通勤災害は、通勤の途中のけがや病気に、労災保険から給付を受けられる仕組みです。労働者災害補償保険法7条は、通勤を「就業に関し、住居と就業の場所との間の往復などの移動を、合理的な経路及び方法により行うこと」と決め、業務の性質があるものを除いています。寄り道をすると、原則としてその間とその後は通勤ではなくなります。日用品の購入や通院などを最小限で行った場合は、元の経路に戻れば再び通勤になります。
厚生労働省の令和6年度労働者災害補償保険事業年報では、通勤災害で新しく保険給付を受けた人は97,158人でした。業務災害の664,808人と比べると少ないものの、毎年これだけの人が使っている制度です。
この記事の法令と資料は、2026年10月25日に確認しました。けがをしたあとの手続きの流れは、労災の申請で説明しています。ここでは、通勤と認められる条件と、寄り道の扱いを中心に見ます。
通勤災害と認められる条件
条文は労災保険法の7条2項と3項にあります。東京労働局の通勤災害の説明をもとに、言葉の意味を表にしました。
| 条件 |
意味 |
| 就業に関し |
その日に働くことになっていた、または実際に働いていた。遅刻やラッシュを避ける早出も含む |
| 住居 |
日常生活に使い、仕事に出る拠点になっている場所 |
| 就業の場所 |
仕事を始める場所、終える場所 |
| 合理的な経路 |
ふだん使う経路。複数あればどれも当たる。交通事情による迂回も含む |
| 合理的な方法 |
電車、バス、自動車、自転車、徒歩など。ふだん使っているかは問わない |
| 業務の性質がない |
会社の専用の送迎バスや、休日の緊急の呼び出しは業務災害になる |
出典:労働者災害補償保険法7条、東京労働局「通勤災害について」。
合理的な理由がなく著しく遠回りした経路は、合理的な経路に当たりません。外回りの仕事で自宅から直接用務先へ行く人は、最初の用務先が仕事を始める場所、最後の用務先が終える場所になります。
住居に当たる場所
家族と離れて職場の近くにアパートを借りているなら、そのアパートが住居です。天災や交通のストライキで、やむを得ず会社の近くのホテルに泊まった場合は、そのホテルが住居になると東京労働局は説明しています。
移動は3つの形がある
7条2項が通勤とする移動は、次の3つです。
| 移動 |
例 |
| 住居と就業の場所の往復 |
自宅から会社へ行き、帰る |
| 就業の場所から他の就業の場所への移動 |
掛け持ちの仕事で、1つ目の職場から2つ目の職場へ向かう |
| 往復の前後にある住居間の移動 |
単身赴任先の住居と、家族のいる住居との行き来 |
出典:労働者災害補償保険法7条2項、同法施行規則6条・7条。
単身赴任の住居間の移動が通勤になるのは、転任で日々の往復が難しくなって住居を移し、配偶者の介護や子の学校、配偶者の仕事などのやむを得ない事情で別居している人です(施行規則7条)。東京労働局は、原則として、就業日とその前日または翌日までに行う移動を通勤と認めると説明しています。
掛け持ちの移動は、副業をする人に関係します。2つ目の職場へ向かう途中の事故は、通勤災害の対象になります。社会保険の扱いはダブルワークの社会保険の記事で整理しています。
寄り道したとき:逸脱と中断
逸脱は、通勤と関係のない目的で合理的な経路をそれることです。中断は、経路の上で通勤と関係のない行為をすることです。7条3項により、逸脱や中断をすると、その間とその後の移動は通勤になりません。
ただし、経路の近くの公衆トイレを使う、経路の上の店でたばこや飲み物を買うといった、ささいな行為は逸脱や中断に当たらないと、東京労働局は説明しています。
例外になる5つの行為
7条3項ただし書は、日常生活上必要な行為で厚生労働省令が定めるものを、やむを得ない事由で最小限度行う場合は、逸脱や中断の間を除いて通勤とするとしています。行為は施行規則8条に並んでいます。
| 番号 |
行為 |
| 1 |
日用品の購入その他これに準ずる行為 |
| 2 |
職業訓練、学校教育などで職業能力の開発向上に役立つものを受ける行為 |
| 3 |
選挙権の行使その他これに準ずる行為 |
| 4 |
病院や診療所で診察や治療を受けることその他これに準ずる行為 |
| 5 |
要介護状態の配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹、配偶者の父母を介護すること(継続的または反復して行うもの) |
出典:労働者災害補償保険法施行規則8条。
寄り道の前後で何が変わるか
| 場面 |
通勤になるか |
| 会社から自宅へ帰る途中 |
通勤 |
| 経路をそれてスーパーで夕食の材料を買っている間 |
通勤ではない |
| 買い物を終えて元の経路に戻ったあと |
例外に当たれば通勤に戻る |
| 経路をそれて友人と飲食し、その後に帰る |
例外に当たらなければ、その後も通勤ではない |
出典:労働者災害補償保険法7条3項と施行規則8条から整理。買い物が「最小限度」に当たるかは、個別の事情で判断されます。
例外に当たる場合でも、寄り道をしている間のけがは通勤災害になりません。保護されるのは、元の経路に戻ってからの移動です。自分のケースが当たるかわからないときは、決めつけずに労働基準監督署に事情を伝えて確かめます。
通勤災害の給付と、業務災害との違い
通勤災害の給付は、業務災害と種類はほぼ同じですが、名前が違います。業務災害は「休業補償給付」、通勤災害は「休業給付」のように、「補償」が付きません。
休業給付は、休業4日目から出ます(労災保険法22条の2で14条を準用)。業務災害なら、最初の3日分は会社が労働基準法の休業補償を払いますが、通勤災害にはこの決まりがありません。
療養給付を受ける人からは、一部負担金として200円(日雇特例被保険者は100円)を徴収します(法31条2項、施行規則44条の2)。休業給付から差し引く形です。第三者の行為による事故の人、休業給付を受けない人などは対象外です。
申請の様式:通勤災害用を使う
労災の請求書は、業務災害用と通勤災害用で番号が違います。厚生労働省の労災保険の様式のページから、通勤災害用の主なものを抜き出しました。
| 使う場面 |
様式 |
| 労災指定の病院・薬局で治療を受ける |
第16号の3 |
| いったん自分で払った治療費を請求する |
第16号の5(1)〜(5) |
| 仕事を休んだ間の給付を請求する |
第16号の6 |
| 障害が残ったときの給付を請求する |
第16号の7 |
| 遺族の年金を請求する |
第16号の8 |
| 遺族の一時金を請求する |
第16号の9 |
| 葬祭の給付を請求する |
第16号の10 |
出典:厚生労働省「雇用・労働主要様式ダウンロードコーナー(労災保険給付関係主要様式)」。2026年10月25日確認。
通勤と認められるかは、経路と寄り道の有無で決まります。事故の直後に、時刻、場所、通っていた道、寄り道をしたかどうかをメモしておきます。
病院の窓口では、通勤途中のけがだと伝えます。会社には、事故の日時と場所、経路をすぐに知らせます。受診のときと会社への連絡の順番は、労災の申請の記事にまとめています。
通勤災害で新しく給付を受けた人数
厚生労働省の令和6年度の事業年報の統計表から、令和6年度に新しく保険給付を受けた人の数を見ます。
| 区分 |
新規受給者数 |
| 業務災害 |
664,808人 |
| 通勤災害 |
97,158人 |
出典:厚生労働省、令和6年度労働者災害補償保険事業年報の第6-6-1表と第6-6-2表(発生年度別の保険給付支払状況)にある新規受給者数の合計の行。e-Statの年度別の表で確認。
新規受給者数は、その年度に初めて給付を受けた人の数です。事故が起きた年度が前の年度のこともあります。通勤災害の97,158人を、事故が起きた年度で分けると次のとおりです。
| 事故が起きた年度 |
令和6年度の新規受給者数 |
| 令和6年度 |
64,692人 |
| 令和5年度 |
31,699人 |
| 令和4年度 |
634人 |
| 令和3年度 |
87人 |
| 令和2年度 |
22人 |
| 令和元年度以前 |
24人 |
出典:厚生労働省、令和6年度労働者災害補償保険事業年報、第6-6-2表(通勤災害、発生年度別)。
前の年度の事故で、令和6年度に初めて給付を受けた人が31,699人います。事故の年度と、給付が始まる年度は一致しないことがあります。
請求には期限があります。労災保険法42条で、療養給付、休業給付、葬祭給付などは請求できる時から2年、障害給付と遺族給付は5年で、時効により権利がなくなります。いつから数えるかは給付の種類で変わるため、請求が遅れているときは労働基準監督署で確かめます。
業種別ランキング:通勤災害の新規受給者が多い業種
同じ年報の第6-3-2表(通勤災害、業種別)から、新規受給者数が多い順に並べました。業種は労災保険の保険料率を決めるための区分です。
| 順位 |
業種(労災保険の区分) |
新規受給者数 |
| 1 |
その他の各種事業 |
45,274人 |
| 2 |
卸売業・小売業、飲食店又は宿泊業 |
22,563人 |
| 3 |
金融業、保険業又は不動産業 |
5,352人 |
| 4 |
貨物取扱事業 |
3,064人 |
| 5 |
ビルメンテナンス業 |
2,861人 |
| 6 |
食料品製造業 |
2,433人 |
| 7 |
倉庫警備消毒等の事業 |
2,136人 |
| 8 |
電気機械器具製造業 |
1,797人 |
| 9 |
輸送用機械器具製造業 |
1,605人 |
| 10 |
交通運輸事業 |
1,307人 |
| 11 |
機械器具製造業 |
1,158人 |
| 12 |
その他の製造業 |
959人 |
| 13 |
建築事業 |
935人 |
出典:厚生労働省、令和6年度労働者災害補償保険事業年報、第6-3-2表。e-Statの業種別の表の新規受給者数(人)。
大きな区分で見ると、その他の事業が79,520人、製造業が11,603人、運輸業が4,444人、建設事業が1,365人でした。
人数の多さは危なさの順番ではない
この表は人数です。働く人が多い業種ほど、通勤する人も多く、人数は大きくなります。業種ごとの労働者数で割った割合ではないので、「この業種は通勤が危ない」とは読めません。
その他の各種事業は、ほかの区分に入らない多くの事業をまとめた区分です。医療や教育などの事業がどこに入るかは、労災保険率の区分表で決まります。日本標準産業分類の業種とは区切り方が違います。
交通事故のときは、相手との手続きも出てくる
相手のいる交通事故も、通勤災害に含まれます。同じ年報の第16-7表では、通勤災害の自動車事故で、国が加害者側に費用を請求する対象になった新しい労働者は6,776人でした(新規求償対象労働者数)。
相手がいる事故では、労災保険と自動車保険のどちらを先に使うか、示談をどう進めるかで手続きが変わります。示談の前に、労働基準監督署へ相談します。監督署への届け出は、相手のいる事故に特有の手続きです。
通勤の仕方を会社と合わせておく
会社に届け出た通勤経路や手段と違う方法で通っていても、合理的な経路と方法なら通勤に当たります。ただ、会社の通勤手当の規程とずれていると、別の問題になることがあります。
| 確かめること |
理由 |
| 届け出た経路と手段 |
事故のときに経路を説明する材料になる |
| マイカーや自転車の通勤の決まり |
許可制や保険加入の条件を決めている会社がある |
| 在宅勤務の日の移動 |
出社日と在宅日で、住居と就業の場所が変わる |
| 掛け持ちの仕事 |
2つ目の職場への移動も通勤になる |
通勤時間の長さ自体は、どこに住むかの話です。全国の通勤時間の平均は、通勤時間の平均の記事にまとめています。
その会社の実際の数字は、求人票・面接・しょくばらぼで確かめる
通勤災害のルールは全国で同じですが、通勤の負担は職場で違います。始業時刻、交替勤務の時間帯、マイカー通勤の可否は、求人票と面接で確かめます。
厚生労働省のしょくばらぼでは、掲載企業の残業時間や有給休暇の取得状況を見られます。残業が多いと、帰りの時間が遅くなり、疲れた状態で運転する時間も増えます。数字を見て、公開されていない通勤の決まりは面接で聞きます。