ストレスチェックは、働く人の心理的な負担の程度を調べる検査です。労働安全衛生法66条の10で、会社に実施の義務があります。常時50人以上の事業場は義務、50人未満は当分の間努力義務で、令和7年の法改正で義務にすることが決まりました。受けるかどうかは本人が決められ、結果は本人に届きます。本人の同意がなければ、結果は会社に渡りません。
厚生労働省の令和7年労働安全衛生調査では、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所のうち、64.0%がストレスチェックを実施していました。実施した事業所のうち、結果を部や課ごとに集計する集団分析をしたのは74.9%です。
法令と統計は、e-Govの法令データと厚生労働省の公表資料で2026年10月25日に確かめました。自分の職場で実施されているかは、会社の案内や衛生委員会の資料で確かめます。
ストレスチェックとは:法律で決まった年1回の検査
労働安全衛生法66条の10第1項は、会社が医師、保健師などに、心理的な負担の程度を把握するための検査を、行わせると定めています。この検査がストレスチェックです。条文はe-Govの66条の10で読めます。
労働安全衛生規則52条の9は、常時使用する労働者に対し、1年以内ごとに1回、定期に行うとしています。調べるのは次の3つです。
| 調べる項目 |
中身 |
| 心理的な負担の原因 |
仕事の量や質、職場の状況など |
| 心身の自覚症状 |
疲れ、不安、落ち込みなどの自覚 |
| 周りからの支援 |
上司や同僚から得られる助け |
出典:労働安全衛生規則52条の9。項目名は条文を短く言い換えたものです。
誰が検査をするか
検査をするのは、医師、保健師のほか、研修を終えた歯科医師、看護師、精神保健福祉士、公認心理師です(規則52条の10)。同じ条の2項は、検査を受ける人の解雇や昇進、異動について直接の権限を持つ人は、検査の実施の事務に関わってはならないとしています。
つまり、自分の人事を決める上司が、回答を集めたり結果を見たりする仕組みには、なっていません。外部の機関に任せる会社もあります。産業保健総合支援センターの資料でも、プライバシーの面から外部委託が望ましいと書かれています。
受けるのは義務か:会社は実施の義務、本人は受けるかを選べる
法律が義務を課しているのは会社です。会社は検査を用意し、働く人に受ける機会を作ります。
奈良労働局のサイトに載っている産業保健総合支援センターの小規模事業場向け資料は、受検は義務ではないが、全員の受検が望ましいとしています。そのうえで、会社には、受検の機会を提供する義務があると説明しています。
受けないと決めることもできます。ただ、ストレスチェックは、自分では気づきにくい負担に気づくためのものです。結果は本人に届き、会社に渡るのは同意したときだけです。迷うなら、どう扱われるかの説明を、会社の案内で読んでから決めます。
対象になる人
資料では、対象を常時使用する労働者としています。契約期間が1年以上で、週の労働時間が通常の4分の3以上なら、パートやアルバイトも対象になると説明しています。自分が対象かどうかは、会社の実施の案内で確かめます。
結果は会社に伝わるか
いちばん気になるのは、結果を会社に見られるかどうかです。法律ははっきり決めています。
労働安全衛生法66条の10第2項は、検査を受けた人に、検査をした医師等から結果を通知させるとしています。そのうえで、医師等は、あらかじめ本人の同意を得ないで、結果を会社に提供してはならないと定めています。
| 場面 |
結果の扱い |
| 検査を受けた |
医師等から本人に通知される |
| 本人が同意していない |
医師等は会社に渡してはならない |
| 本人が同意した |
会社に提供される |
| 面接指導を申し出た |
提供に同意したものとして扱われる |
| 集団分析 |
個人が特定されない形で会社に届く |
出典:労働安全衛生法66条の10、奈良産業保健総合支援センターの資料(奈良労働局のサイトに掲載)。2026年10月25日確認。
面接指導を申し出たときの扱いは、資料に書かれている説明です。その場合でも、会社に伝わるのは面接の結果で、具体的な回答の内容やストレスの原因は含まれないとしています。
同意は書面かデータで、あとから求められても断れる
会社が結果を受け取るための同意は、書面または電磁的記録で取らなければなりません(規則52条の13第1項)。口頭で「いいですよね」と聞かれて済ませる形は、条文の想定ではありません。同意の欄があったら、何のために結果を渡すのかを読んでから決めます。
同意して会社が結果を受け取った場合、会社はその記録を作り、5年間保存します(同条2項)。同意しなかった結果は、検査をした医師等の側で記録が保存されるよう、会社が必要な措置をとることになっています(規則52条の11)。結果の通知は、遅滞なく本人に届くようにしなければなりません(規則52条の12)。
| 規則の条文 |
決まっていること |
| 52条の9 |
1年以内ごとに1回、3つの項目で検査する |
| 52条の10 |
実施者の範囲、人事権を持つ人は事務に関わらない |
| 52条の11 |
結果の記録の作成と保存が適切に行われるようにする |
| 52条の12 |
結果は遅滞なく本人に通知する |
| 52条の13 |
同意は書面か電磁的記録、受け取った結果は5年保存 |
| 52条の14 |
集団ごとの集計と分析に努める |
出典:労働安全衛生規則52条の9〜52条の14。e-Govの法令データで2026年10月25日に確認。内容は短く言い換えています。
集団分析は個人が分からない形で
会社は、個人の結果を部や課などの集団ごとに集計し、分析した結果を受け取ることができます。これが集団分析です。
厚生労働省の集団分析の案内では、個人の結果は本人に直接通知され、基本的に会社には提供されないと説明しています。集計の単位が10人を下回る場合は、個人が特定されるおそれがあるため、原則として、集団分析をしてはいけないとも書いています。
労働安全衛生規則の改正で、令和9年4月1日からは、集団分析を「特定の個人を識別することができない方法」で行うことが条文に入ります。厚生労働省労働基準局長の令和8年6月30日の通達は、これまでの解釈を明文化したもので、運用は変えないとしています。
事業所規模別のストレスチェック実施割合
厚生労働省の令和7年労働安全衛生調査は、常用労働者10人以上の民営事業所を対象にした調査です。令和7年10月31日現在の状況を聞いています。
第3表の括弧内の数字は、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所を100としたとき、ストレスチェックを実施した事業所の割合です。規模の大きい順に並べました。
| 事業所規模 |
ストレスチェックを実施した割合 |
| 1,000人以上 |
100.0% |
| 500〜999人 |
99.9% |
| 300〜499人 |
99.3% |
| 100〜299人 |
94.5% |
| 50〜99人 |
85.7% |
| 30〜49人 |
58.4% |
| 10〜29人 |
55.9% |
| 50人以上(再掲) |
89.8% |
| 合計 |
64.0% |
出典:厚生労働省、令和7年労働安全衛生調査(実態調査)の概況、第3表の括弧内の値。メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所を100とした割合です。
分母は、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所です。すべての事業所に占める割合ではありません。同じ調査で、取り組んでいる事業所の割合は全体で63.0%、50人以上で93.7%、10〜29人で54.6%でした。
義務の対象の50人以上でも、取り組む事業所を分母にして89.8%です。50〜99人は85.7%で、100人以上の事業所より低くなっています。
集団分析をした割合と、結果を活用した割合
同じ第3表と第4表から、ストレスチェックを実施した事業所のうち、集団分析をした割合と、分析した事業所のうち、結果を活用した割合を並べました。
| 事業所規模 |
集団分析をした |
分析結果を活用した |
| 1,000人以上 |
88.7% |
91.7% |
| 500〜999人 |
92.0% |
91.6% |
| 300〜499人 |
84.0% |
77.5% |
| 100〜299人 |
85.8% |
82.7% |
| 50〜99人 |
77.2% |
77.8% |
| 30〜49人 |
77.7% |
77.9% |
| 10〜29人 |
70.5% |
76.8% |
| 合計 |
74.9% |
78.1% |
出典:同調査、第3表と第4表。集団分析をした割合はストレスチェックを実施した事業所を100、活用した割合は集団分析をした事業所を100とした割合です。
令和6年調査の合計は、集団分析が75.4%、活用が76.8%でした。集団分析は会社の努力義務で、しなくても法律違反にはなりません。小さい事業所ほど、分析まで進む割合が低くなっています。
分析結果は何に使われているか
第4表では、分析結果を活用した事業所に、使い道を聞いています(複数回答)。多い順に並べました。
| 順位 |
分析結果の活用内容 |
割合 |
| 1 |
残業時間削減、休暇取得に向けた取組 |
49.9% |
| 2 |
相談窓口の設置 |
43.2% |
| 3 |
上司・同僚に支援を求めやすい環境の整備 |
38.5% |
| 4 |
衛生委員会又は安全衛生委員会での審議 |
34.3% |
| 5 |
業務配分の見直し |
32.6% |
| 6 |
人員体制・組織の見直し |
32.4% |
| 7 |
管理監督者向け又は労働者向け研修の実施 |
24.7% |
| 8 |
職場の物理的環境の見直し |
22.9% |
| 9 |
従業員参加型の職場環境改善 |
7.1% |
| 10 |
その他 |
4.5% |
出典:厚生労働省、令和7年労働安全衛生調査(実態調査)の概況、第4表。分析結果を活用した事業所を100とした割合(複数回答)。9位の正式な項目名は、従業員参加型の職場環境改善、ワークショップの実施です。
残業や休暇の取り組みが最も多く、半数近くになっています。ストレスチェックの結果は、本人のためだけでなく、職場の働き方を見直す材料としても使われています。分析した事業所のうち18.8%は「特に活用していない」と答えています。
働く人が感じているストレスの中身
同じ調査の個人調査では、仕事や職業生活で強い不安、悩み、ストレスを感じる事柄がある人が67.5%でした。その内容(主なもの3つ以内)を、多い順に並べます。
| 順位 |
強いストレスの内容 |
割合 |
| 1 |
仕事の量 |
39.5% |
| 1 |
仕事の失敗、責任の発生等 |
39.5% |
| 3 |
対人関係(セクハラ・パワハラを含む) |
32.9% |
| 4 |
仕事の質 |
30.7% |
| 5 |
顧客、取引先等からのクレーム |
22.1% |
| 6 |
会社の将来性 |
20.5% |
| 7 |
役割・地位の変化等 |
17.7% |
| 8 |
雇用の安定性 |
7.6% |
| 9 |
事故や災害の体験 |
2.9% |
出典:同調査、第17表。強いストレスと感じる事柄がある労働者を100とした割合で、その他の事柄11.1%は除いています。同じ値は同順位です。
年齢別に見ると、20〜29歳では強いストレスがある人が72.0%で、内容は仕事の失敗・責任の発生等が60.8%、仕事の量が51.6%でした。30〜39歳では会社の将来性が28.9%と、ほかの年齢より高くなっています。
ストレスチェックの質問も、こうした仕事の負担や、周りの支援について聞く作りです。厚生労働省の集団分析の案内には、調査票の全57項目の合計点で集団の平均を出す方法が、例として出てきます。質問に正解はありません。よく見せようとして答えを変えると、自分の負担に気づく機会を逃します。個人の結果は本人に届くものなので、思ったとおりに答えます。結果の紙やデータは、自分の体調を振り返る記録として残しておくと、翌年と比べられます。答えるときは、その日の気分ではなく、ここ最近の状態を思い出して答えます。
高ストレスと判定されたとき
検査の結果、心理的な負担が高く、面接指導が必要と医師等が認めた人は、医師の面接指導を申し出ることができます。66条の10第3項で、申し出があれば、会社は面接指導を行わなければなりません。同じ項は、申し出たことを理由に、不利益な取扱いをしてはならないとしています。
面接のあと、会社は医師の意見を聞き、必要があれば就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮などの措置をとります(同条5項・6項)。面接指導の流れは産業医面談の記事にまとめています。
申し出るかどうかも本人が決めます。会社に知られたくない場合は、社外の相談先を使う方法もあります。体調が悪く仕事を休むことになったときの手続きは、適応障害で休職するときで整理しています。
会社の案内で確かめること
実施の案内が届いたら、次の点が書かれているかを見ます。書かれていなければ、担当の窓口に聞いてかまいません。
| 確かめること |
見る理由 |
| 実施するのは誰か |
社内の担当か外部の機関かで、結果の流れが違う |
| 結果はどう届くか |
本人だけに届く方法かを確かめる |
| 会社への提供の同意 |
同意しない選択ができるかを確かめる |
| 面接指導の申し出先 |
高ストレスのときにすぐ動ける |
| 集団分析の単位 |
小さな部署で個人が分からないかを見る |
| 相談の窓口 |
社内と社外の両方があるかを知る |
奈良産業保健総合支援センターの資料では、導入のときに、実施の体制や方法について働く人の意見を聞き、実施体制、記録の保存、情報の管理、不利益な取扱いの禁止などを社内ルールにして、全員に知らせるよう説明しています。ルールが掲示や社内のサイトにあるなら、受ける前に一度読んでおきます。
50人未満の事業場はこれから義務に
常時50人未満の事業場は、労働安全衛生法の附則4条で、当分の間は「行うよう努めなければ」と読み替えられています。令和7年5月14日公布の改正法の附則は、この附則4条を削る改正を、公布の日から3年を超えない範囲内で、政令で定める日に施行するとしています。
小さな会社で働く人は、今の職場で実施されているかを確かめておきます。実施されていなくても、地域の産業保健センターなどの相談先は使えます。
その会社の実際の数字は、求人票・面接・しょくばらぼで確かめる
ストレスチェックを実施しているか、結果を職場の改善に使っているかは、求人票にはほとんど書かれません。面接で、メンタルヘルス対策の取り組みと相談窓口を聞くと、会社の姿勢が見えます。
厚生労働省のしょくばらぼでは、掲載企業の月平均の残業時間や、有給休暇の取得状況を見られます。ストレスの原因で多い仕事の量は、残業の数字に表れます。残業の平均の見方は残業の記事で、働きやすい会社の見分け方はホワイト企業の記事で整理しています。