退職金がもらえない会社はあります。退職金は法律で払う義務のある制度ではないからです。厚生労働省の令和5年就労条件総合調査では、退職給付(一時金・年金)制度がない企業は24.8%でした。4社に1社の割合です。30〜99人の企業では29.5%、宿泊業・飲食サービス業では57.8%が制度を持っていません。
反対に、就業規則や退職金規程で退職金を決めている会社は、その決まりどおりに払う必要があります。もらえるかどうかは、会社に制度があるか、自分がその対象に入るかの二つで決まります。この記事では、法律の決まり、制度がない会社の割合、制度があってももらえない場合を順に見ます。数字と条文は2026年10月25日に確かめました。
退職金の平均額は退職金の平均・相場にまとめています。ここでは、制度の有無と対象の確かめ方に絞ります。
退職金は法律の義務ではない:労働基準法89条の決まり
労働基準法には、退職金を払いなさいという条文がありません。最低賃金や残業代とは違い、払うかどうかは会社が決めます。
法律が決めているのは、決めた場合の書き方です。89条は、常時10人以上を使う会社に就業規則を作って届け出る義務を定めています。そのうち3号の2で、退職手当の定めをする場合は、次の事項を就業規則に書くとしています。
- 退職手当が適用される労働者の範囲
- 退職手当の決定、計算と支払の方法
- 退職手当の支払の時期
会社は、作った就業規則を職場に掲示するなどして、労働者に知らせる必要があります(106条)。退職金規程を別に作っている会社なら、その規程も見せてほしいと伝えます。
決まりがあれば払う必要がある
就業規則や退職金規程、労働契約で退職金の支給を決めている会社は、その決まりに従って払わなければなりません。決まりにない理由で払わないことは、会社が自分で決めた規程に反します。
一方で、規程の書き方によっては、もらえない人や減る人が出ます。勤続年数の条件、雇用形態の条件、辞め方による違いを、規程の文章で確かめます。
退職給付制度がない企業は24.8%:規模別に見る
厚生労働省の令和5年就労条件総合調査の、退職給付制度の章(第16〜19表)の数字です。調査は令和5年1月1日現在で、常用労働者30人以上の民営企業が対象です。従業員が30人に届かない会社は入っていません。
| 順位 |
企業規模 |
制度がない企業 |
制度がある企業 |
| 1 |
30〜99人 |
29.5% |
70.1% |
| 2 |
100〜299人 |
15.1% |
84.7% |
| 3 |
300〜999人 |
11.1% |
88.8% |
| 4 |
1,000人以上 |
8.8% |
90.1% |
| 計 |
調査計 |
24.8% |
74.9% |
出典:厚生労働省、令和5年就労条件総合調査の結果の概況、第16表(冊子12ページ)。制度がない企業の割合が高い順。全企業には制度の有無が不明の企業を含むため、2つの列の合計は100%になりません。
規模が小さいほど、制度がない企業の割合が高くなります。30〜99人の企業では、ほぼ10社に3社です。平成30年の調査では制度がない企業は19.5%で、令和5年は5.3ポイント高くなっています。
この割合は会社の数で数えています。働く人の何%が退職金をもらえないかを示す数字ではありません。
業種別ランキング:退職金がない企業が多い業種
同じ第16表の、産業別の「退職給付制度がない企業」の割合を高い順に並べました。
| 順位 |
産業 |
制度がない企業 |
| 1 |
宿泊業,飲食サービス業 |
57.8% |
| 2 |
サービス業(他に分類されないもの) |
45.6% |
| 3 |
生活関連サービス業,娯楽業 |
30.7% |
| 4 |
運輸業,郵便業 |
30.0% |
| 5 |
情報通信業 |
24.9% |
| 6 |
医療,福祉 |
24.5% |
| 7 |
不動産業,物品賃貸業 |
24.4% |
| 8 |
卸売業,小売業 |
22.1% |
| 9 |
建設業 |
15.6% |
| 10 |
製造業 |
14.2% |
| 11 |
学術研究,専門・技術サービス業 |
12.8% |
| 12 |
教育,学習支援業 |
12.7% |
| 13 |
金融業,保険業 |
6.0% |
| 14 |
電気・ガス・熱供給・水道業 |
3.6% |
| 15 |
鉱業,採石業,砂利採取業 |
2.4% |
| 16 |
複合サービス事業 |
2.1% |
出典:厚生労働省、令和5年就労条件総合調査の結果の概況、第16表(冊子12ページ)。常用労働者30人以上の民営企業。
宿泊業・飲食サービス業は、半分を超える企業が制度を持っていません。サービス業(他に分類されないもの)も4割を超えます。一方で、金融業・保険業や電気・ガスでは、制度がない企業は1割未満です。
制度を持つ企業の中でも、業種で形が違います。医療・福祉で制度がある企業は、86.9%が退職一時金制度のみです。金融業・保険業では、退職年金制度がある企業(両制度併用を含む)が64.1%と多くなっています(いずれも第16表)。
情報通信業は24.9%で、調査計とほぼ同じです。業種で決めつけず、応募する会社ごとに確かめます。同じ業種でも、制度を持つ会社と持たない会社があります。
制度がある会社の形:一時金だけが69.0%
制度がある企業の中で、どんな形で払っているかも第16表に出ています。
| 退職給付制度の形 |
制度がある企業に占める割合 |
| 退職一時金制度のみ |
69.0% |
| 退職年金制度のみ |
9.6% |
| 両制度併用 |
21.4% |
出典:厚生労働省、令和5年就労条件総合調査の結果の概況、第16表。退職給付制度がある企業を100とした割合。
退職一時金は、辞めるときにまとめて受け取るお金です。退職年金は、企業年金などの形で分けて受け取ります。1,000人以上の企業では両制度併用が47.1%と多く、30〜99人の企業では一時金のみが77.2%を占めます。
一時金のお金をどう積み立てているか
第17表では、退職一時金制度がある企業が、支払いのお金をどう準備しているかを見ています(複数回答)。社内準備が56.5%、中小企業退職金共済制度(中退共)が42.0%、特定退職金共済制度が9.9%でした。30〜99人の企業では、中退共が48.5%と社内準備の49.6%に近い割合です。
退職年金制度がある企業では、確定拠出年金(企業型)が50.3%、確定給付企業年金が44.3%、厚生年金基金の上乗せ給付が19.3%でした(第18表、複数回答)。確定拠出年金は、運用の結果で受け取る額が変わります。くわしくは確定拠出年金で説明しています。
退職金制度を見直す会社:新しく作る会社が多い
第19表では、退職一時金制度について、過去3年間に見直しをした企業が7.9%、今後3年間に見直す予定の企業が6.7%でした。見直しといっても、減らす方向だけではありません。過去3年間に見直した企業の内容は次のとおりです(複数回答)。
| 順位 |
見直しの内容 |
割合 |
| 1 |
新たに導入、または今ある制度のほかに設けた |
30.0% |
| 2 |
支給率を上げた |
21.3% |
| 3 |
算定の基礎になる額の計算方法を変えた |
17.8% |
| 4 |
全部か一部を年金へ移した |
7.7% |
| 5 |
ほかの退職一時金制度へ移した |
7.3% |
| 6 |
一時金を縮小か廃止し、毎月の給与を増やした(全員一律) |
7.2% |
| 7 |
特別加算の制度を入れた |
5.5% |
| 8 |
支給率を下げた |
5.1% |
| 9 |
一時金を縮小か廃止し、毎月の給与を増やした(本人が選ぶ) |
3.3% |
| 10 |
制度を廃止した、または脱退した |
1.5% |
出典:厚生労働省、令和5年就労条件総合調査の結果の概況、第19表(冊子13〜14ページ)。過去3年間に退職一時金制度の見直しを行った企業を100とした割合。その他(14.6%)を除く。
新たに導入した企業が3割で、廃止・脱退は1.5%でした。30〜99人の企業では、過去3年間に見直した企業の35.5%が新たに導入しています。今、制度がない会社でも、入社した後に作られることがあります。
一時金を減らして毎月の給与を増やす見直しもあります。いわゆる前払いの考え方です。この場合は、退職金の欄が「なし」でも、その分が月給に入っているかを聞く意味があります。
退職金がない会社で働くときに比べること
退職金がない会社が、そのまま待遇の悪い会社とは限りません。月給や賞与を高めにしている会社もあります。ただ、制度がない分が必ず月給に上乗せされているとも言えません。数字で並べて確かめます。
- 同じ職種・年齢での月給と賞与を、退職金のある応募先と並べる
- 企業型の確定拠出年金など、退職金の代わりになる制度があるかを見る
- 長く働くつもりの年数を決め、その年数でもらえる額の差を出してみる
- 差の分を自分で積み立てるなら、毎月いくら必要かを考える
退職金のある会社の額は、勤続年数が短いと大きくありません。転職を何回かする予定なら、退職金の有無より、毎月の給与の差のほうが大きいこともあります。自分が何年働くつもりかで、重みが変わります。
中退共とは:国の退職金制度と加入の確かめ方
中退共は、中小企業退職金共済法にもとづいて昭和34年にできた、中小企業のための国の退職金制度です。勤労者退職金共済機構の中退共の制度概要によると、会社が中退共と契約して毎月の掛金を納め、従業員が辞めたときは中退共から本人に直接退職金が払われます。
同じページでは、令和7年度の加入は375,555所、加入している従業員は3,571,957人です。退職金は中退共から本人に払われるので、会社が自分で積み立てる社内準備とは、お金を置いている場所が違います。
求人票に「中退共加入」とあれば、その会社は中退共で退職金を準備しています。中退共のサイトには加入事業所の検索があり、会社名で調べられます。ただし、従業員全員を加入させているか、何円の掛金かは会社ごとに違うので、入社のときに自分の掛金の額を聞きます。
制度があってももらえないことがある
退職金制度がある会社でも、次のような決まりで、もらえない人や少なくなる人が出ます。最後の行を除き、どれも法律ではなく会社の規程で決まります。
| 規程の決まり |
起きること |
| 勤続【年数】年以上の人に払う |
短く辞めるともらえない |
| 正社員に払う |
契約社員・パートは対象外のことがある |
| 自己都合は会社都合より少ない |
辞め方で額が変わる |
| 懲戒解雇は減額・不支給とする |
処分の内容で減ることがある |
| 中退共の掛金の納付が11月以下 |
退職金は出ない |
最後の行は会社の規程ではなく、中退共の決まりです。中退共の退職金の説明では、掛金の納付が11月以下なら退職金は出ず、12〜23月は納めた掛金の総額を下回り、24〜42月は掛金とほぼ同じ額になるとしています。通算制度などを使っている場合の例外もあります。会社の規程とあわせて、加入した時期を聞いておきます。
厚生労働省の令和5年調査(第22表)では、勤続20年以上かつ45歳以上の大学・大学院卒(管理・事務・技術職)の退職給付額は、定年で1,896万円、自己都合で1,441万円でした。辞め方で額の差がつく会社が多いことがわかります。
契約社員やパートの退職金
パートタイム・有期雇用労働法(条文)の8条は、有期の契約やパートで働く人と正社員の間で、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、不合理な差をつけてはいけないと定めています。退職金がないことがすべて違法になるわけではありませんが、差の理由は会社に説明を求められます(同法14条2項)。
決まりどおりに払われないとき
辞めた後に、規程にある退職金が払われないときは、まず会社に規程のどの条文で計算したかを聞きます。それでも話が進まないときは、各地の労働局や労働基準監督署にある総合労働相談コーナーに相談できます。相談のときは、就業規則か退職金規程の写し、勤続年数がわかる書類、会社とのやりとりの記録を持っていきます。
規程そのものがない会社では、相談しても払わせる根拠になりません。だからこそ、入社前に規程があるかを確かめておくことが大事です。
退職金の有無を求人票と面接で確かめる
求人票の「退職金」の欄は、「あり」「なし」だけでは足りません。次の点まで確かめます。
| 求人票の書き方 |
確かめること |
| 退職金あり |
何年働けば対象か、自分の雇用形態が対象か |
| 退職金制度あり(勤続3年以上) |
3年未満で辞めたときの扱い |
| 中退共加入 |
加入する時期と、自分の掛金の額 |
| 確定拠出年金あり |
会社が出す掛金の額と、自分の上乗せの有無 |
| 退職金なし |
その分、月給や賞与がどうなっているか |
面接では「退職金規程の対象者と、勤続年数ごとの支給の目安を教えてください」と聞きます。内定の後なら、就業規則と退職金規程そのものを見せてもらいます。
退職金を受け取るときの税金と手取りは退職金の税金で計算の手順を説明しています。退職金がない会社なら、その分を自分で積み立てる計画も、月給と一緒に考えておきます。
その会社の実際の数字は、求人票・面接・しょくばらぼで確かめる
業種と規模の割合は、応募先に退職金があるかを見当づける物差しです。その会社に制度があるか、自分が対象になるかは、求人票の欄、面接での質問、内定時の労働条件通知書と退職金規程で確かめます。
厚生労働省のしょくばらぼでは、掲載している企業の平均勤続年数や採用の状況を見られます。長く勤める人が多い会社かどうかも、退職金の条件と並べて確かめます。