業界研究は、5つの手順で進めます。業界の分け方を決める、働く人の数と増減を見る、給料の水準と内訳を見る、パート比率や入職・離職などの働き方を見る、最後に業界の中の会社を比べる、です。厚生労働省「毎月勤労統計調査 2025年分結果確報」では、一般労働者の月の現金給与総額は全産業で465,923円です。最も高い電気・ガス業は653,339円、最も低い飲食サービス業等は361,140円で、同じ統計の中でも業界によって大きく違います。
業界の印象や知名度から入ると、数字を見ないまま候補を決めてしまいます。先に公的な統計で業界の平均を並べ、自分の条件に合いそうな業界を絞ります。そのあとで、1社ずつの数字を求人票や会社の公表資料で確かめます。この順番にすると、調べる量が多くても迷いません。
業界研究は、平均の数字で候補を絞るために使う
業界研究で調べるのは、業界全体の仕組みと平均の数字です。どこからお金が入るか、働く人がどれくらいいるか、給料や働き方の平均がどうなっているかを見ます。1社の事業や職場の様子を調べる企業研究とは、目的が違います。
業界研究の役目は、候補の業界と会社を絞ることです。企業研究の役目は、絞った会社が自分の条件に合うかを確かめることです。業界の平均が高くても、その業界の会社すべてが高いわけではありません。業界の数字は、会社の数字を確かめる前の「物差し」として使います。
会社を選ぶ条件がまだ決まっていない人は、先に条件を書き出します。給料、休日、勤務地、仕事の内容など、譲れないものと調整できるものを分けておくと、業界の数字のどこを見ればよいかが決まります。条件の決め方は就活の軸の決め方で整理しています。
使う資料は公的な統計に絞る
業界の数字は、国や公的機関の統計から取ります。業界団体や会社のまとめも参考になりますが、数え方や対象がそろっていないことがあります。同じ物差しで業界を並べるなら、全国の事業所を同じ方法で調べた統計を使います。
この記事では、厚生労働省の毎月勤労統計調査 2025年分結果確報を使います。従業員5人以上の事業所を対象に、毎月の給与、労働時間、雇用を調べている統計です。2025年の1年間の月平均で、2026年10月25日に資料を開いて確認しました。
手順1:業界の分け方を決める
最初に、どの単位で業界を見るかを決めます。公的な統計は、総務省の日本標準産業分類で業界を分けています。建設業、製造業、情報通信業、卸売業・小売業、医療・福祉などの大きな分類が、統計の表の行になります。
就活や転職で使う「業界」の言葉と、統計の分類は一致しないことがあります。たとえば「IT業界」は、統計では主に情報通信業に入ります。ただし、会社の中でシステムを作る仕事は、その会社の業種に数えられます。「商社」は卸売業、「人材派遣」はサービス業(他に分類されないもの)に入ります。
自分が気になる業界を、統計の分類に置き換えてメモします。置き換えが難しいときは、志望する会社が主に何を売って売上を立てているかで決めます。メーカーなら製造業、店で商品を売る会社なら小売業です。
統計の業種名は短く書かれている
毎月勤労統計の表は、業種名を短く書いています。読むときは正式な分類に戻します。
| 表の名前 |
正式な分類 |
| 電気・ガス業 |
電気・ガス・熱供給・水道業 |
| 学術研究等 |
学術研究、専門・技術サービス業 |
| 飲食サービス業等 |
宿泊業、飲食サービス業 |
| 生活関連サービス等 |
生活関連サービス業、娯楽業 |
| その他のサービス業 |
サービス業(他に分類されないもの) |
| 鉱業、採石業等 |
鉱業、採石業、砂利採取業 |
出典:厚生労働省、毎月勤労統計調査 2025年分結果確報、第1表・第3表の産業名。総務省、日本標準産業分類の大分類名。
業種別の比較表:給与総額、パート比率、人の増減
16業種を、一般労働者の月の現金給与総額が高い順に並べました。パート比率と労働者数の前年比は、パートタイム労働者を含む就業形態計の数字です。
| 順位 |
業種 |
給与総額(一般) |
パート比率 |
人の前年比 |
| 1 |
電気・ガス業 |
653,339円 |
3.66% |
0.1% |
| 2 |
金融業、保険業 |
600,357円 |
10.57% |
0.4% |
| 3 |
学術研究等 |
570,224円 |
11.41% |
1.6% |
| 4 |
情報通信業 |
570,056円 |
4.90% |
1.3% |
| 5 |
教育、学習支援業 |
559,761円 |
33.34% |
2.0% |
| 6 |
不動産・物品賃貸業 |
514,145円 |
20.42% |
2.1% |
| 7 |
鉱業、採石業等 |
496,321円 |
6.91% |
−1.4% |
| 8 |
建設業 |
482,340円 |
5.53% |
2.6% |
| 9 |
卸売業、小売業 |
475,733円 |
44.86% |
1.0% |
| 10 |
製造業 |
472,927円 |
13.00% |
0.1% |
| 11 |
複合サービス事業 |
444,097円 |
17.08% |
−1.0% |
| 12 |
運輸業、郵便業 |
435,079円 |
18.76% |
−0.3% |
| 13 |
医療、福祉 |
406,432円 |
32.86% |
1.6% |
| 14 |
生活関連サービス等 |
376,983円 |
49.09% |
2.6% |
| 15 |
その他のサービス業 |
362,459円 |
29.94% |
1.5% |
| 16 |
飲食サービス業等 |
361,140円 |
78.12% |
5.1% |
| ー |
調査産業計 |
465,923円 |
31.31% |
1.5% |
出典:厚生労働省、毎月勤労統計調査 2025年分結果確報、第1表の月間現金給与額と第3表の常用雇用。事業所規模5人以上、2025年の月平均。給与総額は一般労働者1人平均の月額で、中央値ではありません。人の前年比は労働者総数の前年比です。
この表は、1つの統計の中で業界を並べたものです。調査の対象と数え方がそろっているので、業界どうしの差を比べられます。ただし、業界の中の年齢や勤続年数、職種の違いまでは分けていません。給与総額が高い業界でも、若手の給料が高いとは限りません。
一般労働者は、パートタイム労働者以外の常用労働者です。正社員だけの数字ではなく、フルタイムの契約社員なども含みます。正社員として働く人を探すときも、この数字は業界の大まかな水準として読みます。
手順2:働く人の数と増減を見る
業界の大きさは、働く人の数で見ます。同じ第3表の労働者総数(2025年の年平均)は、多い順に卸売業・小売業9,397千人、医療・福祉8,408千人、製造業7,671千人です。全産業では51,566千人でした。
人の数が多い業界は、会社の数も職種の幅も広いことが多く、勤務地や仕事の選択肢が広がります。一方で、同じ業界の中でも会社による差が大きくなります。業界の平均だけで決めず、手順5で会社ごとに確かめます。
前年比は、その業界で働く人が増えたか減ったかを示します。2025年は飲食サービス業等が5.1%増で、建設業と生活関連サービス等が2.6%増でした。減ったのは鉱業・採石業等1.4%減、複合サービス事業1.0%減、運輸業・郵便業0.3%減です。
人が増えている業界では、採用が続いている可能性があります。ただ、前年比は1年分の変化です。景気や制度の変わり目で一時的に動くこともあるため、数年分を並べて見るほうが確かです。過去の年の確報も、同じ統計のページから開けます。
手順3:給料の水準と内訳を見る
給料を比べるときは、総額だけでなく内訳を見ます。毎月勤労統計の現金給与総額は、きまって支給する給与と、特別に支払われた給与に分かれます。きまって支給する給与には、所定内給与と、残業代などの所定外給与が入ります。特別に支払われた給与は、賞与などです。
一般労働者の所定外給与と、特別に支払われた給与を、特別に支払われた給与が多い順に並べました。
| 業種 |
所定外給与 |
特別に支払われた給与 |
| 電気・ガス業 |
62,629円 |
153,567円 |
| 金融業、保険業 |
29,951円 |
152,417円 |
| 教育、学習支援業 |
9,951円 |
150,228円 |
| 情報通信業 |
35,922円 |
132,560円 |
| 学術研究等 |
29,480円 |
132,315円 |
| 不動産・物品賃貸業 |
27,191円 |
121,317円 |
| 鉱業、採石業等 |
27,949円 |
120,478円 |
| 製造業 |
35,346円 |
107,566円 |
| 卸売業、小売業 |
21,062円 |
104,766円 |
| 建設業 |
27,994円 |
102,106円 |
| 複合サービス事業 |
19,139円 |
101,891円 |
| 運輸業、郵便業 |
49,547円 |
74,014円 |
| 医療、福祉 |
19,718円 |
70,474円 |
| その他のサービス業 |
24,807円 |
55,525円 |
| 生活関連サービス等 |
17,346円 |
50,504円 |
| 飲食サービス業等 |
24,659円 |
47,218円 |
| 調査産業計 |
27,477円 |
97,812円 |
出典:厚生労働省、毎月勤労統計調査 2025年分結果確報、第1表、一般労働者。事業所規模5人以上、2025年の月平均。特別に支払われた給与も、毎月の値を年平均した月額です。
同じくらいの総額でも、中身は違います。運輸業・郵便業は所定外給与が49,547円で、電気・ガス業に次いで多い業種です。残業代の比重が高い業界は、働く時間が変われば月の給料も変わります。教育・学習支援業は所定外給与が9,951円と少なく、特別に支払われた給与が150,228円と多い業種です。
特別に支払われた給与の月平均を12倍すると、1年分の目安になります。電気・ガス業なら153,567円 × 12 = 1,842,804円で、私たちの計算です。賞与の支給月や支給の有無は会社ごとに違うため、この計算は業界の平均の比較にだけ使います。
年収で比べたいときは、ほかの統計も見る
毎月勤労統計は月の給与の統計です。年収で業界を比べたいときは、国税庁の民間給与実態統計調査など、年間の給与を調べた統計を使います。業界別の年収のランキングは業界別の平均年収にまとめています。
統計によって、対象の事業所の規模や、数える人の範囲が違います。違う統計の数字を1つの表に混ぜて順位をつけないことです。比べるときは、同じ統計の中で業界を並べます。
手順4:パート比率、入職と離職で働き方を見る
パートタイム労働者比率は、その業界で働く人のうち、パートタイム労働者が占める割合です。2025年は飲食サービス業等78.12%、生活関連サービス等49.09%、卸売業・小売業44.86%が高く、電気・ガス業3.66%、情報通信業4.90%、建設業5.53%が低い業種でした。
パート比率が高い業界では、就業形態計の平均給与が低く出ます。短い時間で働く人が多く入るためです。業界の平均給与を見るときは、一般労働者の数字か、就業形態計の数字かを先に確かめます。比較表で一般労働者の給与総額を使ったのは、この差を減らすためです。
パート比率は、職場の人の構成を考える材料にもなります。正社員として入る人は、パートの人の勤務を組む役目や、少ない人数で店や施設を回す役目を任されることがあります。応募先で、正社員とパートの役割の分け方を聞いておきます。
入職率と離職率は月平均の数字
第3表には、入職率と離職率も載っています。月ごとに、入った人と辞めた人が労働者全体の何%かを示す数字の年平均です。一般労働者の離職率は全産業で1.42%、飲食サービス業等2.50%、製造業0.93%でした。
月の数字なので、1年間の離職率とは違います。1年間で何%の人が辞めたかを業界別に見たいときは、厚生労働省の雇用動向調査を使います。業界別のランキングは離職率の平均で確認できます。
残業の多さも、働き方を見る数字です。毎月勤労統計の労働時間の表には、業界別の所定外労働時間が載っています。業界ごとの残業時間を比べるときも、同じ統計の中で並べます。
手順5:業界の中の会社を比べる
業界の候補が絞れたら、その業界の会社を比べます。ここからは企業研究です。業界の平均は、会社の数字を読むときの比較の基準として使います。
上場している会社は、金融庁のEDINETで有価証券報告書を読めます。従業員の状況の欄に、平均年齢、平均勤続年数、平均年間給与が載っています。業界の平均と比べると、その会社が業界の中でどの位置にいるかがわかります。
上場していない会社は、厚生労働省のしょくばらぼで、掲載している会社の残業時間、有給休暇の取得、採用と離職の数などを調べられます。掲載していない会社もあるので、載っていないことを悪い意味に読まないようにします。調べる順番は企業研究のやり方で整理しています。
業界研究のメモの型
業界ごとに、次の形でメモをつけると比べやすくなります。【】の中に自分で調べた数字を入れます。
| 見る項目 |
記入欄 |
| 統計の業種名 |
【業種名】 |
| 働く人の数と前年比 |
【千人・%】 |
| 一般労働者の給与総額 |
【月額】 |
| 所定外と特別の給与 |
【月額】 |
| パート比率 |
【%】 |
| 1年間の離職率 |
【%】 |
| 気になる会社と数字 |
【会社ごとに】 |
数字の横には、資料名と調査の年を書いておきます。あとで別の年の資料と見比べたとき、どの数字がいつのものかがわかります。
数字の読み方で気をつけること
統計の数字は、平均です。業界の中の大きな会社と小さな会社、若い人と年配の人をまとめた数字なので、自分が入ったときの給料や働き方とは違います。平均を見て「この業界なら月の給料は〜円」と決めつけないことです。
調査の対象にも注意します。毎月勤労統計は、事業所規模5人以上の事業所が対象です。従業員が5人より少ない職場は入っていません。業界によっては、小さな事業所で働く人が多いこともあります。
前年比や順位は、年によって入れ替わります。1年分の順位の差が小さい業界どうしは、順位の差を大きく扱いません。表の学術研究等570,224円と情報通信業570,056円のように、差が小さい業界は同じくらいと読みます。
もう1つは、業界の数字と職種の数字を混ぜないことです。同じ製造業でも、営業、技術、製造の現場では給料も働き方も違います。職種ごとの平均は、厚生労働省の賃金構造基本統計調査で調べられます。
その会社の実際の数字は、求人票・面接・しょくばらぼで確かめる
業界研究で候補の業界を絞ったら、最後は応募する会社の数字を確かめます。業界の平均は物差しです。実際に働く会社の給料、残業、休日は、会社ごとに違います。
求人票では、基本給と手当、固定残業代の有無、賞与の前年度の実績を分けて読みます。業界の平均と比べて高いか低いかだけでなく、何が含まれた金額かを確かめます。面接では、配属予定の部署の残業や休日の実際を聞きます。
公表されている会社の数字は、しょくばらぼで確かめられます。業界の平均と並べて、気になる差があれば、それを面接で聞く質問にします。業界研究で作ったメモは、その質問を作るための材料になります。