制裁としての減給の上限は、1回の額が平均賃金1日分の半額、総額が一賃金支払期の賃金総額の10分の1です。労働基準法91条は、この両方の制限を定めています。「月給の1割までは自由に減らせる」というルールではありません。遅刻・欠勤の控除や降格に伴う給与変更は、何を理由に減ったのかを分けて確認します。
厚生労働省の令和7年度個別労働紛争解決制度の施行状況では、労働条件の引き下げに関する相談は33,368件でした。賃金が減ったら、給与明細の差額だけで判断せず、処分通知、就業規則、計算の説明をそろえます。制度は厚生労働省・労働局の公式資料を2026年10月23日に確認しました。
減給の上限は、単発の額と支払期の合計で見る
厚生労働省のモデル就業規則・表彰及び制裁の解説では、減給の制裁に労働基準法91条の制限があることを説明しています。罰として賃金の一部を減らす場面で、平均賃金と支払期の賃金総額という異なる基準を使います。
1回分の上限を満たしていても、同じ支払期の合計が上限を超えれば、その合計の問題が残ります。反対に、合計が賃金総額の10分の1以下でも、1回の額が平均賃金1日分の半額を超えれば、その1回の制限に合いません。片方だけの計算では足りません。
| 確認する上限 |
計算の基準 |
読み違えやすいこと |
| 1回の額 |
平均賃金1日分×2分の1 |
月給の半額ではない |
| 一賃金支払期の総額 |
その支払期の賃金総額×10分の1 |
その額まで毎回引けるわけではない |
ここでいう一賃金支払期は、給与の支払いについて区切った期間です。毎月給与を受け取る人なら、どの締切期間の賃金を対象としているのかを確認します。銀行に振り込まれた手取り額を、そのまま基準にしないことです。
給与明細に「調整」「その他控除」とだけ書かれているなら、何を理由に、どの期間について、どんな式で引いたのかを聞きます。明細上の項目名だけでは、制裁なのか欠勤分なのか、給与条件が変わったのかはわかりません。
平均賃金は、給与相場や通常の時給とは違う
神奈川労働局の平均賃金については、労働基準法上の手当や補償、減給制裁の制限額などの計算に使う数字と説明しています。求人で見る平均年収や、社内でいう平均的な月給とは別です。
原則は、事由の発生日以前3か月間の賃金総額を、その期間の暦日数で割ります。賃金の締切日があるときの期間の取り方、算入する賃金と除く賃金、計算から除外する期間なども確認します。基本給だけを取り出して、出勤日数で割ればよいわけではありません。
同労働局は、通勤手当や時間外手当などを含む、税金・社会保険料などの控除前の賃金総額で計算すると説明しています。日給や時給などで働く人には最低保障の確認もあるため、単純な原則の式だけで個人の額を確定しないことです。
計算を会社へ聞くときは、平均賃金の最終額だけでなく、対象にした期間と賃金項目を出してもらいます。対象期間に休業や育児休業などがあるなら、それをどう扱ったかも確認します。分母が出勤日数なのか暦日数なのかは、特に見落としやすい箇所です。
手取りが減っただけなら、税や社会保険料の変化もあり得ます。支給額が下がったのか、控除額が増えたのかを先に分けます。年間の給与を確かめる書類との違いは源泉徴収票の見方で確認できます。今回の処分の説明には、月々の給与明細も必要です。
計算例は、仮定の条件を固定して見る
次の計算は、上限の違いを示すための仮定です。実際の給与相場や平均値ではありません。平均賃金の計算に入れる賃金が900,000円、対象期間が90暦日で、除外期間や最低保障などの調整がないものとします。
| 仮定・計算項目 |
金額・日数 |
| 算定期間の賃金総額 |
900,000円 |
| 算定期間の暦日数 |
90日 |
| 平均賃金1日分 |
900,000円÷90日=10,000円 |
| 1回の制裁の上限 |
10,000円÷2=5,000円 |
| 今回の支払期の賃金総額 |
300,000円 |
| 支払期の総額の上限 |
300,000円÷10=30,000円 |
出典:神奈川労働局、平均賃金について、計算の原則。厚生労働省、モデル就業規則、懲戒の種類の解説。金額・日数はすべて説明用の仮定。
この条件なら、1回について20,000円を引く説明は、支払期の合計が30,000円以内でも、1回の上限5,000円を超えます。月の上限だけを見てよい例ではありません。平均賃金を使う制限も並べて確認します。
反対に、別々の事由についてそれぞれ5,000円の制裁を重ねるときも、合計を確認します。各事由をどう分けたか、根拠となる規定や処分の内容は別途確認が必要です。同じ行為の回数を会社が都合よく分割してよいと、この計算例から判断することはできません。
上限は、そこまでなら処分が必ず有効という意味ではありません。事実の有無、就業規則の根拠、処分の重さなどの問題が残ります。計算が合っていることと、処分そのものが妥当であることを分けて相談します。
同じ理由で毎月引くと言われたら、処分の単位を確認する
山梨労働局の制裁に関する解説は、1つの事由で制裁として減給できるのは平均賃金の半額までと説明し、減給10分の1を6か月という扱いはできないと示しています。
「今月は1割しか引かないから適法」と説明されたら、どの行為に対する処分か、いつまで引くのかを聞きます。総額の上限だけが繰り返し示され、1回の上限の説明がないなら、そのまま納得したことにしないことです。
ただし、処分の時期と給与への反映時期がずれているなど、明細だけでは経緯が見えないこともあります。処分通知と給与明細の対応を確認します。自分で違法と断定して欠勤するのではなく、記録を持って相談し、会社への確認方法を決めます。
給与の変更が今後続くと説明されたときは、制裁として引くのか、役職・職務に伴い給与条件を変えるのかを聞きます。何が根拠かが違えば、相談先に示す論点も変わります。会社側の呼び方をそのまま結論にせず、実際の変更内容を書き出します。
遅刻・早退の控除と、罰金としての減給を分ける
厚生労働省のモデル就業規則の解説は、遅刻・早退で働かなかった時間に対する賃金分の控除と、制裁を区別しています。その時間に対する賃金額を超える減給は制裁とされ、労働基準法91条の制限を受けます。
「遅刻したから減給」という説明だけでは足りません。勤怠で何分の遅刻になっているか、欠勤控除の計算式は何か、そのほかに懲戒として引いた額があるかを分けます。働かなかった分の控除と、罰として引く分を同じ欄で合算しているなら、内訳を聞きます。
次の例も仮定です。規程上の不就労時間の計算単価を1時間1,500円とし、30分働かなかったものとします。実際の会社の控除単価や月給制の扱いを、この例で決めることはできません。
| 仮定・計算項目 |
金額・時間 |
| 不就労時間 |
30分 |
| 仮定した計算単価 |
1時間1,500円 |
| 時間に対応する額 |
1,500円×30分÷60分=750円 |
| 説明された控除額 |
3,000円 |
| 時間対応額との差 |
2,250円 |
出典:厚生労働省、モデル就業規則、懲戒の種類の解説2。数値は仮定。差額があるときは根拠と性質を確認するための例。
この例では、3,000円全体を働かなかった30分の賃金と説明することはできません。時間対応額を超える部分の性質と、制裁としての上限や手続を確認します。差額があるからその額なら必ず適法、という結論にもなりません。
欠勤にも同じように、不就労分を支払わないという考え方と、懲戒を分ける必要があります。月給制でも、どの賃金項目からどう控除する規程なのかを読みます。欠勤した日数と給与の差額だけから、計算が合っているかはわかりません。
降格で給与が下がるときは、職務と給与表の変更を確認する
山梨労働局の同解説は、仕事内容の変更を伴う降格や異動によって賃金額が変わることは、減給の制裁に当たらないと説明しています。役職や担当業務が変わり、適用する給与条件が変わる話と、罰として賃金を引く話は分けます。
ただし、「降格」と呼べば賃金を自由に下げられるという意味ではありません。仕事内容や責任がどう変わるか、役職手当が何を条件に支給されるか、基本給や等級をどう変更する規定があるかを確認します。名前だけ変え、仕事内容は同じという説明なら、その点も残します。
厚生労働省の労働契約法のあらましは、労働条件の合意による変更や就業規則による変更、懲戒を別々に説明しています。91条の制裁に該当しないことと、その賃金変更が有効であることは同義ではありません。
| 会社の説明 |
追加で確認すること |
| 役職を外す |
責任・権限、役職手当の支給要件 |
| 等級を下げる |
等級制度、評価基準、給与表 |
| 別の職務へ異動する |
業務の変更、契約範囲、賃金規程 |
| 罰として給料を引く |
処分事由、1回の額、支払期の合計 |
比較するなら、変更前後の職務、役職、等級、基本給、手当を並べます。総額が同じでも内訳が変わることがあり、総額が下がった理由が複数重なることもあります。給与明細の差を、すべて降格の影響とまとめずに確認します。
あっせん申請の内容別ランキング:労働条件の引き下げは5位
相談の次の段階として、労働局のあっせん(紛争調整委員会が間に入る話し合い)を申請した件数を、申請内容別に多い順に並べました。厚生労働省の令和7年度個別労働紛争解決制度の施行状況の参考第7表、令和7年度の行です。1件の申請が複数の内容にまたがるときは、それぞれに数えた延べ件数です。
| 順位 |
申請内容 |
延べ件数 |
割合 |
| 1 |
その他の労働条件 |
924件 |
18.9% |
| 2 |
解雇 |
892件 |
18.2% |
| 3 |
いじめ・嫌がらせ |
868件 |
17.8% |
| 4 |
雇止め |
475件 |
9.7% |
| 5 |
労働条件の引き下げ |
453件 |
9.3% |
| 6 |
退職勧奨 |
362件 |
7.4% |
| 7 |
その他 |
243件 |
5.0% |
| 8 |
雇用管理等 |
211件 |
4.3% |
| 9 |
自己都合退職 |
174件 |
3.6% |
| 10 |
出向・配置転換 |
168件 |
3.4% |
| 11 |
採用内定取り消し |
118件 |
2.4% |
| — |
内訳延べ件数 |
4,888件 |
100% |
出典:厚生労働省、令和7年度個別労働紛争解決制度の施行状況、参考第7表(あっせん申請件数の推移・申請内容別)。割合は資料の値で、合計が100%にならないことがあります。
労働条件の引き下げには、制裁の減給だけを集めたという説明はありません。この453件を「違法な減給の件数」や「降格した人数」に置き換えないことです。申請された件数で、会社が違法と認定された数でもありません。
同じ事案で複数の内容が相談されると、内容ごとに数えます。労働基準法違反の疑いがある相談は別の扱いで、パワーハラスメントに関する集計にも区分上の注意があります。全従業員の何%が減給されたかを、この表から作ることはできません。
会社へは、理由と計算式を分けて尋ねる
給与が減ったとき、担当者への質問は明細の具体的な欄から始めます。誰かの給与と比べて「不公平だ」と言う前に、自分の賃金条件に何が起きたかを確認します。処分なのか、控除なのか、条件変更なのかが明確になると、必要な資料も絞れます。
【対象月】の給与明細の【項目】について、減額の理由、対象期間、計算式と根拠規定を教えてください。制裁としての減給であれば、処分の事由、平均賃金の算定、支払期の合計額も確認したいです。
質問した日時と回答を残し、給与の変更について同意を求められたら、説明を聞いた記録と、変更に同意する意思表示を分けて読みます。署名欄があるだけで急いで記入せず、何への同意か不明な点を確認します。
反論するために勤怠を変更したり、会社への損害と自分の給与を勝手に差し引いたりはしません。事実と記録を残して相談するほうが、何を求めているかを説明しやすくなります。書類が不足しているなら、不足したまま何を確認できるかを窓口に聞きます。
処分の理由に食い違いがあるなら、その箇所を残す
減額の計算に入る前に、処分の対象とされた出来事が、自分の把握した事実と合うかを読みます。遅刻の日時、指示の内容、提出した書類など、確認できるものから照合します。計算だけを質問しているうちに、出来事そのものを認めたと受け取られないよう、食い違いは別に伝えます。
自分に落ち度があったと思うときでも、処分の根拠と額を確認することはできます。逆に、事実に納得できないからと、明細を見ずにすべて無効と決めるのも避けます。出来事、会社の判断、賃金の計算を分けておくと、相談先にも説明しやすくなります。
会社に経緯書などを求められたら、自分が確認できる範囲で書きます。推測や伝聞を自分の経験として加えず、記憶が曖昧な箇所は曖昧だと示します。提出前の控えを残し、後から説明が変わったときに、どの部分が変わったかを確認できるようにします。
書類を受け取る確認と、事実や処分への同意は同じではありません。何を求められているかを読み、わからない点を質問します。回答期限までに確認が難しいときは、その事情も含め、会社への返答と外部相談の進め方を相談します。
説明を受けた後は、次の明細でも内訳を照合する
会社が計算を見直すと答えたら、どの項目を、どの給与で修正するかを聞きます。「対応する」という回答だけでは、次の明細で何を確認すればよいかわかりません。対象の支払期と項目がわかる形で回答を残します。
明細が届いたら、支給欄と控除欄の両方を見ます。ある項目が戻っても、別の項目の変更が重なっていれば、振込額の増減だけでは修正の中身がわかりません。自分が確認を求めた部分と、それ以外の通常の変動を分けて照合します。
降格や職務変更の説明を受けた人は、給与だけでなく、実際の業務や責任がどう変わったかも記録します。書面上の役職と日々の仕事が食い違っているなら、その点を人事へ質問します。職場の噂や他人の評価を集めるより、自分が担当する仕事と適用規程を残すほうが、相談の内容を明確にできます。
上限を超える疑いは、給与明細と規程を持って相談する
厚生労働省の就業規則の制裁規定に関するQ&Aは、91条の制限を超えた就業規則の部分は無効と説明しています。「社内ルールだから」という返事だけで、法律の上限がなくなるわけではありません。
労働基準法違反の疑いは労働基準監督署、降格や賃金変更などの民事上のトラブルは総合労働相談コーナーへ相談します。論点が重なることもあるため、入口で処分通知と給与明細を示し、どこへ相談すべきか確認します。
用意するのは、変更前後の給与明細、労働条件通知書、賃金規程、就業規則、処分通知、勤怠記録、会社とのやり取りです。相談したいことを「処分の理由」「計算」「今後の給与」に分けます。持参物は労働基準監督署への相談でも確認できます。
支払われるはずの賃金と違うと思っても、自分が受け取れる額をこの記事の計算例だけで確定しないことです。算定期間や賃金の性質を確認してから、会社へ求める対応を具体的にします。
応募先の賃金制度は、求人票・面接・しょくばらぼで確かめる
次の会社では、月給だけでなく基本給、役職手当、職務手当、評価で変わる部分を求人票で確認します。面接では、昇格・降格や職種変更のときの給与の決め方を聞きます。「評価による」という回答なら、何を、いつ、誰が評価するかまで確認します。
待遇を比べるときは、企業研究のやり方に沿って、公開情報と自分に提示された条件を分けます。厚生労働省のしょくばらぼに情報があれば、残業や定着などの数字も読みます。未掲載の給与規程を、公表値だけで推測する必要はありません。
全国の相談件数は、応募先で減給が多い証拠にはなりません。求人票の内訳、面接の説明、公開された職場情報を照合します。その会社の実際の数字は、求人票・面接・しょくばらぼで確かめます。