産業医面談の中心は、労働安全衛生法で決まっている「医師による面接指導」です。入口は2つあります。週40時間を超えて働いた時間が月80時間を超え、疲労がたまっている人が申し出たときと、ストレスチェックで高ストレスとされ、面接が必要と判断された人が申し出たときです。どちらも、申出があれば会社は遅滞なく面接指導を行います。
厚生労働省の令和7年労働安全衛生調査では、過去1年間に月80時間を超えた月があった人のうち、すべての月で医師の面接指導を受けた人は16.2%でした。受けなかった人は76.7%です。仕組みはあっても、使われている割合は高くありません。
この記事の法令と資料は、2026年10月25日に確認しました。面談で何が会社に伝わるかも、条文で分けて説明します。
産業医面談は3つに分けて考える
「産業医面談」という言葉は、法律の用語ではありません。会社で使われる場面を分けると、次のようになります。
| 種類 |
根拠 |
きっかけ |
| 長時間労働者への面接指導 |
労働安全衛生法66条の8 |
月80時間超の時間外・休日労働と疲労の蓄積、本人の申出 |
| 高ストレス者への面接指導 |
同法66条の10 |
ストレスチェックで医師等が必要と認め、本人が申し出る |
| 会社が独自に設ける面談 |
就業規則や社内の制度 |
休職からの復帰、健診結果の相談など |
出典:労働安全衛生法と労働安全衛生規則(2026年10月25日時点の条文)。
上の2つは、会社に実施義務がある面接指導です。3つ目は会社ごとの制度で、法律で中身が決まっているわけではありません。休職と復帰の流れは、適応障害で休職するときで説明しています。
産業医がいるのは、常時50人以上の事業場
産業医の選任は、労働安全衛生法13条で決まっています。選任が必要な規模は、同法施行令5条で「常時50人以上の労働者を使用する事業場」です。会社全体ではなく、事業場(工場や支店など)ごとに数えます。
| 事業場の規模 |
産業医の決まり |
| 常時50人未満 |
選任義務なし |
| 常時50人以上 |
産業医を選任する |
| 常時1,000人以上 |
その事業場に専属の産業医を選任する |
| 常時3,000人超 |
2人以上の産業医を選任する |
出典:労働安全衛生法施行令5条、労働安全衛生規則13条1項。有害業務に常時500人以上が従事する事業場も専属です。
50人未満の事業場では、産業医がいないことがあります。厚生労働省の労働安全衛生調査の用語説明は、こうした小規模事業所を支える機関として地域産業保健センターを挙げ、長時間労働者への面接指導などに医師等が対応するとしています。
産業医には、会社への勧告の権限があります。会社は勧告を尊重しなければならず、内容を衛生委員会などに報告します(13条5項、6項)。
長時間労働の面接指導:月80時間超と本人の申出
対象は労働安全衛生規則52条の2に書かれています。休憩時間を除いて週40時間を超えて働いた時間が月80時間を超え、疲労の蓄積が認められる人です。
ここでいう時間は、会社の所定労働時間を超えた残業とは数え方が違います。週40時間を超えた時間なので、休日に働いた時間も入ります。給与明細の残業時間と一致しないことがあります。残業の上限の決まりは残業の少ない業界の記事で整理しています。
会社がする3つのこと
- 毎月1回以上、決まった日に、超えた時間を計算する(52条の2第2項)
- 月80時間を超えた人に、その時間を速やかに知らせる(52条の2第3項)
- 月80時間を超えた人の氏名と時間を、産業医に伝える(14条の2)
本人に時間が通知されるので、自分が対象かどうかは会社からの知らせでわかります。申出は、計算の期日のあと遅滞なく行います(52条の3第2項)。産業医は、対象の人に申出をすすめることができます(52条の3第4項)。
申出がなくても対象になる人
研究開発の業務に就く人は、月100時間を超えると、申出がなくても会社が面接指導を行います(労働安全衛生法66条の8の2、規則52条の7の2)。高度プロフェッショナル制度で働く人にも、健康管理時間にもとづく別の決まりがあります(66条の8の4)。
ストレスチェックのあとの面接指導
ストレスチェックは、労働安全衛生法の66条の10で決まっている検査です。結果は、検査をした医師等から本人に通知されます。
面接指導の対象は、検査の結果、心理的な負担が高く、面接指導が必要だと検査をした医師等が認めた人です(規則52条の15)。結果の通知を受けたあと遅滞なく申し出ると、会社は遅滞なく面接指導を行います(52条の16)。
50人未満の事業場は今は努力義務
常時50人未満の事業場は、労働安全衛生法の附則4条により、当分の間、ストレスチェックが努力義務です。令和7年の法改正で義務の対象を広げることが決まりました。
厚生労働省の審議会の政令案の資料では、施行の日を令和10年4月1日とする案が示されています。案の段階の日付なので、確定した日は厚生労働省の公表で確かめます。
自分から相談したいときは、会社の掲示を見る
月80時間を超えていなくても、体調や働き方の相談をしたい人はいます。産業医を選んだ会社は、次の3つを、作業場の見やすい場所への掲示や書面の交付などで働く人に知らせることになっています。根拠は労働安全衛生法101条2項と、規則98条の2です。
| 会社が知らせること |
中身 |
| 産業医の業務の内容 |
その事業場で産業医が何をしているか |
| 健康相談の申出の方法 |
誰に、どうやって申し込むか |
| 心身の情報の取扱い |
産業医が相談の内容をどう扱うか |
出典:労働安全衛生規則98条の2第2項。
会社には、産業医が働く人の健康相談に応じられる体制を整える努力義務もあります(法13条の3)。社内のポータルや掲示板に案内がないか、まず探します。見つからなければ、人事か衛生管理者に申込み先を聞きます。
労働時間は客観的な方法で記録される
面接指導の前提になる労働時間は、会社が把握します(法66条の8の3)。方法は、タイムカードやパソコンの使用時間の記録などの客観的な方法その他の適切な方法で、会社は記録を3年間保存します(規則52条の7の3)。
自己申告の時間と、パソコンのログや入退館の記録が大きくずれている職場では、80時間を超えているのに通知が来ないことがありえます。自分でも出退勤の時刻を手帳などに残しておくと、相談するときの材料になります。
面接で医師が確かめること
面接で医師が確かめる事項も、規則で決まっています。
| 面接指導 |
医師が確かめる事項 |
| 長時間労働 |
勤務の状況、疲労の蓄積の状況、そのほかの心身の状況 |
| 高ストレス |
勤務の状況、心理的な負担の状況、そのほかの心身の状況 |
出典:労働安全衛生規則52条の4、52条の17。
面接の前に、最近の勤務時間、休日の取れ方、睡眠、困っている業務をメモにしておくと、短い時間でも話が進みます。持ち帰りの仕事や、記録に残っていない作業があるなら、それも伝えます。
会社に伝わること、伝わらないこと
面接指導のあと、会社は記録を作り、5年間保存します(規則52条の6、52条の18)。記録には、実施日、氏名、医師の氏名、心身の状況、医師の意見が入ります。会社は医師の意見を聴き、必要なら働く場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数を減らすなどの措置をとります。
| 項目 |
会社に伝わるか |
| ストレスチェックの結果 |
本人の同意なしには伝わらない(法66条の10第2項) |
| 面接指導を受けたこと |
会社が面接を手配し記録するので伝わる |
| 面接指導の記録と医師の意見 |
会社が作成・保存する |
| 医師の意見にもとづく措置 |
会社が判断して行う |
出典:労働安全衛生法66条の8、66条の10と労働安全衛生規則の各条。
高ストレス者が面接を申し出ると、会社が面接を手配するので、申出をした事実は会社に知られます。これを理由とした不利益な扱いは、66条の10第3項で禁じられています。
心身の状態に関する情報について、会社は健康の確保に必要な範囲で集め、使うことになっています(労働安全衛生法104条)。面接で話した内容のどこまでが上司に伝わるかは、会社の健康情報の取扱規程を見て、産業医か担当者に聞きます。
長時間労働の人の面接指導の割合:受けた人は16.2%
厚生労働省の令和7年労働安全衛生調査の個人調査で、過去1年間(令和6年11月1日〜令和7年10月31日)に月80時間を超えた月があった人と、医師の面接指導を受けたかを年齢別に並べました。
| 区分 |
80時間超の月があった |
すべての月で受けた |
一部の月で受けた |
受けなかった |
| 合計 |
1.4% |
16.2% |
7.1% |
76.7% |
| 20〜29歳 |
0.9% |
8.6% |
2.4% |
89.1% |
| 30〜39歳 |
0.9% |
26.7% |
― |
73.3% |
| 40〜49歳 |
2.3% |
17.3% |
5.4% |
77.3% |
| 50〜59歳 |
1.5% |
13.8% |
2.7% |
83.5% |
| 男 |
2.4% |
15.7% |
7.3% |
77.0% |
| 女 |
0.3% |
21.6% |
4.2% |
74.2% |
出典:厚生労働省、令和7年労働安全衛生調査(実態調査)の概況、第20表。80時間超の月があった割合は派遣労働者以外の労働者に占める割合、右の3列はその人たちを100とした割合です。60歳以上は調査対象数が少なく利用に注意が要るため、載せていません。
月80時間を超えた月がある人は1.4%で、男性は2.4%です。そのうち4人に3人は、面接指導を受けていません。20代は受けなかった人が89.1%でした。
ここでの「時間外・休日労働」は、調査で本人が答えた時間です。面接指導は申出があって初めて行うものなので、受けなかった人の中には、申し出なかった人と、疲労の蓄積がないとされた人などが混ざっています。この表だけで、会社が義務を果たしていない割合とは読めません。
前の年の令和6年調査では、すべての月で受けた人は12.6%でした。
事業所の規模別:ストレスチェックを行う割合
同じ調査の事業所調査から、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合と、その中でストレスチェックを実施した割合を規模別に並べました。
| 事業所規模 |
対策に取り組む |
ストレスチェック実施 |
職場環境の評価・改善 |
| 1,000人以上 |
99.8% |
100.0% |
98.1% |
| 500〜999人 |
99.6% |
99.9% |
94.1% |
| 300〜499人 |
100.0% |
99.3% |
85.4% |
| 100〜299人 |
98.5% |
94.5% |
84.7% |
| 50〜99人 |
90.3% |
85.7% |
72.5% |
| 30〜49人 |
72.0% |
58.4% |
51.6% |
| 10〜29人 |
54.6% |
55.9% |
43.8% |
| 合計 |
63.0% |
64.0% |
52.8% |
出典:厚生労働省、令和7年労働安全衛生調査(実態調査)の概況、第2表。対象は常用労働者10人以上の民営事業所。右の2列は、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所を100とした割合(複数回答)です。職場環境の評価・改善は、ストレスチェック結果の集団ごとの分析を含みます。
ストレスチェックの実施は、50人の線で差がつきます。50人以上は義務、50人未満は努力義務という決まりの違いが、そのまま数字に出ています。小さな職場ほど、面接指導の入口の一つがない場合があるということです。
面談の前に準備すること
| 準備すること |
中身 |
| 勤務時間の記録 |
直近3か月の出退勤、休日出勤、持ち帰りの仕事 |
| 体と気持ちの状態 |
睡眠時間、食欲、頭痛や動悸、仕事中に困ること |
| 仕事の状況 |
業務量が増えた時期、担当の変化、相談できる相手 |
| 聞きたいこと |
記録に残る内容、上司へ伝わる範囲、受けられる措置 |
通院している人は、主治医から言われていることもメモしておきます。面接指導のあと医師が会社に出すのは、働き方の措置についての意見です(66条の8第4項)。治療の中身を決める場ではありません。
応募先で確かめること
入社前に、健康管理の体制を聞いておくと、困ったときの相談先がわかります。
- 事業場の人数と、産業医や保健師がいるか
- 長時間労働の面接指導の申出の方法
- ストレスチェックの実施時期と、結果を見られる人の範囲
- 健康相談の窓口が社内か社外か
聞き方は「入社後に体調の相談をするとき、社内の窓口はどこですか」のように、制度を知りたいという形にします。
その会社の実際の数字は、求人票・面接・しょくばらぼで確かめる
面接指導が必要になるかどうかは、まず残業の量で決まります。厚生労働省のしょくばらぼでは、掲載企業の月平均の残業時間や有給休暇の取得状況を見られます。
求人票の固定残業時間と、しょくばらぼの残業時間の両方を見て、月80時間に近い働き方になりそうかを先に確かめます。定期健康診断の受け方は、健康診断は会社の義務で説明しています。