同一労働同一賃金とは、同じ会社の正社員と、パートタイム・有期雇用の人との間で、基本給、賞与、手当、福利厚生などの待遇ごとに、不合理な差を設けてはいけないというルールです。根拠はパートタイム・有期雇用労働法の8条と9条で、2021年4月1日から中小企業を含めて全面施行されています。2026年10月1日には、同一労働同一賃金ガイドラインが改正され、雇い入れ時に明示する事項も増えました。
厚生労働省の令和6年就業形態の多様化に関する総合実態調査では、賞与支給制度が適用される事業所は、正社員で65.9%、パートタイム労働者で35.9%でした。退職金制度は55.4%と7.7%です。この記事の条文と厚生労働省の資料は、2026年10月26日に確かめました。自分の待遇差が不合理かどうかは、仕事の内容と会社の制度の目的で決まるため、この記事だけで判定はできません。
同一労働同一賃金は、待遇ごとに比べる
ルールの中心はパートタイム・有期雇用労働法の8条です。会社は、パート・有期の人の基本給、賞与その他の待遇の「それぞれ」について、対応する正社員の待遇との間に、不合理と認められる差を設けてはならないと定めています。
ここで大事なのは、給料の総額ではなく、待遇を1つずつ比べることです。基本給は能力で決めているのか、勤続年数で決めているのか。通勤手当は何のために払っているのか。会社がその待遇を払う目的を出発点にして、パート・有期の人にも同じ目的が当てはまるかを見ます。
8条が考える事情は3つです。
- 業務の内容と、それに伴う責任の程度(法律では「職務の内容」)
- 職務の内容と配置の変更の範囲(転勤や異動があるか、どこまであるか)
- その他の事情
このうち、その待遇の性質と目的に照らして適切なものを考えます。たとえば通勤のための手当なら、転勤があるかどうかは関係しにくく、通勤にかかる費用の負担という目的が中心になります。
正社員と同じ働き方なら、差別的取扱いが禁止
9条は、もう一段強い決まりです。職務の内容が正社員と同じで、雇用が終わるまでの全期間に、職務の内容と配置が正社員と同じ範囲で変わると見込まれる人を「通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者」と呼びます。この人については、パート・有期であることを理由に、基本給、賞与その他の待遇で差別的に扱うことが禁じられています。
8条が「差の理由が不合理かどうか」を問うのに対して、9条は「同じなのに差をつけること」を禁じます。自分がどちらに当たるかは、仕事の中身と、転勤・異動の扱いを就業規則や実際の運用で比べないとわかりません。
派遣社員は別の法律
この記事が扱うのは、同じ会社に直接雇われている正社員とパート・有期の人です。派遣社員の待遇は労働者派遣法で別に決まっていて、派遣先の正社員との均等・均衡か、労使協定による方式で決めます。派遣で働く人は、派遣元の説明を確かめます。
正社員とパート・有期で、制度の適用はこれだけ違う
制度が「ある」ことと、パート・有期の人に「適用される」ことは別です。厚生労働省の令和6年就業形態の多様化に関する総合実態調査の事業所調査から、各制度が適用される事業所の割合を就業形態別に並べました。調査日は令和6年10月1日、対象は常用労働者5人以上の事業所です。
| 制度 |
正社員 |
契約社員 |
嘱託社員 |
パート |
| 賞与支給制度 |
65.9% |
49.4% |
60.7% |
35.9% |
| 昇進・昇格 |
56.4% |
24.3% |
9.5% |
23.2% |
| 退職金制度 |
55.4% |
16.9% |
11.9% |
7.7% |
| 社内教育訓練 |
39.9% |
40.7% |
42.6% |
27.6% |
| 福利厚生施設等 |
34.9% |
41.2% |
54.1% |
29.4% |
| 財形制度 |
23.2% |
15.6% |
22.6% |
5.5% |
| 自己啓発援助 |
23.1% |
20.5% |
23.0% |
12.2% |
| 企業年金 |
15.8% |
8.2% |
9.3% |
3.7% |
パートタイム労働者で差が大きいのは、退職金制度と賞与支給制度です。昇進・昇格もパートで23.2%、嘱託社員で9.5%にとどまります。
ただし、この表は割り算の分母が就業形態ごとに違います。嘱託社員がいる事業所と、パートがいる事業所は同じ集まりではありません。福利厚生施設で嘱託社員の割合が正社員より高く見えるのは、そのためもあります。就業形態どうしの上下を、そのまま「どちらが恵まれているか」と読むことはできません。自分の会社の制度は、就業規則と雇用契約書で確かめます。
非正規で働く人の割合や雇用形態の内訳は、非正規雇用の割合で整理しています。
ガイドラインが示す、待遇ごとの考え方
どんな差が不合理になるかの考え方と具体例は、厚生労働省の同一労働同一賃金ガイドラインにあります。厚生労働省の告示で、派遣労働者についての考え方も同じ指針に入っています。主な項目を短くまとめました。
| 待遇 |
考え方 |
| 基本給 |
同じ基準なら同じ額。違えば違いに応じた額 |
| 昇給 |
勤続による能力の向上が同じなら同じ |
| 賞与 |
業績への貢献が同じなら同じ額 |
| 役職手当 |
同じ役職なら同じ額 |
| 精皆勤手当 |
業務の内容が同じなら同じ |
| 時間外の割増 |
同じ割増率で払う |
| 通勤手当 |
同じ基準で払う |
| 食事手当 |
同じ額を払う |
| 慶弔休暇 |
同じように与える |
| 教育訓練 |
職務が同じなら同じ訓練 |
基本給は、能力や経験に応じて払う部分、業績や成果に応じて払う部分、勤続年数に応じて払う部分を分けて考えます。たとえば能力で決める基本給なら、正社員と同じ能力のパートには同じ額を払い、能力に違いがあれば、その違いに応じた額を払います。
ガイドラインの例で見る、問題になる差
ガイドラインは、待遇ごとに「問題とならない例」と「問題となる例」を挙げています。3つの待遇で、どこが分かれ目かを見ます。
賞与
会社の業績への貢献に応じて賞与を払っている会社で、正社員と同じ貢献をした有期の人に同じ賞与を払わないのは、問題となる例です。正社員には職務の内容や貢献にかかわらず全員に何らかの賞与を払い、パート・有期の人には払わないのも、問題となる例として挙げられています。
一方で、生産効率や品質の目標に責任を負い、達成できなければ待遇上の不利益を受ける正社員にだけ賞与を払い、その責任を負わない人には、不利益がないことの見合いの範囲で払わない例は、問題とならない例です。責任の重さの違いが、待遇の差の理由として説明できるかが分かれ目です。
通勤手当
通勤手当は、パート・有期の人にも正社員と同じものを払うのが原則です。ガイドラインは、所定労働日数が週4日以上の人には月額の定期代、週3日以下や出勤日数が変わる人には日額の交通費を払う例を、問題とならない例としています。払い方の基準が出勤日数で決まっていて、雇用形態で決まっていないためです。
家族手当
2026年10月の改正で加わった項目です。契約の更新を繰り返すなど、継続的な勤務が見込まれる有期の人に、正社員と同じ家族手当を払わないのは、問題となる例です。更新を繰り返しておらず、継続的な勤務が見込まれない人に払わないのは、問題とならない例です。
同じ項目の注では、配偶者の収入要件がある配偶者手当が、短時間で働く人の就業調整の要因になっていると指摘し、働き方に中立的な制度へ見直すことが望まれるとしています。
3つとも、雇用形態の名前ではなく、その手当の目的に合う事情で差がついているかを見ています。会社に理由を聞くときも、この目的から聞くと答えが具体的になります。
2026年10月の改正で加わった項目
厚生労働省の同一労働同一賃金特集ページによると、2026年10月1日にパートタイム・有期雇用労働法の施行規則と告示が改正されました。法律の条文そのものではなく、省令と指針の改正です。中身は3つです。
雇い入れ時に明示する事項が増えた
これまで、パート・有期の人を雇い入れるときには、昇給・退職手当・賞与の有無と相談窓口を明示する必要がありました。2026年10月1日からは、これに「待遇の相違の内容・理由などの説明を求めることができる」旨が加わりました。厚生労働省のリーフレットは、違反すると10万円以下の過料と案内しています。
これから雇用契約を結ぶ人は、労働条件通知書にこの一文と窓口が書かれているかを見ます。
ガイドラインに加わった待遇
同じリーフレットでは、ガイドラインに次の考え方が加わったと説明しています。
- 賞与・退職手当:目的がパート・有期の人にも当てはまるのに、働き方の違いに応じた均衡のとれた支給をしない場合は、不合理となる可能性がある
- 無事故手当:業務の内容が同じなら、正社員と同じ額
- 家族手当:契約の更新を繰り返すなど、継続的な勤務が見込まれる人には、正社員と同じ額
- 住宅手当:転居を伴う配置の変更に応じて払うものなら、同じ配置の変更がある人には同じ額
- 病気休職の給与保障、夏季冬季休暇、勤続の褒賞、福利厚生施設の料金や割引率
あわせて、待遇差をなくすために正社員の労働条件を下げるのではなく、パート・有期の人の労働条件を上げることが求められると明記されました。定年後に再雇用された有期の人についても、再雇用であることだけで差が不合理でないとは認められないとしています。
雇用管理指針も変わった
もう1つの告示である雇用管理指針では、待遇差の説明は資料を使って口頭でするか、説明すべきことを全部書いた資料を渡すかのどちらかで行うこと、説明の求めがなくても契約更新時などに資料を渡すことが望ましいことなどが示されました。
待遇差の理由は、会社に説明を求められる
14条は、会社の説明義務を定めています。1つ目は、雇い入れたときに、会社が講じる措置の内容を説明する義務です。2つ目は、本人から求めがあったときに、正社員との待遇差の内容と理由、措置を決めるときに考えた事項を説明する義務です。
同じ条の3項は、説明を求めたことを理由に解雇などの不利益な取扱いをすることを禁じています。聞くこと自体が不利になる仕組みではありません。
聞くときは、待遇を1つに絞ると答えが具体的になります。
| 気になる差 |
聞き方の例 |
| 賞与 |
賞与の支給基準と、私の契約での扱いを教えてください |
| 通勤手当 |
正社員と支給基準が違う理由を教えてください |
| 家族手当 |
契約を更新している場合の扱いを教えてください |
| 退職金 |
退職金制度の対象範囲と、その理由を教えてください |
自分の待遇差を確かめる手順
1. 比べる相手を決める
比べるのは、同じ会社で自分の仕事に近い正社員です。他社の正社員との差は、このルールの対象ではありません。
2. 待遇を1つずつ書き出す
基本給、賞与、手当、休暇、福利厚生を分けて書きます。給与明細と就業規則があれば、手当の名前と支給条件を拾えます。時給の水準を世間と比べたいときは、パートの平均時給を使います。
3. 会社の説明を聞く
待遇の目的と、差がある理由を聞きます。「正社員だから」「将来の役割が違う」といった説明だけでは、何がどう違うのかがわかりません。仕事の内容、責任、異動の範囲のどれが違うのかを確かめます。
4. 納得できなければ相談する
都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)が相談窓口です。パートタイム・有期雇用労働法24条で、労働局長は会社に助言・指導・勧告ができます。25条で、紛争調整委員会による調停も使えます。援助や調停を求めたことを理由とする不利益な取扱いは禁じられています。
転職・契約更新の前に見るところ
これから応募する会社や、更新する契約では、次の点を確かめます。
- 労働条件通知書に、昇給・賞与・退職手当の有無が書かれているか
- 待遇差の説明を求められる旨と、その窓口が書かれているか
- 正社員への転換制度があるか、実際に転換した人がいるか
- 家族手当や住宅手当の対象に、パート・有期の人が含まれるか
正社員への転換や、5年を超えたときの無期転換の違いは、正社員登用と無期転換にまとめています。
その会社の実際の数字は、求人票と面接で確かめる
同一労働同一賃金は、法律で一律の金額を決めるルールではありません。会社ごとの制度の目的と、自分の働き方の違いで答えが変わります。調査の割合は、パートに賞与や退職金が出る会社がどのくらいあるかの目安にとどまります。
応募先の数字は、求人票の賃金・賞与・手当の欄と、面接で聞いた支給基準で確かめます。厚生労働省のしょくばらぼでは、掲載企業の正社員転換の実績や働き方の情報を見られます。わからない点は、待遇ごとに質問を作って、入社前に答えを書面で受け取ります。