内定通知書は採用を知らせる書類、労働条件通知書は賃金や労働時間などの働く条件を示す書類です。受け取ったら、採用の連絡だけで承諾せず、自分に適用される条件を読みます。厚生労働省の令和7年雇用動向調査で、転職後に賃金が減った人は31.0%でした。内定が出たことと、希望する条件で働けることを分けて確認します。
労働条件の明示は労働基準法15条に基づくもので、2024年4月からは就業場所・業務の変更の範囲などが追加されています。書類の名前だけで判断せず、内容と受け取る時期を確認します。以下の問い合わせ文はすべて架空の例で、【】を自分の状況に置き換えます。制度の確認日は2026年10月23日です。
内定通知書は採用の連絡、労働条件通知書は働く条件
内定通知書には、採用する旨、入社予定日、承諾の方法、提出書類などが書かれます。ただし、書式や名称は会社によって違います。給与や勤務地を併記する会社もあれば、別の書類で示す会社もあります。「内定通知書」という題名だけで、条件がすべて確定したとは判断できません。
労働条件通知書は、賃金、労働時間、契約期間、就業場所、業務などを確認する書類です。厚生労働省のモデル労働条件通知書に、確認する項目と記載要領が載っています。会社独自の様式でも、必要な事項を明示する必要があります。
雇用契約書は、会社と労働者が契約内容を合意するための書類として使われます。労働条件通知書を兼ねる書式もあります。通知書か契約書かという題名だけで、受け取る、署名する、同意するという行為の意味を決めず、何を求められているかを確認します。
| 書類や連絡 |
主な役割 |
受け取ったときの確認 |
| 内定通知書 |
採用の連絡 |
入社予定日・返答方法 |
| 労働条件通知書 |
労働条件の明示 |
自分の条件と適用範囲 |
| 雇用契約書 |
契約内容の合意 |
署名や同意の対象 |
| 内定承諾書 |
入社意思などの回答 |
記載された約束の内容 |
| 求人票・募集要項 |
募集時の条件の提示 |
最終提示との違い |
内定という言葉だけで、労働契約がまだないとも、必ず成立しているとも言い切れません。採用通知、承諾、書類の内容など、やり取りによって判断が変わります。撤回や辞退などで争いがあるなら、メールと書類を保存し、個別の事情を相談します。
労働条件は契約を結ぶ際に明示される
厚生労働省の労働条件明示の改正パンフレット巻末付録2には、労働基準法15条が掲載されています。使用者は労働契約の締結に際して、賃金、労働時間などの労働条件を明示しなければなりません。通知を受け取るのを入社日まで待つ前提で、何も確認せずに承諾しないことです。
採用窓口には、労働条件を確認できる書類がいつ届くかを聞きます。口頭で説明を受けただけなら、内容を整理して書面等でも確認します。「後で説明します」と言われた項目は、何が未確認なのか、いつ確認できるのかを残します。
モデル労働条件通知書の記載要領1では、書面の交付に加え、労働者が希望する場合には電子メール等でも明示できるとしています。出力して書面を作成できる方法に限られます。会社が一方的に画面を見せただけの状態と、本人が受信して保存できる状態を混同しません。
電子で届いたら、ファイルが開けるか、全ページがそろっているか、保存と出力ができるかを確認します。応募システムの閲覧期限があるなら、その前に保存します。修正後の書類が来たときは古い版を消して記憶に頼るのではなく、どこが変わったかを照合します。
変更の範囲は最初の配属先とは別に読む
2024年4月から、すべての労働者について、労働契約の締結と有期契約の更新の際に、就業場所・業務の変更の範囲の明示が必要になりました。厚生労働省の改正パンフレットの就業場所・業務の章で、対象と書き方を確認できます。
最初の勤務地が自宅から通える場所でも、変更の範囲に遠方の事業所が含まれるなら、その可能性を別に考えます。最初の業務が希望する職種でも、将来どこまで変更される契約かを読みます。面接で聞いた配属予定と、契約上の範囲は同じとは限りません。
| 項目 |
雇入れ直後に見ること |
変更の範囲で見ること |
| 就業場所 |
最初に働く場所 |
異動先として含む場所 |
| 業務 |
最初に任される仕事 |
配置転換後に含む仕事 |
| 在宅勤務 |
開始直後に行う場所 |
契約期間中に想定する場所 |
| 出向を含む記載 |
当初の勤務形態 |
対象先や担当業務の範囲 |
「会社の定める場所」「会社の定める業務」とあるなら、何が含まれるかを聞きます。説明を聞いた後も、通勤や家庭の事情と両立できるかを自分で検討します。「変更なし」と書かれているなら、どの項目の変更がないのか、別紙と矛盾していないかを確認します。
変更の範囲の明示は、記載されたどんな異動でも無条件で有効になるという意味ではありません。個別の配置転換の適法性と、契約時に範囲を示すことは別の問題です。気になる条項があるなら、採用窓口への質問だけで解決しようとせず、書類を持って相談します。
有期契約は更新基準・上限・無期転換を分ける
契約社員など期間の定めがある働き方なら、契約の開始日と終了日を読みます。そのうえで、更新の有無と判断基準を確認します。「更新あり」という表現があっても、自動更新なのか、判断によって更新することがあるのかで意味が違います。
2024年4月の追加事項には、有期契約の更新上限の有無と内容があります。通算契約期間または更新回数の上限です。契約の締結と更新の際に明示されます。最初の契約締結より後に上限を新設・短縮する際には、その理由を事前に説明する必要もあります。
| 確認すること |
書類で見るところ |
質問する内容 |
| 契約期間 |
始期と終期 |
入社予定日との一致 |
| 更新の有無 |
更新する・しない等 |
自動か判断があるか |
| 更新基準 |
業務量・評価など |
何を基に判断するか |
| 更新上限 |
期間・回数の上限 |
上限の有無と内容 |
| 無期転換 |
申込機会と転換後の条件 |
自分に適用される時期 |
無期転換申込権が発生する契約更新の際には、申込機会と無期転換後の労働条件の明示が必要です。すべての有期契約者に、同じ時点で同じ説明が必要という話ではありません。現在の契約と更新履歴から、自分がどの段階かを確認します。
無期契約への転換と、いわゆる正社員への登用は同じではありません。転換後の業務、賃金、勤務時間などを読みます。正社員登用制度の案内があるなら、応募できる条件や選考を別に聞きます。制度があるだけで、自分が登用されると決めつけないことです。
承諾前に見る労働条件のチェック表
書類を受け取ったら、求人票と面接で聞いた内容を横に置きます。差があれば、どの条件が最終提示なのかを確認します。募集時の幅のある給与表示と、自分への提示額を同じものとして読まないようにします。
| 項目 |
確かめる内容 |
見落としやすい点 |
| 雇用形態 |
無期か有期か |
求人の呼び名だけで判断 |
| 業務・勤務地 |
直後と変更の範囲 |
配属予定だけを読む |
| 基本給 |
自分に適用される額 |
手当込みの額との混同 |
| 固定残業代 |
時間数・金額・超過分 |
総額だけで比較 |
| 手当 |
支給条件と金額 |
全員に出ると誤解 |
| 賞与・昇給 |
有無と条件 |
実績を将来の保証と誤解 |
| 労働時間 |
始終業・休憩・制度 |
勤務形態の記載不足 |
| 休日・休暇 |
曜日・日数・運用 |
有給と所定休日の混同 |
| 試用期間 |
期間と期間中の条件 |
本採用後と同じと推測 |
| 退職 |
手続きと解雇の事由等 |
就業規則の参照先未確認 |
賞与の「前年度実績」と、契約として決まった支給条件を分けます。実績が書かれていても、自分の入社後に同額が支給される保証とは限りません。入社初年度に対象となるか、評価期間はどうなるかも聞きます。
固定残業代があるなら、基本給と分けて確認します。含まれる時間数、金額、超過分の支払いの説明を読みます。固定残業代があるから、その時間まで必ず残業しなければならないという読み方もしません。実際の残業時間は、制度とは別に部署の運用を聞きます。
勤務制度も名称だけで決めません。フレックスタイム制なら、出退勤にどの程度裁量があり、会議や勤務場所の指定がどうなっているかを確認します。在宅勤務制度があっても、試用期間中や配属先で使えるかは別です。自分に適用される条件を具体的に聞きます。
転職後の賃金は、増加だけでなく減少もある
厚生労働省の令和7年雇用動向調査・転職入職者の状況表6で、賃金が増加した割合は40.8%、減少は31.0%、変わらないは25.5%です。令和7年(2025年)の転職入職者のうち、前職で雇われて働き、調査時に在籍している人の集計です。賃金変動不詳も含むため、掲載区分の合計は100%にはなりません。
これは平均の増減額でも年収の中央値でもなく、前職と比べた賃金の変動区分の割合です。「転職すれば必ず年収が増える」とは読めません。自分の条件は、現在の基本給や手当と、提示された条件を同じ区分で並べます。
年収が増えても、勤務時間や通勤の負担が増えることがあります。逆に、額が下がっても希望する仕事や生活と合うこともあります。増減だけを正解にせず、何を変えたい転職だったかに戻ります。確認できない将来の昇給を、確定した収入として比べないことです。
離職率が低い業種のランキングも、個社の確認に使う
次は令和7年の雇用動向調査の表4-2から、離職率が低い順に上位の産業を並べました。令和7年(2025年)の調査対象事業所の常用労働者が対象で、一般労働者とパートタイム労働者を含みます。単位は%で、年初の常用労働者数に対する年間離職者数の割合です。平均や中央値ではありません。
| 順位 |
産業 |
離職率 |
| 1 |
金融業・保険業 |
6.6% |
| 2 |
複合サービス事業 |
8.6% |
| 3 |
建設業 |
8.7% |
| 4 |
電気・ガス・熱供給・水道業 |
8.8% |
| 5 |
運輸業・郵便業 |
9.0% |
| ー |
産業計 |
13.7% |
出典:厚生労働省、令和7年の雇用動向調査結果の概要・産業別の入職と離職の表4-2、計の離職率欄。確認日:2026年10月23日。
業種の離職率が低いから、提示された条件を確認しなくてよいわけではありません。離職には定年や契約満了なども含まれ、自己都合だけの数字ではありません。会社の年齢構成や雇用形態も違います。自分が応募した部署の定着や働き方は、会社に聞いて確かめます。
承諾期限は日付・時刻・回答方法を確かめる
内定承諾の期限が示されたら、何日までかだけでなく、必着か送信か、フォームか郵送かも読みます。期限を確認することと、その期限までに判断できるだけの情報がそろっていることは別です。条件が届いていなければ、書類の送付時期と判断の期間を相談します。
厚生労働省の労働条件明示の資料に、すべての内定に共通する承諾日数は定められていません。ネット上の一般論で「この日数まで延ばせる」と決めず、会社から提示された期限を起点に相談します。返答しないまま期限を過ぎても、延長に同意されたことにはなりません。
次は、条件書類の確認を依頼する架空の例です。
内定のご連絡をいただき、ありがとうございます。入社の判断にあたり、【未確認の項目】を確認したく存じます。労働条件を確認できる書類について、送付予定をお知らせいただけますか。現在ご案内いただいている回答期限は【期限】と理解しております。書類の確認後に回答できるよう、期限についてもご相談させてください。
ほかの選考や家族との相談などで時間が必要なら、実際の理由と希望する回答日を伝えます。別の会社の条件や担当者の個人情報まで渡す必要はありません。延長を頼めば必ず認められるとは限らないため、返事を確認します。
次は、期限延長を相談する架空の例です。
内定のご連絡をいただき、ありがとうございます。【実際の事情】のため、回答期限を【希望する日付】まで延ばしていただくことは可能でしょうか。現在の回答期限が【提示された期限】であることは承知しております。ご調整の可否をお知らせいただけますと幸いです。
承認されたら、変更後の期限と回答方法を記録します。電話で合意した内容も、メールなどで認識をそろえます。延長の相談と承諾の回答が混ざらないよう、自分が今伝えている用件を明確にします。
食い違いがあれば署名前に修正内容を確認する
求人票には勤務地限定とあるのに、最終書類では全国の事業所となっているなど、差があればその箇所を示して聞きます。「前と違います」だけでは、どの資料の何を指すのかわかりません。募集時の記載と、受け取った書類の項目を並べます。
説明が口頭だけで終わったら、どの条件が適用されるかを書類でも確かめます。自分で書類を書き換えて署名するのではなく、会社に修正版や補足の発行を依頼します。訂正後の条件を読んでから、署名や同意の対象を判断します。
辞退を決めたときの連絡は、内定辞退のメールと伝え方で確認できます。承諾後に事情が変わった、撤回や損害賠償をめぐる争いがあるなど、個別の問題は一般的な例文だけで判断せず、書類とやり取りを持って相談します。
書類の受領と承諾の回答を取り違えない
書類を受け取ったことだけを知らせたいときは、受領の連絡だと明確にします。内容を確認中なのに、すべて了承したと読める表現を使わないことです。応募システムに同意ボタンがあるなら、その操作が何への同意なのかを読みます。
添付されている就業規則や別紙も、本文から参照されている範囲を確認します。別紙が届いていない、参照した項目を開けないなどの不足があれば、署名や回答の前に窓口へ連絡します。自分に適用される条件を読める状態にしてから判断します。
給与の比較表には確定した額と未確認の項目を分けて書く
現在の給与と内定先の提示を比べるときは、基本給、固定残業代、その他の手当、賞与を別の欄にします。支給条件に当てはまるかわからない手当は、確定額に足さず、確認待ちと書きます。勤務時間や休日も横に置くと、給与の差と働く時間の差を別に判断できます。
求人票のモデル年収には、役職や残業などの前提があることがあります。自分の入社時の条件と違うなら、同じ額を受け取れる前提にしません。面接で示された概算と最終書類の額が違うときも、どちらが適用されるかを確認します。
承諾前のメモには、質問した日、窓口からの説明、届いた書類の版を残します。説明を受けた項目と、自分がまだ判断できていない項目を分けるためです。回答が届いたら、比較表を更新してから返答します。
最後は会社の実際の数字を求人票・面接・しょくばらぼで確かめる
労働条件通知書は契約の条件、残業や有給取得などの実績は働き方の情報です。どちらかだけでは仕事の全体は見えません。通知書の所定時間外労働ありという記載と、配属先の実際の残業時間を分けて読みます。
企業研究のやり方に沿って、求人票、最終提示、面接の説明を照合します。厚生労働省のしょくばらぼで掲載企業の採用・離職や働き方の数字を見て、対象年度と雇用区分を確認します。
承諾の返事を急ぐ前に、未確認の条件を質問に直します。その会社の実際の数字は、求人票・面接・しょくばらぼで確かめ、契約する条件は受け取った書類でも確認します。