有給休暇(年次有給休暇)の申請を「忙しいからダメ」と断られても、会社が有給をなくせるわけではありません。労働基準法39条5項は、会社は労働者が請求した時季に年休を与えなければならないとしています。会社にできるのは、その日に休まれると事業の正常な運営を妨げる場合に、別の時季に変える「時季変更権」だけです。休むこと自体を断ったり、年休の日数を消したりする権利ではありません。
ここで書く制度の中身は、e-Govに載っている労働基準法の条文と、厚生労働省の解説サイト「確かめよう労働条件」の説明を2026年10月26日に確かめたものです。自分の場合に時季変更が認められるかどうかは、職場の事情によって判断が分かれます。この記事は判断の物差しと、断られたときに取る手順を整理するものです。
有給休暇は会社の許可で決まるものではない
労働基準法の39条1項は、6か月続けて勤め、全労働日の8割以上出勤した人に10労働日の有給休暇を与えるよう会社に義務づけています。そのうえで5項が、取る日について次のように決めています。
| 条文 |
書かれていること |
| 39条5項本文 |
会社は、年休を労働者の請求する時季に与えなければならない |
| 39条5項ただし書 |
請求された時季に与えると事業の正常な運営を妨げる場合は、他の時季に与えることができる |
| 39条6項 |
労使協定で計画的に与える日を決めたときは、5日を超える部分はその日に与えられる |
| 39条7項 |
年10日以上与える人には、そのうち5日を1年以内に会社が時季を決めて与える |
| 附則136条 |
年休を取った人に、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない |
厚生労働省の年次有給休暇の解説は、労働者が指定した日がそのまま年休の日になり、会社の承認は必要ないと説明しています。同じサイトの年休のQ&Aが紹介する判例も、年休の成立に会社の承認という考え方を入れる余地はなく、会社の「承認しない」という返事は、時季変更権を使うという意思表示にあたるとしています。
つまり、上司が「不承認」と言ったときに問うべきなのは、許可が出たかどうかではありません。その日に休まれると事業の正常な運営を妨げるのか、という時季変更の要件を満たしているかどうかです。
申請の方法や締切が就業規則で決まっていれば、それに沿って出します。休暇は就業規則に必ず書く項目です(労働基準法89条1号)。手続きのルールと、休むこと自体を認めるかどうかは別の話として分けて考えます。
時季変更権が認められる場合
厚生労働省の解説は、「事業の正常な運営を妨げる」場合の例として、次の2つを挙げています。
- 年末など、特に業務が忙しい時季を指定した場合
- 同じ時期に多くの労働者の年休の指定が重なり、全員に与えるのが難しい場合
当たるかどうかは、請求した人の所属する事業場を基準に、個別に、具体的・客観的に判断します。Q&Aでは、事業の規模と内容、担当する作業の内容と性質、作業の繁閑、代わりの人を配置する難しさ、労働慣行などを考えるとしています。
さらに解説は、代わりの勤務者を配置できるのに、休む目的を理由にその配慮をしないで時季変更権を使うことは許されないとした判例を紹介しています。逆に、1か月など長く続けて休む年休を事前の調整なしに指定した場合は、時季変更について会社にある程度の裁量を認めた判例もあります。
| 会社の言い方 |
条文と解説に照らして確かめる点 |
| 「その日は人が足りないから別の日にして」 |
代わりの人を手配できないのか。別の日はいつか |
| 「繁忙期だから今月は誰も取れない」 |
職場の事情として具体的に何が止まるのか |
| 「うちは有給を取らせない」 |
時季変更ではなく、年休そのものを与えない扱い |
| 「理由を言わないなら認めない」 |
目的は自由。時季変更を考える場面かどうか |
| 「退職するなら有給は使わせない」 |
退職日を超えて日を変えることはできない |
| 「勝手に休んだから欠勤扱い」 |
時季変更が適法に行われたかで扱いが変わる |
時季変更権は、年休を別の日に与える権利です。解説は、時季変更の理由がなくなったら、できるだけ早く年休を与えなければならないとする行政の通達にも触れています。「いつかそのうち」で止めておく権利ではありません。別の日を示されなかったときは、「では、いつなら取れますか」と聞いて、日付で答えをもらいます。
有給の理由を聞かれたとき
厚生労働省の年休のQ&Aは、年休をどんな目的で取るかは労働者の自由で、会社は目的によって取得を拒めないとしています。私用の中身を会社が審査して、許すかどうかを決める制度ではありません。
一方で、同じQ&Aは、時季変更を考える場面で会社が休暇の事情を尋ね、労働者が理由を明らかにしなかったことなどの事情の下で、時季変更が有効とされた判例も紹介しています。忙しい時期で、事情によっては認めてもよいと会社が考えた場面の判断です。
申請書に理由欄があっても、目的を説明しなければ年休が成り立たないわけではありません。繁忙期で時季変更の話が出ているときは、言える範囲で事情を伝えたほうが、日程の調整が早く進むこともあります。言いたくない事情まで詳しく話す必要はありません。理由の書き方と、断られたときの確認の順番は、有給休暇の理由の記事で詳しく扱っています。
退職前の有給は時季変更できない
退職が決まってから、残った年休をまとめて取りたいと申し出ることがあります。厚生労働省の解説は、退職日で年休の権利は消えるため、会社は時季変更権を使えず、取得を認めるほかないとしています。
| 場面 |
解説に書かれていること |
| 退職前に残りの年休を使い切りたい |
退職で権利が消えるため、会社は時季変更権を使えない |
| 引き継ぎのため退職日を遅らせてほしいと言われた |
応じるかどうかは労働者に委ねられている |
| 年休を翌年度に繰り越さないという就業規則がある |
年度が変わっても権利は消えない。時効は2年 |
引き継ぎを放っておいてよいという意味ではありません。残りの日数と退職日から逆算し、最終出社日と引き継ぎの日程を先に示すと、話がこじれにくくなります。日程の組み方と引き継ぎ表は退職前の有給消化の記事にまとめています。
パートやアルバイトでも時季変更の決まりは同じ
パートやアルバイトにも年休はあります。労働基準法39条3項は、週の所定労働日数が少ない人の年休の日数を、通常の労働者との日数の比率を考えて決めるとしています(比例付与)。日数は少なくなることがありますが、取る日を労働者が指定し、会社は事業の正常な運営を妨げる場合に限って別の日に変えられる、という5項の決まりは同じです。
「パートには有給がない」「シフト制だから有給は使えない」と言われたときも、雇い入れから6か月たち、出勤率の要件を満たしていれば、まず自分の付与日数を確かめます。週の勤務日数ごとの日数は有給休暇の付与日数の記事で表にしています。シフトが決まる前に申請するか、決まった後に申請するかで、会社が調整できる幅は変わります。シフトの締切日と申請の締切日を、就業規則や職場の決まりで確かめておきます。
会社には年5日を取らせる義務もある
年10日以上の年休がある人には、会社が年5日を、基準日から1年以内に時季を決めて取らせる義務があります(39条7項)。本人が自分で5日取っていれば、会社が時季を決める必要はなくなります。
この義務に違反すると30万円以下の罰金の対象です(120条)。39条のほかの項、たとえば請求された時季に年休を与えなかった場合は、6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金の対象です(119条)。年5日の数え方は有給休暇の年5日取得義務の記事で整理しています。
監督署が年休の違反を見つけた事業場の数
労働基準監督署が実際に年休の規定違反をどれだけ見つけているかは、厚生労働省の監督業務の資料で分かります。厚生労働省、労働基準法等に基づく監督業務実施状況(令和7年)の第1表から、39条(年次有給休暇)の違反が見つかった事業場の数を業種ごとに並べました。
| 順位 |
業種 |
39条違反の事業場 |
定期監督等の事業場 |
割合 |
| 1 |
商業 |
3,196 |
22,340 |
14.3% |
| 2 |
製造業 |
2,611 |
31,631 |
8.3% |
| 3 |
接客娯楽業 |
1,802 |
9,773 |
18.4% |
| 4 |
保健衛生業 |
1,517 |
12,712 |
11.9% |
| 5 |
建設業 |
1,236 |
47,196 |
2.6% |
| 6 |
運輸交通業 |
849 |
5,956 |
14.3% |
| 7 |
その他の事業 |
742 |
6,738 |
11.0% |
| 8 |
清掃・と畜業 |
330 |
2,571 |
12.8% |
| 9 |
教育・研究業 |
206 |
2,186 |
9.4% |
| 10 |
農林業 |
169 |
1,731 |
9.8% |
| - |
全業種 |
12,962 |
145,797 |
8.9% |
令和7年に監督署が定期監督等に入った事業場は145,797で、そのうち12,962で39条の違反が見つかりました。数では商業、製造業、接客娯楽業の順に多く、監督に入った事業場に対する割合では、接客娯楽業が18.4%で上位10業種の中で最も高い値です。
この数字は、監督署が対象を選んで入った事業場での結果です。全国の会社のうち何%が違反しているかを示すものではありません。また39条違反には、年5日を取らせなかったことなども含まれ、時季変更の誤りだけを数えたものでもありません。業種ごとの違いを知る手がかりとして読みます。
有給を拒否されたときの手順
断られた場面では、気持ちより先に事実を残します。後で相談するときに、何があったかを日付で説明できるかどうかで、話の進み方が変わります。
- 申請した日、取りたかった日、申請の方法(システム・書面・口頭)を書き残す
- 断った人、言われた言葉、別の日を示されたかどうかをメモする
- 就業規則の休暇の項目と、申請の締切や手続きの決まりを確かめる
- 別の候補日を2〜3日示して、もう一度申請する。返事は日付で求める
- 給与明細で、休んだ日が欠勤扱いになっていないかを見る
就業規則は、会社が働く人に周知しなければならないものです(労働基準法106条)。見られない状態なら、どこで見られるかを人事に聞きます。
社内で話が進まないときは、労働基準監督署か、厚生労働省の総合労働相談コーナーに相談できます。労働基準法104条は、違反の事実を監督署に申告でき、申告したことを理由に解雇その他の不利益な扱いをしてはならないと定めています。
年休の権利は2年で時効になります(厚生労働省の解説)。取れなかった年休がいつ消えるのかも、付与日と合わせて確かめておきます。
その会社の実際の数字は、求人票・面接・しょくばらぼで確かめる
有給が取りにくい職場かどうかは、入社前にある程度数字で見られます。全国の有給の取得率と業界ごとの差は、有給取得率の記事にまとめています。
会社ごとの有給の取得日数や取得率は、厚生労働省のしょくばらぼに会社が自分で公表しています。カイシャのホントの会社の比較ページでも、県ごとに有給の数字で会社を並べられます。
数字が載っていない会社には、面接で「昨年度の有給の平均取得日数」「繁忙期に休みを取るときの決め方」を聞きます。申請のルールが決まっている会社は、答えも具体的です。