が上がり「長く付き合う病気」に変わってきたとし、病気になってもすぐに離職しなければならないという状況は必ずしも当てはまらなくなっていると書いています。一方で、本人の理解不足や職場の支援体制が不十分なために離職に至る場合や、仕事の都合で適切な治療を受けられない場合もあるとしています。
支援の進め方:申出から両立支援プランまで
指針の5章は、支援の進め方を次の順で示しています。
| 順番 |
やること |
主な中身 |
| 1 |
労働者が会社に申出 |
支援を受けたい人が、主治医から支援に必要な情報を集めて会社に出す。会社は仕事の内容などを主治医に伝える様式を用意する |
| 2 |
主治医の情報を産業医等に提供 |
会社が、主治医からの情報を産業医等に渡し、就業継続の可否、就業上の措置、治療への配慮について意見を聞く |
| 3 |
会社が就業継続の可否を判断 |
主治医と産業医等の意見を勘案し、本人の希望も聞いて判断する。病気にかかったことをもって安易に就業を禁止しない |
| 4 |
就業上の措置と治療への配慮を決める |
内容と実施時期を決め、両立支援プランを作ることが望ましい |
| 5 |
実施とフォローアップ |
治療の経過に合わせて状況を確かめ、措置やプランを見直す |
主治医からもらう情報として、指針は、ア 症状と治療の状況(現在の症状、入院や通院の必要性と期間、治療の内容やスケジュール、通勤や業務に影響する症状や副作用)、イ 就業継続の可否についての意見、ウ 望ましい就業上の措置(避けるべき作業、時間外労働の制限、出張の可否など)、エ 治療への配慮(通院時間や休憩場所の確保など)を挙げています。産業医等がいない場合は、主治医の情報を参考にします。
本人の申出が出発点で、健康情報は本人の同意が前提
両立支援は私傷病に関わるもので、本人からの申出を端緒に取り組むのが基本だと指針は書いています。会社が勝手に病気を調べて動く仕組みではありません。そのかわり、申出がしやすいように、社内ルールの作成と周知、研修、相談窓口と情報の扱い方を明確にすることが会社に求められています。
病名、検査値、治療の内容は、機微な個人情報です。指針は、主治医の意見を求める際には機微な健康情報の扱いに配慮することや、本人の同意を得たうえで産業保健スタッフや人事労務担当者が主治医から情報を集めることができる、としています。職場の誰にどこまで伝わるのかは、申し出る前に窓口で確かめます。
長く休む場合は、休業前の説明と復帰の判断がある
入院などで長く休む必要があると判断されたときの流れも、指針の5章(5)に書かれています。
| 段階 |
会社がやること |
| 休業の前 |
休業に関する制度(賃金の扱いと手続きを含む)、休業できる期間、職場復帰の手順を本人に伝え、休業申請の書類を出してもらう |
| 休業中 |
あらかじめ決めた連絡方法で状況や治療の経過を確かめる。復帰への不安を相談でき、使える支援制度を案内する窓口をはっきりさせる |
| 復帰の判断 |
主治医の意見、産業医等の意見、本人の意向、復帰予定の職場の意見を総合して、配置転換も含めて判断する |
| 復帰の後 |
必要に応じて職場復帰支援プラン(職場復帰日を明示)を作り、経過に合わせて見直す |
指針は、退院や治療の終了後すぐに通常の勤務に戻れるとは限らないことに留意が必要だとしています。措置によって同僚や上司に一時的に負担がかかることにもふれ、共有する情報は措置に必要なものに限ったうえで、負担がかかる人には可能な限り共有して理解を得ること、過度の負担がかからないようにすることを求めています。
治療後の経過がよくなく、業務の遂行が難しくなる場合についても、指針はふれています。会社は本人の意向も考えながら主治医や産業医等の意見を求め、就業を続けられるかを慎重に判断します。労働で病状が著しく悪くなるおそれがあるときは、産業医その他専門の医師の意見を聴いたうえで、労働安全衛生法68条にもとづく就業禁止の措置をとる必要があります。指針2章は、この就業禁止は配置転換や作業時間の短縮などで就業の機会を失わせないようにし、やむを得ない場合に限る趣旨だとしています。
会社が整える休暇と勤務の制度
指針の4章は、治療のための休暇制度と勤務制度の例を挙げています。法定の時間単位年休を除き、会社が自主的に設ける制度なので、あるかどうかは会社ごとに違います。
| 区分 |
制度 |
中身 |
| 休暇 |
時間単位の年次有給休暇 |
年休は1日単位が原則だが、労使協定を結べば年5日の範囲で1時間単位で取れる(労働基準法) |
| 休暇 |
傷病休暇・病気休暇 |
年休とは別に、入院や通院のために会社が与える休暇。賃金の有無などは会社ごとに決める |
| 勤務 |
時差出勤制度 |
始業・終業の時刻を変えて、体に負担のかかる通勤時間帯を避ける |
| 勤務 |
短時間勤務制度 |
療養中や療養後の負担を軽くするため、所定労働時間を短くする |
| 勤務 |
在宅勤務制度 |
情報通信機器を使い、自宅などで働く |
| 勤務 |
試し出勤制度 |
長く休んだ人が、本格的な復帰の前に試しに出勤する |
休む期間の収入には、健康保険の傷病手当金があります。条件と金額は傷病手当金の条件・金額・期間で、長く休む場合の手続きは休職の手続きで説明しています。こころの不調で休むときは適応障害で休職するときも読んでください。
通院しながら働く人は2,337万3千人:最も気になる傷病のランキング
厚生労働省の2025(令和7)年国民生活基礎調査の健康票(調査日は2025年6月5日)から、仕事をしている15歳以上の通院者を、最も気になる傷病別に多い順に並べました。
| 順位 |
最も気になる傷病 |
仕事ありの通院者 |
仕事なしの通院者 |
| 1 |
高血圧症 |
382万4千人 |
370万人 |
| 2 |
糖尿病 |
188万1千人 |
183万8千人 |
| 3 |
歯の病気 |
163万2千人 |
80万9千人 |
| 4 |
脂質異常症(高コレステロール血症等) |
130万6千人 |
96万2千人 |
| 5 |
腰痛症 |
121万6千人 |
133万2千人 |
| 6 |
眼の病気 |
102万1千人 |
112万9千人 |
| 7 |
うつ病やその他のこころの病気 |
99万5千人 |
81万9千人 |
| 8 |
関節症 |
58万4千人 |
65万6千人 |
| 9 |
その他の皮膚の病気 |
55万8千人 |
31万人 |
| 10 |
その他の循環器系の病気 |
52万4千人 |
78万9千人 |
| ― |
悪性新生物(がん) |
44万9千人 |
59万1千人 |
| ― |
通院者の合計 |
2,337万3千人 |
2,246万4千人 |
15歳以上の通院者は全体で4,758万人で、そのうち仕事をしている人が2,337万3千人、仕事をしていない人が2,246万4千人、仕事の有無が不詳の人が174万3千人です。通院している人のほぼ半分は、働きながら通っています。
数が多いのは、高血圧症や糖尿病のように、長く付き合う病気です。うつ病やその他のこころの病気で通院しながら働く人は99万5千人で、がんは44万9千人でした。この表は「最も気になる傷病」を1つ選んだ集計で、複数の病気で通院している人も1つの傷病に数えられています。
男女で見ると
同じ第103表で、仕事をしている通院者は男性1,263万2千人、女性1,074万1千人でした。最も気になる傷病が高血圧症の人は男性242万9千人、女性139万5千人、がんは男性18万4千人、女性26万5千人です。働きながらがんの通院をしている人は、女性のほうが多くなっています。
社外の相談先
会社に相談窓口がない、話しにくいというときは、外の窓口も使えます。厚生労働省の治療と仕事の両立についてのページは、次のような支援機関を紹介しています。
| 相談先 |
主な役割 |
| 産業保健総合支援センター(さんぽセンター) |
各都道府県にあり、両立支援の専門の相談員が、会社や働く人の相談に応じる |
| がん診療連携拠点病院のがん相談支援センター |
がんの治療と就労に関する相談支援。必要に応じてさんぽセンターやハローワークと連携する |
| 労災病院の治療就労両立支援センター |
両立支援の実施と、両立支援マニュアルの作成・普及 |
| ハローワーク |
がん患者等の就職支援、難病患者就職サポーターによる職業相談 |
厚生労働省は、患者に寄り添って主治医、会社、産業医などの調整を支える「両立支援コーディネーター」の養成も進めています。通達(平成30年3月30日 基安発0330第1号、令和2年9月1日改正)は、コーディネーターの担い手を、会社の人事労務担当者や産業保健スタッフ、医療機関の医療従事者、支援機関の担当者と想定しています。ただし、本人の代わりに会社と交渉する役ではないとも明記されています。
その会社の実際の数字は、求人票・面接・しょくばらぼで確かめる
持病を抱えて転職するなら、制度の有無を入社前に確かめます。時間単位の年休、傷病休暇、短時間勤務、在宅勤務が就業規則にあるかを聞きます。厚生労働省のしょくばらぼには、会社が公表した有給の取得日数や平均残業時間が載っています。カイシャのホントの会社の比較ページでは、県ごとにこうした数字を並べて比べられます。
面接で病気のことを伝えるかどうかは、本人が決めることです。伝えずに制度だけ確かめるなら「通院などで時間単位の有給は使えますか」「病気休暇の制度はありますか」と聞けます。答えが具体的かどうかで、会社の運用がわかります。