最低賃金の減額特例は、決められた5つの区分の労働者について、使用者が都道府県労働局長の許可を受けた場合に限り、最低賃金より低い賃金を認める制度です。根拠は最低賃金法7条で、減額できる率の上限は施行規則5条で決まっています。試用期間中の人なら上限は20%です。許可がなければ、試用期間中でも障害がある人でも、最低賃金額以上を払う必要があります。
厚生労働省の労働基準監督年報では、令和6年の許可件数は11,227件、許可人員は15,220人でした。最も多いのは断続的労働に従事する人で、試用期間中の人の許可は0件です。この記事の条文と資料は、2026年10月26日に確かめました。自分の賃金に減額特例が使われているかは、会社が許可を受けているかで決まるため、この記事では判定できません。
減額特例の対象になる5つの区分
最低賃金法の7条は、使用者が都道府県労働局長の許可を受けたときは、次の労働者について、最低賃金額から一定の率を掛けた額を減額した額を最低賃金として扱うと定めています。
- 精神または身体の障害により著しく労働能力の低い人
- 試の使用期間中の人
- 職業能力開発促進法の認定を受けて行われる、基礎的な技能と知識を身につける職業訓練を受ける人
- 軽易な業務に従事する人
- 断続的労働に従事する人
4と5は、法律の4号を受けた最低賃金法施行規則の3条で決まっています。軽易な業務の許可は、その業務が同じ最低賃金の適用を受けるほかの労働者の業務と比べて、特に軽易な場合に限られます。
対象の人だというだけでは減額できません。使用者が申請して許可を受け、許可された業務に従事している間だけが対象です。厚生労働省の記入要領は、障害のある人が許可された業務以外の業務に従事する場合には、一般の労働者と同じ最低賃金額が適用されるとしています。
減額率の上限は区分ごとに違う
施行規則5条は、減額率の上限を区分ごとに決めています。実際の減額率は、この上限の範囲で、職務の内容、職務の成果、労働能力、経験などを考えて定めます。
| 区分 |
減額率の上限 |
| 障害のある人 |
労働能率の差に応じた率 |
| 試用期間中の人 |
20% |
| 職業訓練を受ける人 |
訓練時間の割合 |
| 軽易な業務 |
業務の負担の差に応じた率 |
| 断続的労働 |
作業以外の時間の4割の割合 |
障害のある人の上限は、同じか似た業務をしていて最低賃金と同程度以上の賃金を受けている労働者のうち、最も能力が低い人の労働能率と比べて決めます。職業訓練を受ける人は、1日の所定労働時間に占める訓練時間の割合が上限です。断続的労働は、1日の所定労働時間から実作業時間を引いた時間に40%を掛け、それを所定労働時間で割った率が上限です。
障害のある人の上限の計算
厚生労働省の記入要領の例では、比べる労働者の労働能率を100とし、減額対象の人が70なら、上限は100 - 70 = 30%です。上限が30%でも、職務の成果などを考えて20%と定めることもあります。上限を超える率を定めることはできません。
同じ記入要領は、単に障害があるだけでは許可の対象にならないとしています。その障害が、従事する業務の遂行に直接支障を与えていることが明白で、しかも支障の程度が著しい場合に限られます。著しいとは、比べる労働者の労働能率の程度にも達しない場合です。
試用期間の減額は上限20%
試用期間中の人の減額は、厚生労働省の記入要領で、条件がさらに絞られています。
- 申請する業種・職種で、本採用の労働者の賃金水準が最低賃金と同程度であること
- 本採用の労働者と比べて、試用期間中の賃金を著しく低く定める慣行があるなど、合理性があること
- 期間は業種・職種の実情から必要な最小限度で、最長でも6か月
減額率は20%が上限で、職務の内容、成果、労働能力、経験などを考えて定めます。記入要領の例では、最低賃金1,013円の地域で減額率を15%と定めた場合、減額する額は1円未満を切り捨てて151円、支払う賃金は862円です。四捨五入で152円にすると、減額率が15%を超えてしまうためです。
試用期間の給料や期間の一般的な決まりは、試用期間とはで確かめます。試用期間の長さそのものは法律で決まっていませんが、減額の特例の対象にできるのは、このとおり最長6か月です。試用期間だという理由だけで最低賃金を下回る時給を示されたら、許可を受けているかを聞きます。
申請と許可の流れ
施行規則4条は、許可を受けようとする使用者は、許可申請書を事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長を経由して、都道府県労働局長に出すと定めています。様式は区分ごとに5つあり、厚生労働省の申請書様式・記入要領のページに載っています。
| 区分 |
様式 |
| 障害のある人 |
様式第1号 |
| 試用期間中の人 |
様式第2号 |
| 職業訓練を受ける人 |
様式第3号 |
| 軽易な業務 |
様式第4号 |
| 断続的労働 |
様式第5号 |
申請書には、対象の労働者、従事させる業務の種類、始業・終業の時刻や作業の内容、減額を必要とする理由、減額しようとする最低賃金、支払おうとする賃金の額と減額率を書きます。障害のある人の申請では、障害者手帳などの写しを、本人や家族の了解を得たうえで出します。
障害のある人の減額率については、労働基準監督官が事業場に行き、比べる労働者との労働能率を把握したうえで上限を出すと、厚生労働省の審議会資料で説明されています。
令和6年の許可件数:断続的労働と知的障害が多い
厚生労働省の労働基準監督年報から、令和6年の減額特例の申請と許可を区分ごとに並べました。地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金の合計の欄です。
| 区分 |
申請件数 |
許可件数 |
許可人員 |
| 断続的労働 |
8,604件 |
8,464件 |
12,456人 |
| 知的障害 |
2,317件 |
2,314件 |
2,314人 |
| 精神障害 |
302件 |
307件 |
307人 |
| 身体障害 |
137件 |
134件 |
134人 |
| 軽易な業務 |
6件 |
8件 |
9人 |
| 試用期間中 |
0件 |
0件 |
0人 |
| 職業訓練 |
0件 |
0件 |
0人 |
| 合計 |
11,366件 |
11,227件 |
15,220人 |
許可人員の8割以上は断続的労働です。断続的労働は、所定労働時間のうち実際に作業していない時間をもとに減額率の上限を決めます。障害のある人の許可は、知的障害、精神障害、身体障害を合わせて2,755件でした。
試用期間中の人と職業訓練を受ける人の許可は、令和6年は0件です。試用期間中の減額は制度としてはありますが、許可を受けて使われている例は、この年の統計にはありません。
前の年と比べると
同じ年報の令和5年版と、許可人員を比べました。
| 区分 |
令和5年 |
令和6年 |
| 断続的労働 |
13,879人 |
12,456人 |
| 知的障害 |
2,137人 |
2,314人 |
| 精神障害 |
295人 |
307人 |
| 身体障害 |
121人 |
134人 |
| 試用期間中 |
0人 |
0人 |
| 合計 |
16,435人 |
15,220人 |
合計は1年で1,215人減りました。減ったのは断続的労働で、障害のある人の許可人員は3つの区分とも増えています。
軽易な業務と職業訓練の条件
軽易な業務
厚生労働省の記入要領では、軽易な業務とは、業務の進行や能率についてほとんど規制を受けない物の片付けや清掃などで、その事業場の本来の業務に属さず、同じ種類の労働者がほとんどいない例外的なものを指します。そのうえで、同じ最低賃金の適用を受けるほかの労働者の業務と比べて、特に軽易なものに限ります。
常態として身体や精神の緊張の少ない監視の業務も、軽易な業務に当たります。ただし、その業務が事業場の本来の業務だったり、進行や能率の規制を受けたり、精神的な緊張が少なくない場合は対象外です。減額率の上限は、異なる業務をしている労働者のうち最も負担の軽い人と比べた負担の程度で決まり、例では負担の程度が80なら上限は20%です。
職業訓練を受ける人
対象は、職業能力開発促進法施行規則9条の普通課程、基礎的な短期課程の普通職業訓練、専門課程の高度職業訓練を受ける人で、職業を変えるために訓練を受ける人は除かれます。記入要領は、訓練期間を通じて1日の生産活動の時間が所定労働時間の3分の2程度以上になる年度や、2年・3年の訓練の最終年度は、原則として許可の対象にならないとしています。
断続的労働の上限の計算
断続的労働の減額は、厚生労働省の記入要領で対象が絞られています。実作業の時間と手待ちの時間が交互に繰り返されるのが常態で、手待ち時間が実作業時間を上回る人だけが対象です。休憩を何回も入れて人為的に断続的な形にした場合は対象になりません。
上限の計算は、1日の所定労働時間をA、実作業時間をBとして、(A - B) × 40% ÷ A です。記入要領の例では、Aが16時間、Bが7時間15分(7.25時間)なら、(16 - 7.25) × 40% ÷ 16 = 21.875%で、小数点第3位以下を切り捨てて21.87%が上限です。この範囲で、職務の内容などを考えて実際の減額率を決めます。
許可なく下回れば罰則がある
最低賃金法の4条は、使用者は最低賃金の適用を受ける労働者に、最低賃金額以上の賃金を払わなければならないと定めています。最低賃金に届かない賃金を決めた労働契約は、その部分が無効になり、最低賃金と同じ定めをしたものとみなされます。
40条は、地域別最低賃金を下回る賃金を払った使用者を50万円以下の罰金としています。減額の特例は、この決まりの例外を、許可を条件に認めるものです。許可を受けずに「試用期間だから」「仕事が軽いから」と最低賃金を下回る賃金を決めても、その部分は無効です。
自分の時給が最低賃金を下回っていないか確かめる
最低賃金と比べる賃金からは、次のものを除きます。厚生労働省の記入要領は、最低賃金法4条3項に定める賃金として、臨時に支払われる賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金、時間外・休日・深夜の手当、精皆勤手当、家族手当、通勤手当などを挙げています。
月給の人は、これらを除いた月給を1か月の平均所定労働時間で割って時給に直します。計算の手順は時給の計算で、都道府県ごとの最低賃金と発効日は最低賃金ランキングで確かめます。
求人票や労働条件通知書で、試用期間中の賃金が本採用後より低く書かれていることがあります。その額が地域の最低賃金を下回っていて、会社が許可を受けていないなら、最低賃金法4条により、その部分は無効で最低賃金額が適用されます。許可を受けている場合でも、減額できるのは最低賃金の20%までで、期間は最長でも6か月です。応募前に、試用期間中の時給を最低賃金と並べて計算しておきます。月給で書かれている場合は、精皆勤手当、通勤手当、家族手当、残業代などを除いた額を、1か月の平均所定労働時間で割って時給に直します。
下回っていたら、まず会社に減額の特例の許可を受けているかを聞きます。許可がないなら、最低賃金法違反です。事業場を管轄する労働基準監督署に相談できます。相談するときは、給与明細、労働条件通知書、勤務時間の記録を持っていくと話が早く進みます。
その会社の数字は、求人票・面接・しょくばらぼで見る
求人票に書かれた時給や月給が、地域の最低賃金を上回っているかは、応募の前に計算できます。試用期間がある求人では、試用期間中の賃金が本採用後と同じか、違うならいくらかを求人票と労働条件通知書で確かめます。厚生労働省のしょくばらぼでは、掲載企業の残業や休暇の数字を見られます。賃金の条件は、入社前に書面で受け取ります。