オファー面談は、内定のあとに会社が給与や仕事の条件を伝え、応募者が質問する場です。法律で決まった手続きではありません。ただ、会社は労働基準法15条で労働条件を明示する義務があり、賃金や労働時間などは書面で示します。2024年4月からは、就業場所と業務の「変更の範囲」も明示する事項に入りました。
厚生労働省の令和7年転職者実態調査では、会社が転職者の賃金を決めるときに考えた要素は「これまでの経験・能力・知識」が59.2%で最も多い結果でした。一方、転職した人の満足度は、賃金の項目が最も低くなっています。面談では、金額だけでなく、その額になった理由と内訳を聞いておきます。
法令と統計は、厚生労働省の公表資料と法令データで2026年10月25日に確かめました。条件をどこまで変えられるかは会社ごとに違います。この記事は、面談で何を聞き、何を書面で確かめるかの整理です。
オファー面談とは:選考ではなく条件を確かめる場
オファー面談という言葉は、法律や公的な統計には出てきません。会社によって、条件面談、処遇面談などと呼び方が変わります。中身はおおむね同じで、内定を出した人に条件を説明し、疑問に答える場です。
選考の面接では、会社が応募者を見ます。オファー面談では、応募者が会社を見る番です。入社するかを決めるのに足りない情報があれば、ここで聞きます。
内定前の面談かどうかを先に確かめる
内定を出す前に「最終確認」として面談を入れる会社もあります。その場合は選考の一部です。案内のメールで、内定がすでに出ているのか、面談のあとに出るのかを確かめます。
内定が出ているなら、内定通知書や採用条件の書面が届いているはずです。内定通知書と労働条件通知書を受け取ったら、何を見るかは内定通知書の見方で説明しています。
オファー面談の前に準備すること
面談の前に、今の条件を手元で確かめておきます。比べる基準がないと、提示された額が高いのか低いのか判断できません。
| 準備するもの |
確かめること |
| 直近の給与明細 |
基本給、手当、残業代の内訳 |
| 前年の源泉徴収票 |
賞与を含む1年分の支払金額 |
| 就業規則・契約書 |
今の休日、勤務時間、退職の申出の期限 |
| 求人票と募集要項 |
応募時に示された給与の幅と条件 |
| 選考中のメモ |
面接で聞いた配属や仕事の話 |
今の会社をいつ辞められるかは、就業規則の退職の項目で確かめます。入社日の相談をするときに、この日付が要ります。
「想定年収」の中身を分ける
提示の書面に「想定年収」と書かれていることがあります。月給の12か月分に、賞与や残業代の見込みを足して示すことがあります。その場合、約束された額とは限りません。
面談では、想定年収を「毎月必ず払われる額」「賞与の見込み」「残業代の見込み」に分けて説明してもらいます。賞与は業績や評価で変わるか、残業代は何時間を前提にした額かを聞きます。今の給与と比べるときも、同じ分け方で並べます。
会社が明示しなければならない労働条件
労働基準法15条は、労働契約を結ぶときに、使用者が賃金、労働時間その他の労働条件を、明示しなければならないと定めています。細かい項目は、労働基準法施行規則5条に並んでいます。
| 明示する項目 |
書面で示すもの |
| 契約の期間 |
書面で示す |
| 有期契約の更新の基準と上限 |
書面で示す |
| 就業場所と業務、その変更の範囲 |
書面で示す |
| 始業と終業の時刻、残業の有無、休憩・休日・休暇 |
書面で示す |
| 賃金の決め方、計算と支払いの方法、締切と支払日 |
書面で示す |
| 昇給 |
口頭でもよい |
| 退職に関すること(解雇の事由を含む) |
書面で示す |
| 退職手当、賞与、休職など |
定めがあれば明示する |
出典:労働基準法施行規則5条。e-Govの法令データで2026年10月25日に確認。表は条文を短くまとめたものです。
書面で示す項目は、本人が希望すればファクシミリや電子メールなどでも受け取れます。面談で口頭の説明だけを受けて終わったら、書面かメールで同じ内容をもらえるよう頼みます。
同じ条には、明示した労働条件を、事実と違うものにしてはならないとも書かれています。また労働基準法15条2項は、明示された条件が事実と違う場合、労働者は即時に契約を解除できるとしています。
2024年4月からの明示ルール
厚生労働省の明示ルールの案内とリーフレットでは、2024年4月から次の事項が加わったと説明しています。
| 対象 |
加わった明示事項 |
| すべての労働契約 |
就業場所・業務の変更の範囲 |
| 有期契約の締結と更新 |
更新上限の有無と内容 |
| 無期転換の権利が生じる更新 |
無期転換を申し込めること |
| 無期転換の権利が生じる更新 |
無期転換後の労働条件 |
出典:厚生労働省、2024年4月から労働条件明示のルールが変わりました(リーフレット)。2026年10月25日確認。
「変更の範囲」は、将来の配置転換などで変わりうる、就業場所と業務の範囲のことです。入社直後の勤務地だけでなく、将来どこまで動く可能性があるかが書かれます。転勤を避けたい人は、ここを必ず見ます。
有期契約のオファーなら更新の条件を聞く
契約社員など、期間の定めがある契約で採用されることもあります。その場合は、契約期間、更新するかどうかの基準、更新上限の有無を見ます。2024年4月からは、更新上限の有無と内容も書面で示す事項です。
同じ会社との有期契約が通算5年を超えると、本人の申込みで、期間の定めのない契約に変わります。無期転換と呼ばれる仕組みです。転換の権利が生じる更新のときには、申込みができることと転換後の条件も明示されます。正社員への登用の制度があるなら、これまでの実績も聞いておきます。
会社は転職者の賃金をどう決めているか
厚生労働省の令和7年転職者実態調査は、常用労働者5人以上の事業所と、そこで働く転職者を対象にした調査です。令和7年10月1日現在の状況を調べ、令和8年9月25日に公表されました。
転職者がいる事業所に、転職者の賃金を決めるときに、考えた要素を聞いています(複数回答)。多い順に並べました。
| 順位 |
賃金決定の際に考慮した要素 |
事業所の割合 |
| 1 |
これまでの経験・能力・知識 |
59.2% |
| 2 |
年齢 |
35.3% |
| 3 |
賃金の世間相場 |
34.2% |
| 4 |
免許・資格 |
30.6% |
| 5 |
前職の賃金 |
27.0% |
| 6 |
その他 |
17.9% |
| 7 |
学歴 |
12.0% |
出典:厚生労働省、令和7年転職者実態調査の概況、表5。転職者がいる事業所を100とした割合(複数回答)。
最も重視した要素を1つだけ選んだ図2では、経験・能力・知識が38.4%で1位でした。次いで賃金の世間相場19.1%、その他12.8%、前職の賃金9.2%、免許・資格8.1%、年齢7.6%、学歴1.2%です。
前職の賃金を考えた事業所は27.0%で、最も重視したのは9.2%です。前の会社の給与がそのまま基準になるとは限りません。交渉するなら、前職の額より、自分の経験が新しい仕事のどこで役立つかを、具体的に話すほうが、会社が見ている点と合います。
規模が大きいほど、考える要素が増える
同じ表5を事業所の規模別に見ると、経験・能力・知識を考えた割合は、規模が大きいほど高くなっています。
| 事業所規模 |
経験・能力・知識 |
前職の賃金 |
年齢 |
学歴 |
| 1,000人以上 |
85.2% |
48.1% |
54.0% |
45.1% |
| 300〜999人 |
76.9% |
43.0% |
52.3% |
32.8% |
| 100〜299人 |
70.7% |
37.7% |
48.0% |
22.4% |
| 30〜99人 |
63.3% |
31.3% |
37.9% |
14.9% |
| 5〜29人 |
56.6% |
24.4% |
33.1% |
9.8% |
出典:同調査、表5の事業所規模別の行。転職者がいる事業所を100とした割合(複数回答)。
大きい事業所では、前職の賃金や年齢、学歴も考えに入れる割合が高くなります。考える要素が多いほど、提示額の理由も複数あるはずです。面談では「どの等級に当てはめたのか」「等級の幅の中でどこにいるのか」を聞くと、交渉の余地が見えます。
小さい事業所は、賃金の世間相場を考えた割合が36.4%で、大きい事業所より高い値です。相場の数字を自分で調べて持っていくと、話がかみ合いやすくなります。職種と年齢が近い人の賃金を、公的な統計や求人票の給与の幅で調べておきます。同じ職種の求人を何件か並べると、提示額が相場のどのあたりかが分かります。
転職後の満足度:賃金が最も低い
同じ調査の個人調査では、転職した人に、今の勤め先の満足度を11の項目で聞いています。満足度D.I.は、「満足」と「やや満足」の割合から、「不満」と「やや不満」の割合を引いた値です。高い順に並べました。
| 順位 |
満足度の項目 |
満足度D.I. |
| 1 |
通勤の便 |
58.0 |
| 2 |
仕事内容・職種 |
57.8 |
| 3 |
会社の規模・知名度 |
52.3 |
| 4 |
人間関係 |
48.7 |
| 5 |
安全や衛生等の職場環境 |
48.5 |
| 6 |
労働時間・休日・休暇 |
47.9 |
| 7 |
職業生活全体 |
44.0 |
| 8 |
福利厚生 |
38.1 |
| 9 |
会社の将来性 |
35.3 |
| 10 |
役職 |
32.6 |
| 11 |
賃金 |
22.2 |
出典:厚生労働省、令和7年転職者実態調査の概況、図4・表14。単位はポイント。転職者の回答です。
賃金に「満足」「やや満足」と答えた人は49.8%でした。一方、「不満」「やや不満」は27.6%で、ほかの項目より多くなっています。男性のD.I.は27.2ポイント、女性は16.7ポイントです。
反対に、仕事内容・職種は満足が68.7%、不満が10.9%で、57.8ポイントでした。職業生活全体のD.I.は44.0ポイントで、正社員は43.3ポイント、正社員以外は50.5ポイントです。仕事の中身には満足していても、給与には納得しきれていない人がいる、という並びになっています。面談では、仕事内容の説明と同じくらいの時間を、給与の説明に使ってもらうよう頼んでかまいません。
この数字は、転職で給与が下がった人だけの回答ではありません。満足していない理由までは調査に書かれていません。それでも、入ってから給与に不満を持つ人が、一定数いることは読み取れます。面談で内訳と昇給の仕組みを確かめておくのは、そのためです。
オファー面談で聞いておくこと
面談の時間は限られます。聞くことを先に書き出し、答えをその場でメモします。
| 分類 |
聞くこと |
| 給与 |
基本給、手当の内訳、固定残業代の有無と時間 |
| 賞与 |
支給月、算定の方法、前年度の実績 |
| 昇給 |
時期、評価の仕組み、等級の考え方 |
| 勤務地 |
入社時の場所、変更の範囲、転勤の頻度 |
| 業務 |
最初の担当、変更の範囲、配属先の人数 |
| 時間 |
始業・終業、残業の見込み、休日の決まり方 |
| 試用期間 |
期間の長さ、その間の条件の違い |
| 入社日 |
開始の日、今の会社の退職日との調整 |
固定残業代があるときは、何時間分で、いくらか、超えた分はどう払うかを聞きます。仕組みは固定残業代の記事にあります。賞与は、前年度の実績と、契約で約束される条件を分けて聞きます。
配属先の様子は具体的に聞く
「どんな雰囲気ですか」と聞いても、答えは広くなります。配属先の人数、上司が誰か、入社後に最初に任される仕事、相談相手を聞きます。可能なら、配属先の人と話す機会がないか頼みます。
働き方の数字は、会社の平均と配属先で違うことがあります。残業の時間や有給休暇の取得日数を聞くときは、「会社全体」と「配属予定の部署」を分けて聞きます。
条件交渉の進め方
交渉はしてかまいませんが、会社が応じる義務はありません。言い方と根拠で、通りやすさが変わります。
- 提示された条件を、書面で全部受け取る
- 今の給与の内訳を、明細で確かめておく
- 自分の経験が新しい仕事で役立つ点を整理する
- 希望の額と、譲れる下限を決めておく
- 金額が難しければ、入社日や手当、役割で調整できないか聞く
- 合意した内容を、書面で受け取り直す
希望の額を伝えるときは、【希望額】の根拠として、担当する仕事と自分の経験を結びつけます。前職の給与だけを理由にすると、会社が見ている点からずれます。調査でも、前職の賃金を最も重視した事業所は9.2%でした。
他社の内定と比べて交渉する場合は、事実だけを伝えます。条件をふくらませて伝えると、後で食い違います。
承諾したあとで迷ったら
内定を承諾したあとでも、入社前なら辞退はできます。ただ、会社は入社の準備を進めています。辞退を決めたら、できるだけ早く電話で伝え、そのあとメールでも送ります。
迷いの多くは、面談で聞き残したことから生まれます。承諾の前に、気になっている点を全部聞いておくほうが、後で悩む時間を減らせます。
返事の期限を確かめる
面談のあと、内定を受けるかの返事を求められます。期限がいつかを確かめ、足りなければ延ばせないか相談します。迷っている点が何かを伝えると、追加の説明をもらえることもあります。
書面で確かめるときの見方
面談で聞いた内容と、届いた書面を並べて見ます。食い違いがあれば、入社を決める前に問い合わせます。
| 面談のメモ |
書面で見る箇所 |
| 月給と手当の額 |
賃金の項目、内訳 |
| 固定残業代の時間 |
賃金の項目、注記 |
| 勤務地と転勤の話 |
就業場所、変更の範囲 |
| 担当業務 |
従事する業務、変更の範囲 |
| 残業の見込み |
所定時間外労働の有無 |
| 試用期間の条件 |
契約の期間、試用期間の記載 |
入社してから、書面と実際の条件が違うと分かることもあります。労働基準法15条2項は、その場合に、労働者が即時に契約を解除できるとしています。就業のために住居を変えた人が、解除の日から14日以内に帰郷するときは、会社が必要な旅費を負担すると3項にあります。ただ、すぐに辞めるより先に、どこが違うのかを書面と給与明細で示して、会社に説明を求めるのが現実的です。
雇用契約書と労働条件通知書の違いや、もらえないときの頼み方は雇用契約書の記事で説明しています。
その会社の実際の数字は、求人票・面接・しょくばらぼで確かめる
面談での説明は、会社が伝えたい内容が中心になります。公開されている数字と合わせて読むと、聞くべき点が見えてきます。
厚生労働省のしょくばらぼでは、掲載企業の平均勤続年数、月平均の残業時間、有給休暇の取得日数などを見られます。求人票の条件と見比べ、違いがあれば面談で聞きます。面接で聞く質問の作り方は面接の逆質問で整理しています。