月給から時給を出すには、計算の対象となる月給を月平均所定労働時間で割ります。最低賃金と比べるなら、通勤手当、家族手当、精皆勤手当、残業代などを除いた月給を使います。令和8年度の地域別最低賃金の全国加重平均は1,177円ですが、自分の賃金を比べる相手は勤務先に適用される最低賃金です。
厚生労働省の最低賃金の案内と労働時間の説明を2026年10月23日に確認しました。「月給を割る」という操作が同じでも、最低賃金の判定、残業代の計算、働いた時間に対する収入の振り返りでは、使う金額と時間が違います。計算前に何を知りたいかを決めます。
最低賃金と比べるときの式を先に決める
厚生労働省の最低賃金額以上かどうかを確認する方法は、月給制の計算を、対象となる月給を1か月平均所定労働時間で割る形で示しています。
時給換算額 = (月給 − 最低賃金の対象外の賃金)÷ 月平均所定労働時間
この月給は、税金や社会保険料を引いた手取りではありません。控除前の賃金から、最低賃金の比較に入れない賃金を除いて使います。給与明細の差引支給額や銀行への振込額を分子にすると、違う計算になります。
分母の所定労働時間は、契約や就業規則で定められた通常の勤務時間です。残業も入れた実労働時間とは違います。残業の多い月に、残業代を含む総支給額を実労働時間で割っても、それだけでは最低賃金に違反しているかは判定できません。
| 知りたいこと |
金額と時間の選び方 |
| 最低賃金を下回るか |
対象賃金と所定労働時間 |
| 残業代の基礎額 |
割増賃金用の賃金と所定時間 |
| 実際の働き方を振り返る |
収入と実労働時間を定義して集計 |
| 生活に使えるお金 |
税・社会保険料控除後の手取り |
時給換算した数字には「最低賃金用」「残業代用」など、用途を書き添えます。同じ会社の明細から違う時間単価が出ても、対象が異なれば直ちに計算ミスとは限りません。
最低賃金の計算から外す賃金を明細で拾う
厚生労働省の最低賃金制度の比較チェックでは、毎月の賃金のすべてを最低賃金の対象にはしません。次の賃金を除きます。
| 除く賃金 |
明細で見るもの |
| 臨時に払われる賃金 |
結婚手当など |
| 1か月を超える期間ごとの賃金 |
賞与など |
| 所定時間を超える労働への賃金 |
時間外の賃金 |
| 所定休日の労働への賃金 |
休日の賃金 |
| 深夜労働の割増部分 |
深夜の加算額 |
| 精皆勤手当 |
出勤状況に応じた手当 |
| 通勤手当 |
通勤費の手当 |
| 家族手当 |
扶養等に応じた手当 |
出典:厚生労働省、最低賃金制度の比較チェック、最低賃金の対象となる賃金の説明。深夜労働について除くのは、通常の労働時間の賃金を超える割増部分です。
基本給だけで比べるのも、総支給額を全部入れるのも正確ではありません。たとえば通常の職務手当があれば対象賃金に含めて計算します。住宅手当を残業代の計算で除いている会社でも、それだけを理由に最低賃金の比較から除くことはできません。
「固定手当」「調整手当」という名前だけでは、その中身がわかりません。固定残業代がまとめて入っているなら、通常の労働に対する賃金と分けた金額を会社に確認します。明細に記載がなければ、賃金規程や労働条件通知書の説明を求めます。
給与の一部が日給、別の手当が月給という仕事では、それぞれ時間額に直して合算します。厚生労働省の確認方法も、支払形態の組み合わせを別に説明しています。すべてを一つの月給とみなす前に、各手当の支払単位を読みます。
月平均所定労働時間は年間の勤務予定から求める
月給制で月によって所定時間が違うなら、年間の所定労働時間を12で割って月平均を出します。毎月同じ時間が決まっている契約なら、その所定時間を確認します。出勤した月だけを見て、都合のよい月を選んではいけません。
月平均所定労働時間 = 年間所定労働時間 ÷ 12か月
毎日の所定時間が同じなら、年間所定労働時間は、1日の所定労働時間と年間所定労働日数から計算できます。曜日によって時間が違う職場なら、勤務カレンダーの各日の所定時間を足します。
| 項目 |
仮定した条件 |
| 1日の所定時間 |
8時間 |
| 年間所定労働日数 |
240日 |
| 年間所定労働時間 |
8 × 240 = 1,920時間 |
| 月平均所定労働時間 |
1,920 ÷ 12 = 160時間 |
この表は計算方法を示す仮定です。公的統計の平均値でも、実在の職場の条件でもありません。自分の計算では、会社の勤務カレンダーと労働条件通知書の時間へ置き換えます。
求人票の年間休日から日数を求めるときは、暦の日数と会社の所定休日を確認します。有給休暇を取得した日を、会社の所定休日へ足して所定労働日数を減らす扱いにはしません。もともとの労働日を休暇として休んだことと、会社が休日と決めた日は別です。
欠勤や遅刻で賃金が減った月も、その月の支給額を通常の所定時間で機械的に割ると誤解が生じます。通常の月給額、欠勤控除、控除の対象時間を別に確認します。計算の前提が変わっている月は、その理由を書き残します。
所定時間と実労働時間のどちらも不明なら、先に時間を集めます。明細の総支給額だけでは分母が決まらず、時給換算は完成しません。年間の労働日数を出す手順は労働日数の計算で確認できます。
月給の計算例は手当を外してから割る
次は、月平均所定労働時間が160時間という仮定の例です。基本給と職務手当は最低賃金の対象、通勤・家族・精皆勤手当と時間外の賃金は対象外として置いています。
| 月の賃金 |
仮定の金額 |
最低賃金の比較 |
| 基本給 |
208,000円 |
入れる |
| 職務手当 |
16,000円 |
入れる |
| 通勤手当 |
10,000円 |
除く |
| 家族手当 |
5,000円 |
除く |
| 精皆勤手当 |
3,000円 |
除く |
| 時間外の賃金 |
28,000円 |
除く |
| 総支給額 |
270,000円 |
全額は使わない |
比較に使う月給は、208,000円 + 16,000円 = 224,000円です。時給換算は、224,000円 ÷ 160時間 = 1,400円となります。総支給額270,000円を160時間で割った額ではありません。
計算例の結果が最低賃金以上でも、実際の職場まで適法だと判断できません。本人の手当の中身、所定時間、適用される地域別・特定最低賃金をそろえたうえで比べます。例の基本給だけを自分の月給に変え、時間や手当はそのままにしないことです。
同じ月給でも所定時間が違えば時間単価は変わる
対象月給を同じ224,000円と仮定し、月平均所定労働時間だけを変えます。いずれも説明用の条件で、統計から取った値ではありません。
| 月平均の所定時間 |
計算 |
時給換算 |
| 140時間 |
224,000 ÷ 140 |
1,600円 |
| 160時間 |
224,000 ÷ 160 |
1,400円 |
| 175時間 |
224,000 ÷ 175 |
1,280円 |
求人票の月給だけで比べると、この違いが見えません。月給が同じでも、年間の所定日数や1日の所定時間が違えば、通常の勤務に対する時間単価は変わります。残業が多いかどうかは、この表とは別に実績で確認します。
求人票を比較するときは、換算額の横に条件を残します。基本給だけか、職務手当まで入れたか、月平均時間は会社の回答か自分の計算かを書きます。賞与を含めた年収を使った数字と、毎月の通常賃金を使った数字を同じ欄へ入れないことです。条件をそろえてから金額を比べます。
計算途中で時間を整数に丸めると、最低賃金に近い金額では判定が変わりかねません。時間の換算や端数処理が不明なら、会社が使う分母と処理方法を確認します。自分で有利な方向に切り上げたり切り捨てたりして判定しないことです。
最低賃金の引上げ額ランキングで改定の幅を確認する
令和8年度の地域別最低賃金全国一覧から、引上げ額が大きい順の上位を抜き出しました。金額順の全国ランキングとは違い、前年から何円変わったかを見る表です。同額は同順位とし、次の順位は該当する地域数だけ進めています。
単位は円、対象は地域別最低賃金の時間額です。平均時給や中央値ではありません。発効前の改定額も含み、日付は2026年の発効日です。
| 順位 |
地域 |
引上げ額 |
改定額 |
発効日 |
| 1 |
佐賀 |
65円 |
1,095円 |
11月15日 |
| 2 |
鹿児島 |
64円 |
1,090円 |
10月25日 |
| 3 |
高知 |
63円 |
1,086円 |
10月29日 |
| 3 |
沖縄 |
63円 |
1,086円 |
12月2日 |
| 5 |
茨城 |
62円 |
1,136円 |
10月18日 |
| 5 |
宮崎 |
62円 |
1,085円 |
10月24日 |
出典:厚生労働省、令和8年度の地域別最低賃金全国一覧、一覧PDFの1ページ、引上げ額・答申された改定額・発効日の各列。表番号はありません。確認日は2026年10月23日です。
引上げ額が大きい地域と、改定後の時間額が高い地域は一致しません。引上げ額の表から、自分の時給が最低額を超えているかは判定できません。使うのは改定額と発効日です。
確認日時点で、表のうち茨城は改定後の額が発効しています。それ以外の掲載県は発効前です。たとえば佐賀は、改定前1,030円から1,095円へ変わりますが、10月23日の勤務を改定後の額だけで判定することはできません。
給与の締日が発効日と違っても、発効日以降の労働には新しい最低賃金を使います。「次の給与支給日から」「次の契約更新から」と自動で先送りされるものではありません。改定の前後をまたぐ明細は、どの勤務期間の賃金かを確かめます。
前年の地域差は最低賃金の基本から確認できます。最新の改定額を読むときも、前年額と引上げ額を足す操作だけで終わらず、発効日まで一緒に見ます。
勤務地と適用日を決めてから判定する
最低賃金は、全国加重平均と比べるものではありません。地域別と特定最低賃金の両方が適用される仕事では、高い方の額を確認します。片方の表だけで判定を終えず、応募する仕事がどの適用範囲に入るかまで確かめます。自分に適用される地域別最低賃金を調べ、特定の産業の最低賃金が関係する仕事なら、その適用範囲も確認します。会社の本社所在地と実際に働く事業場が違うときは、本社の都道府県だけで決めないことです。
厚生労働省の賃金に関する公式Q&Aで説明するように、派遣の仕事では派遣先の地域の最低賃金が適用されます。求人の掲載元や給与を振り込む会社の住所だけで調べると、比較する地域を誤ることがあります。勤務地が変わったときは、時給を改定したかだけでなく、適用する最低賃金が変わるかを担当者に聞きます。
最低賃金を上回っているかを見る作業と、前年から昇給したかを見る作業も別です。もともとの賃金が新しい最低額を上回っているなら、地域の引上げ額と同じ額だけ本人の賃金が増えるとは限りません。昇給の約束があるかは、契約書や賃金規程で確認します。
求人票の額と明細の額を比べるなら、同じ雇用区分、同じ勤務条件かも読みます。試用期間中の賃金が別に示されていることもありますが、試用期間という名前だけで最低賃金の適用がなくなるわけではありません。減額の特例は労働局長の許可が必要な仕組みで、会社が独自に決めてよいという意味ではありません。
給与明細に疑問が出たときは、計算に使った資料を保存します。月平均時間を会社から聞いたなら、その回答も残します。労働条件通知書の時間と回答の時間が違うなら、どちらが現在の契約に適用されるかを確認してから再計算します。
残業代の時間単価には、違う除外ルールを使う
最低賃金との比較に使った1,400円を、何も確認せず残業代の計算へ流用しないことです。割増賃金の基礎となる賃金は、労働基準法37条と施行規則19条・21条による計算です。
厚生労働省の割増賃金の説明では、原則として1日8時間、週40時間を超える労働などに割増賃金を求めています。月給制の基礎額は、算入する月の賃金を所定労働時間で時間額に直して求めます。月によって所定時間が違うときは、1年間の月平均を使います。
厚生労働省の基礎賃金の説明資料でも、除外する賃金を確認できます。施行規則21条の除外対象は、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金です。ただし、名前だけで除外できるわけではありません。家族手当や住宅手当などは、実際の支給条件を確認します。
精皆勤手当は、最低賃金の比較では除きますが、割増賃金の基礎では通常入れます。逆に住宅手当は、割増賃金の基礎から除外できる支給内容でも、最低賃金の計算ではそれだけを理由に除きません。
| 賃金の例 |
最低賃金の比較 |
残業代の基礎 |
| 通常の職務手当 |
算入 |
算入 |
| 精皆勤手当 |
除外 |
通常算入 |
| 住宅手当 |
通常算入 |
支給条件を確認 |
| 時間外労働への賃金 |
除外 |
通常賃金と分ける |
法定の割増率を掛ける前に、基礎額の対象が違います。手当ごとの扱いと計算手順は残業代の計算で確認できます。給与明細で基礎単価が違うときは、その理由を手当と時間に分けて会社へ聞きます。
労働時間を計算するときは分を小数へ正しく直す
時間を足すときは、時刻と時間数を混ぜないことです。始業時刻から終業時刻までの長さを出し、労働から離れられる休憩を引きます。出勤前や退勤後に指示された作業があれば、実際の労働時間として別に記録します。
30分は0.5時間です。仮に7時間30分なら7.5時間であり、7.30時間ではありません。表計算へ入力するときは、時刻形式なのか、小数の時間数なのかをそろえます。
| 仮定の勤務 |
時間数 |
| 始業から終業まで |
9時間 |
| 自由に使える休憩 |
1時間 |
| 労働時間 |
8時間 |
この例でも、休憩と呼ぶ時間に電話対応や待機が義務づけられていれば、実際に労働から離れられたかを確認する必要があります。会社の呼び名だけで全時間を引かず、指示内容と実態を記録します。
所定時間を使う最低賃金の計算と、実際に働いた時間を数える作業は、どちらも必要です。所定時間で最低額を上回っていても、記録されていない残業があれば別の問題が残ります。タイムカード、勤務表、給与明細の対象月をそろえ、合計だけでなく日ごとの内訳を残します。
求人票・面接・しょくばらぼで給与と時間の実績を確かめる
応募先を比べるときは、基本給、算入する手当、固定残業代、年間の所定労働時間を別々にメモします。「月給が高い」という印象だけでは、通常の労働に対する時間単価も、残業の多さもわかりません。
面接では「【応募職種】の月平均所定労働時間と、その計算に使う年間の勤務日数を教えてください」と聞けます。固定残業代があれば、基本給と分けた金額、対応する時間、超過分の支払いも確認します。
働き始めてから疑問が出たときは、計算式、使った月給、除いた手当、分母にした時間を見せて問い合わせます。「時給が低い気がする」より、会社と同じ前提で比べられます。説明と資料が合わなければ、勤務記録や明細をそろえて労働基準監督署などに相談します。
厚生労働省のしょくばらぼに残業時間などが載っていれば、求人票の所定時間と並べて読みます。全国の最低賃金や計算例だけでは、応募先の時間単価は決まりません。その会社の実際の数字は、求人票・面接・しょくばらぼで確かめます。