「ブラック企業」は法律用語ではありません。確認できる具体的な問題は、違法な時間外労働、賃金不払残業、健康を守る措置の未実施などです。厚生労働省の最新の令和7年度監督指導結果では、対象29,150事業場のうち22,882事業場、78.5%で労働基準関係法令違反が確認されました。ただし、長時間労働が疑われる事業場などを選んだ結果で、日本の会社全体の割合ではありません。
応募先を見るときは、強い呼び名より、労働時間をどう記録するか、残業代をどう支払うか、長時間働く人にどう対応するかを確かめます。公的資料の数字を、求人票や面接で確認できる質問に変えると、見た目の雰囲気だけで選ぶことを防げます。
最新の監督結果:29,150事業場のうち78.5%で法令違反
資料は厚生労働省の令和7年度の監督指導結果です。令和8年9月15日公表、監督の実施期間は令和7年4月から令和8年3月までです。2026年10月22日に確認しました。
| 項目 |
事業場数 |
監督対象に対する割合 |
| 監督指導を実施 |
29,150事業場 |
100.0% |
| 労働基準関係法令違反あり |
22,882事業場 |
78.5% |
出典:厚生労働省の、長時間労働が疑われる事業場への令和7年度の監督指導結果の表1「監督指導実施事業場数」2ページ。平均や中央値ではなく、監督対象の事業場数と割合です。
対象には、情報から時間外・休日労働が月80時間を超えていると考えられる事業場や、長時間にわたる過重な労働による過労死等の労災請求があった事業場などが含まれます。全国の会社から無作為に抽出した調査ではありません。
事業場と企業も分けます。一つの企業に本社、支店、工場など複数の事業場があることがあります。29,150をそのまま会社数に言い換えたり、全国の企業数で割って別の率を作ったりすることはできません。
この母数を押さえると、統計の使い道もはっきりします。「日本の会社のほとんどが違反」という結論を作るための表ではありません。問題が疑われた職場で、どんな違反が見つかったかを知り、自分が確認する点を絞るために使います。
主な違反のランキング:時間外労働、健康管理、賃金不払の順
次は同じ表1の主な違反事項を、事業場数が多い順に並べたものです。割合は監督対象29,150事業場に対する公表値です。法令違反があった22,882事業場を分母にした割合ではありません。
| 順位 |
主な違反内容 |
事業場数 |
割合 |
| 1 |
違法な時間外労働 |
11,228 |
38.5% |
| 2 |
過重労働による健康障害防止措置の未実施 |
5,919 |
20.3% |
| 3 |
賃金不払残業 |
1,901 |
6.5% |
出典:厚生労働省の、長時間労働が疑われる事業場への令和7年度の監督指導結果の表1。令和7年度、単位は、事業場の数と割合です。同じ事業場で複数の違反があり得るため、足して全違反の内訳100%にはしません。
表には、主な違反だけが並んでいます。掲載した項目を合計しても、違反のあった事業場数そのものにはなりません。各項目が互いに重ならない分類だと考えることも避けます。
違反の件数が多い順は、読者にとっての危険度の順とは別です。給与が払われないことも、健康管理がされないことも、本人に直接関わる問題です。順位の低い項目だから軽く扱ってよいわけではありません。
「ブラック企業の特徴」を知りたいときは、この具体的な項目に戻ります。企業の規模、求人の言葉遣い、社内行事の有無などから、法令違反を自動的に判定することはできません。雰囲気の印象と、確認できた事実を別々に残します。
特徴を確かめる質問1:長い残業を、何の記録で把握するか
同資料の注記では、違法な時間外労働として、36協定がない、協定が無効、協定の限度時間を超える、時間外労働の上限規制を超えるといったケースを数えています。長時間であることだけを一つの基準で数えた表ではありません。
応募時は、残業時間の平均だけでなく、出勤と退勤をどこに記録するかを聞きます。記録の仕組みがあっても、実際の勤務を入力できるかは別です。会社から入力時間を修正するよう求められるのか、上限に達すると申請できなくなるのかなど、実際の運用を確かめます。
| 求人で見た情報 |
面接で確かめること |
| 残業は少なめ |
配属予定先の集計期間と月平均、繁忙期の実績 |
| 勤怠システムあり |
始業・終業の記録方法と修正の手続き |
| 残業は申請制 |
急な業務や申請前の作業をどう記録するか |
| 在宅勤務あり |
自宅での勤務時間と業務後の対応をどう記録するか |
面接で会社の法律違反を決めつける必要はありません。「この職種の勤務時間はどの方法で記録しますか」と聞けば、事実を確認できます。説明が曖昧なら、入社後に使う勤怠のルールや、承認を受ける相手まで具体化します。
制度名より、実際に起きた勤務を残せることが大切です。求人票に平均時間があっても、集計の対象が本社だけなのか、全職種なのかで読み方が変わります。自分が入る部署の数字と一致するかを確認します。
月80時間超の44.5%は、どの集団の割合か
同資料1ページでは、違法な時間外労働があった11,228事業場のうち、実際の時間外・休日労働が月80時間を超えた事業場は4,991、44.5%です。次の割合の分母は、監督対象全体ではなく11,228事業場です。
| 最も長い労働者の時間外・休日労働 |
事業場数 |
違法な時間外労働があった事業場のうち |
| 月80時間超 |
4,991 |
44.5% |
| 月100時間超 |
2,842 |
25.3% |
| 月150時間超 |
554 |
4.9% |
| 月200時間超 |
111 |
1.0% |
出典:厚生労働省の、長時間労働が疑われる事業場への令和7年度の監督指導結果の1ページ「監督指導結果のポイント」。各事業場の最長の労働者について集計したもので、上の区分に下の区分を含みます。
月200時間超は月150時間超にも月100時間超にも含まれます。各行を足して「合計の割合」を作ることはできません。働く人全体の44.5%が月80時間を超えているという数字でもありません。
平均だけでは、長時間働く人が一部に集中しているかは見えません。求人票の月平均残業が気になるなら、繁忙期の長い月、担当業務による差、休日対応を含むかも聞きます。ただし、公表表にない職場の最大時間を全国平均から推測することはしません。
一般の業界別の残業時間は残業時間の平均で確認できます。そこにある平均と、この監督対象の最長時間を同じ数字として並べないようにします。
特徴を確かめる質問2:固定残業代を超えた分がどう支払われるか
賃金不払残業は1,901事業場、監督対象の6.5%でした。表1の注記は、法定の割増賃金を支払っていないもののうち賃金不払残業を数え、計算誤り等は含まないとしています。残業代に関するあらゆる問題を一つに集計した数字ではありません。
固定残業代の制度があることだけで、違反だとは判断できません。厚生労働省の「固定残業代を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします」は、基本給、固定残業代の時間数と金額等、超過した分の追加支払いの明示を求めています。
求人の月給を見たら、固定残業代を除いた基本給はいくらか、その手当は何時間分か、超えた時間外・休日・深夜労働の割増賃金がどう追加されるかを分けて読みます。「残業代込み」だけで内訳が出ていなければ、入社前に説明を求めます。
面接では「残業代は出ますか」だけで終えず、「実際の勤務が固定残業の時間を超えたとき、勤怠の記録から給与にどう反映されますか」と聞きます。記録と支給のつながりがわかると、制度の説明だけより具体的です。
計算方法や上限規制は残業代の計算で確認します。読者ごとの未払額を、この監督指導の全国件数から計算することはできません。自分の勤務記録、契約、給与明細を照らす必要があります。
特徴を確かめる質問3:健康診断と、長時間勤務後の対応
健康障害防止措置の未実施は5,919事業場、20.3%でした。同資料の注記には、衛生委員会の未設置等、健康診断の未実施、条件に該当する医師の面接指導の未実施、適切な方法による労働時間の状況の把握がないことなどが挙がっています。
これとは別に、健康障害防止措置が不十分として改善を指導した事業場は12,811、43.9%でした。労働時間の把握が不適正として指導した事業場は4,045、13.9%です。違反として是正勧告書を交付した数と、指導票を交付した数は区別します。
| 主な指導の内容 |
事業場数 |
監督対象に対する割合 |
| 健康障害防止措置が不十分として改善を指導 |
12,811 |
43.9% |
| 労働時間の把握が不適正として指導 |
4,045 |
13.9% |
出典:厚生労働省の、長時間労働が疑われる事業場への令和7年度の監督指導結果の1ページ「主な健康障害防止に関する指導の状況」、3〜4ページの詳細。令和7年度、単位は、事業場の数と割合です。
求人で健康管理の制度が紹介されていたら、長時間働く人が出たときの連絡先、業務量を調整する人、相談後の勤務の扱いを聞きます。窓口の名称があることだけでは、仕事を減らしたり引き継いだりできるかまではわかりません。
「忙しい時期はみんな頑張る」という説明だけなら、繁忙期の後ではなく、長時間勤務が続いている途中で何をするかを確認します。体調を崩すまで本人の申告を待つだけなのか、勤務記録から管理者が把握する仕組みがあるのかを聞きます。
企業名が出る公表事案は、監督指導の全件一覧ではない
厚生労働省の長時間労働削減に向けた取組には、労働基準関係法令違反に係る公表事案への案内があります。一般に企業名の公表一覧として探されますが、監督指導で違反が見つかった全事業場をすべて掲載する名簿ではありません。
「労働基準関係法令違反に係る公表事案のホームページ掲載について」(資料編284ページ)では、送検し公表した事案や、所定の局長指導事案などの掲載を定めています。掲載期間は公表日から概ね1年間で、公表から1年が経過して最初に来る月末に削除する扱いです。所定の条件でそれより早く削除することもあり、本省は毎月定期に更新します。
したがって、現在の一覧にないから過去にも問題がなかった、とは言えません。掲載の対象と期間があるためです。逆に、過去の公表事案を見つけても、今の状態や別の事業場の状態がすべて同じだと断定しません。
確認するときは、事案の日付、違反法条、事案概要、送検などの手続きの状況を読みます。送検されたという事実を、裁判で有罪が確定したという意味に変えないようにします。行政による指導と刑事手続きも分けます。
この記事では個別企業の名称を並べません。応募先を自分で調べるときも、似た名称や別法人と取り違えないよう、正式な法人と事業場、所在地を資料上で照合します。名称だけの検索結果を、そのまま応募先の事実として持ち込まないことです。
求人の抽象的な言葉を、具体的な勤務条件に直す
「成長できる」「やりがいがある」といった言葉だけで、法令違反を見抜くことはできません。反対に、採用ページが整っていても、給与と勤務の実態を確かめたことにはなりません。聞くべき点を勤務条件に置き換えます。
| 抽象的な説明 |
確認する事実 |
| 若手が活躍 |
入社後の担当範囲、指導する人、仕事を確認する方法 |
| 裁量が大きい |
納期や優先順位の決定、業務量を調整する相手 |
| 休みを取りやすい |
申請手順、配属先の取得実績、休む日の引き継ぎ |
| 評価が給与に反映 |
評価の項目、決定時期、基本給と手当の内訳 |
回答の印象より、確認できた内容をメモします。具体的な説明を受けた点、資料と食い違う点、まだ不明な点を分けると、複数の会社を比べるときにも判断がぶれにくくなります。
安心して働くための全体の確認項目はホワイト企業の見分け方で整理しています。このページでは、監督指導で公表された問題を、勤務時間、賃金、健康管理の質問につなげて使います。
働き始めてから食い違いがあったら、日時と記録を残す
入社前の説明と勤務が違ったら、何がいつ違ったかを整理します。労働時間なら出退勤の記録、賃金なら給与明細と契約上の内訳、休日なら勤務予定と実際の出勤日を分けます。強い評価語だけより、確認や相談に使える事実になります。
本人の記憶だけで勤務時間を埋め直すより、手元で確認できる記録と、その記録にない対応を区別します。上司から受けた指示や修正の説明があるなら、それも時系列で残します。他人の個人情報や業務上不要な秘密まで持ち出す必要はありません。
社内で確認しても解消しない場合は、厚生労働省が案内する総合労働相談コーナーなどで相談先を確かめられます。法令違反の疑いは内容に応じて労働基準監督署等に相談します。体調や安全に関わる問題があるときに、応募先の調査を終えるまで待つ必要はありません。
平均時間が示されたら、集計期間と対象部署をそろえる
残業の月平均が示されたら、いつからいつまでの実績かを確認します。忙しい時期を含む期間なのか、入社予定の部署も対象なのかがわからないと、比較したい勤務の実態に届きません。全社平均を、説明なしに配属先の平均と読み替えないようにします。
対象者の範囲も確認します。正社員だけか、短時間で働く人も含むか、管理職を含むかによって、同じ会社の平均でも値は変わります。数値の大きさが違うときは、最初に対象と期間をそろえます。違っている理由を、すぐに隠蔽などと断定しません。
労働時間の項目名も残します。所定外労働時間と、法定労働時間を超える時間は同じ集計とは限りません。求人で使われた「残業」の定義を会社に聞き、休日の勤務や持ち帰りの業務がどの欄に含まれるかを確認します。
数字を出せないと説明されたら、その場で値を推測して埋める必要はありません。集計していないのか、採用窓口ではわからないのか、後で回答できるのかを分けます。不明のまま残っている条件が、自分にとってどれだけ大きいかで判断します。
求人票と面接の説明が違ったら、応募する条件を聞き直す
選考中に業務や給与の説明が変わることもあります。変わった事実を見つけたら、どの条件で採用する予定かを確認します。担当者の口頭説明と、古い求人の条件を、自分に都合のよい部分だけつなげないようにします。
厚生労働省の労働条件明示のルールの案内は、労働契約の締結時に示す就業場所と業務の変更範囲なども説明しています。入社直後の配属だけでなく、その後どこまで変わるかを確認すれば、当初の印象と実際の働き方のずれを減らせます。
食い違いへの返答もメモします。誤記だったのか、募集条件が変わったのか、職種ごとに別なのかが明確になれば、修正後の書面で確認できます。理由がわからないままなら、その不明点を残して入社の判断をします。
求人票・面接・しょくばらぼで、その会社の数字を確かめる
応募先では、求人票の給与、固定残業代、勤務時間、休日を写します。面接では配属予定先の残業実績と記録の方法、追加の残業代の扱い、健康管理の運用を確認します。監督結果の全国件数を、その会社の実態として当てはめないためです。
厚生労働省のしょくばらぼに掲載された残業、休暇、採用や定着の情報も使います。集計年度と対象者を見て、全社平均と配属先の説明が違うなら、その理由を聞きます。掲載がない数字は、ゼロとせず不明のまま質問に残します。
その会社の実際の数字は、求人票・面接・しょくばらぼで確かめます。呼び名や求人の雰囲気だけで判断せず、働いた時間が記録され、その分の賃金が支払われ、健康を守る対応が行われるかを具体的な説明で確認します。