昇給の平均を知るための最新の公的数字は、1人平均賃金の改定額が月13,926円、改定率が4.4%です。厚生労働省「令和8年賃金引上げ等の実態に関する調査」で公表されました。ただし、これは毎年の定期昇給だけの平均ではありません。ベースアップや諸手当の改定などを含む数字です。自分の昇給と比べるときも、何によって増えた額なのかを分けます。
同調査で、1人平均賃金を引き上げた・引き上げる企業は92.0%でした。企業全体の実施状況と、社員個人の評価による昇給は別です。求人票の「昇給あり」を見たら、前年度の実績、対象者、定昇とベアの内訳まで確かめます。
平均13,926円は、所定内賃金の月額の改定幅
厚生労働省「令和8年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」第2表を使います。令和8年10月21日公表、2026年10月22日確認。令和8年中の改定について、9〜12月の予定も含みます。
1人平均賃金とは、所定内賃金の月額の平均です。諸手当は含みますが、時間外・休日・深夜の割増手当や特別手当は含みません。賞与の増減や、残業時間が変わって受取額が増減した分を、そのままこの改定額に入れるわけではありません。
| 集計区分 |
月額の改定額 |
改定率 |
| 全体 |
13,926円 |
4.4% |
| うち引上げ企業 |
14,257円 |
4.5% |
| うち引下げ企業 |
−5,028円 |
−1.8% |
| 労働組合あり |
14,757円 |
4.5% |
| 労働組合なし |
13,033円 |
4.2% |
出典:厚生労働省「令和8年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」第2表。改定を実施・予定して額も決定している企業と、改定を実施しない企業の集計。常用労働者数による加重平均、予定を含む月額です。
「全体」は賃上げした企業だけの平均ではありません。引上げ企業に限った14,257円と、全体の13,926円を混ぜないようにします。昇給の相場を紹介する数字が違うときは、どちらの欄を使っているかを見ると違いを追えます。
改定率は改定前の賃金に対する割合です。同じ改定率でも、改定前の給与が違えば増える額は変わります。金額が大きい順と率が高い順は同じとは限りません。会社が率だけを説明したときは、自分のどの給与項目を分母にしているかまで聞きます。
企業規模別ランキング:最多は5,000人以上の16,680円
対象は、常用労働者100人以上を雇用する会社組織の民営企業です。調査事項の対象となる労働者は雇用期間の定めのない労働者で、日雇いや季節労働などは除きます。ここに載っていない100人未満の会社へ、同じ値を当てはめることはできません。
| 順位 |
企業規模 |
月額の改定額 |
改定率 |
| 1 |
5,000人以上 |
16,680円 |
4.8% |
| 2 |
1,000〜4,999人 |
15,402円 |
4.7% |
| 3 |
300〜999人 |
12,912円 |
4.2% |
| 4 |
100〜299人 |
11,279円 |
3.9% |
出典:厚生労働省「令和8年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」第2表。月額の改定額が大きい順。令和8年、予定を含む。平均の対象と計算方法は前節と同じです。
規模別では、額も率も大きい企業規模のほうが高くなっています。ただし、この表は規模が大きい会社へ転職した個人の給与変化を示すものではありません。規模だけで転職後の昇給額は決まりません。
同じ会社の中にも、職種、等級、評価による違いがあります。会社平均の改定額が高くても、入社した等級の昇給幅や給与上限は別です。求人票を見るときは、企業規模と並べて、自分がどの等級で採用されるかを確かめます。
小規模な会社について、この表の末尾の額を「中小企業すべての平均」と呼ぶのも避けます。表の区切りは100〜299人です。企業の呼び方を広げると、調査していない会社まで含む説明になってしまいます。
産業別ランキング:改定額は建設業20,599円が最多
令和8年の月額の改定額が大きい順です。同じ第2表の15産業を掲載します。単位は円/月と%。産業ごとに雇用する人の構成や改定前賃金が違うため、額と率を並べて読みます。
| 順位 |
産業 |
月額の改定額 |
改定率 |
| 1 |
建設業 |
20,599円 |
5.5% |
| 2 |
学術研究、専門・技術サービス業 |
19,492円 |
5.4% |
| 3 |
情報通信業 |
17,884円 |
4.4% |
| 4 |
電気・ガス・熱供給・水道業 |
17,634円 |
5.0% |
| 5 |
製造業 |
15,134円 |
4.7% |
| 6 |
卸売業、小売業 |
13,173円 |
4.3% |
| 7 |
金融業、保険業 |
12,769円 |
3.8% |
| 8 |
教育、学習支援業 |
12,674円 |
4.3% |
| 9 |
不動産業、物品賃貸業 |
12,461円 |
4.0% |
| 10 |
宿泊業、飲食サービス業 |
11,940円 |
4.2% |
| 11 |
サービス業(他に分類されないもの) |
11,927円 |
4.3% |
| 12 |
鉱業、採石業、砂利採取業 |
11,589円 |
4.1% |
| 13 |
生活関連サービス業、娯楽業 |
9,210円 |
3.5% |
| 14 |
運輸業、郵便業 |
8,815円 |
3.0% |
| 15 |
医療、福祉 |
8,540円 |
3.3% |
出典:厚生労働省「令和8年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」第2表。令和8年中、予定を含む。常用労働者100人以上の会社組織の民営企業の集計です。
情報通信業は改定額では電気・ガス・熱供給・水道業より上ですが、改定率は4.4%で、同産業の5.0%より低くなっています。増えた金額の順位が、増えた割合の順位ではないとわかります。
医療、福祉は改定額8,540円、改定率3.3%です。この値を、看護師や介護職員の昇給額そのものと読むことはできません。産業の中には、現場の専門職だけでなく事務などの仕事も含まれます。自分の職種の改定実績は会社に聞きます。
給与水準の高い業界と、今回の賃上げ額が大きい産業も同じではありません。入社時の給与水準を調べるときは業界別の平均年収ランキングも使い、現在の水準と、その年の増加幅を別々に比べます。
定期昇給は制度の中の移動、ベアは賃金表の水準の変更
調査の「主な用語の定義」では、定期昇給を、労働協約や就業規則などで定めた制度に従って行う昇給としています。年齢や勤続年数に応じた自動昇給だけでなく、一定の時期に査定する能力・業績評価による昇給も含みます。
ベースアップは、賃金表を改定して賃金水準を引き上げることです。同じ等級・号俸などの位置にいても、表の額自体が上がります。定期昇給と同じ年に行われることもあります。
| 改定の種類 |
給与のどこが変わるか |
会社に聞くこと |
| 定期昇給 |
制度に沿った給与の位置や額 |
評価、勤続、等級ごとの昇給幅 |
| ベースアップ |
賃金表の水準 |
対象の等級、実施時期、改定額 |
| 諸手当の改定 |
対象となる手当 |
自分に適用される条件 |
| 一時金・賞与 |
毎月の給与とは別の支給 |
支給条件と業績による変動 |
定昇とベアの定義は同資料2ページ。最後の一時金・賞与は、月額の賃金改定と混同しないために分けた確認項目です。
「昇給した」と聞いても、基本給が増えたのか、手当が新設されたのかで、その後の給与の見え方は変わります。対象の手当がなくなる働き方へ変われば、受取額も変わり得ます。給与通知では増額分の合計だけでなく、項目ごとの改定前後を見ます。
定期昇給に査定が含まれるなら、年数が増えれば必ず同じ額だけ上がるとは限りません。評価項目、上司との面談、給与へ反映する時期を聞きます。制度の名称だけで、自動昇給と判断しないことです。
引上げ企業92.0%と定昇81.2%は、分母が違う
第1表では、全企業に対して1人平均賃金を引き上げた・引き上げる企業が92.0%です。賃金の改定を実施しない企業は2.1%、未定は5.1%でした。企業の回答の割合であって、労働者のうち昇給した人の割合ではありません。
定期昇給とベアは別の表です。第4表の定昇を行った・行う81.2%は、賃金の改定を実施・予定する企業と改定を実施しない企業を分母にした割合です。第5表のベアを行った・行う57.9%は、そのうち定昇制度のある企業を分母にしています。
| 指標 |
実施・予定の割合 |
分母 |
| 1人平均賃金の引上げ |
92.0% |
全企業 |
| 定期昇給を行った・行う |
81.2% |
改定実施・予定企業と改定を実施しない企業 |
| ベアを行った・行う |
57.9% |
上記のうち定期昇給制度のある企業 |
出典:厚生労働省「令和8年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」第1表、第4表、第5表。令和8年、予定を含む企業割合。
この割合を足して、昇給した企業の割合にすることはできません。同じ企業が定昇もベアも行うことがあり、分母も違うからです。「定昇ありの企業のうち実施した割合」を読みたいなら、第4表の括弧内の96.4%を使います。81.2%と96.4%の違いは、その分母の違いです。
会社へ質問するときも、全社員の平均なのか、昇給した人だけの平均なのかを確認します。「平均の昇給額」を聞いたつもりでも、昇給対象者だけの数字なら、据置きとなった人の状況はわかりません。
過去の改定額と改定率:令和7年と8年はともに4.4%
| 年 |
月額の改定額 |
改定率 |
| 令和3年(2021年) |
4,694円 |
1.6% |
| 令和4年(2022年) |
5,534円 |
1.9% |
| 令和5年(2023年) |
9,437円 |
3.2% |
| 令和6年(2024年) |
11,961円 |
4.1% |
| 令和7年(2025年) |
13,601円 |
4.4% |
| 令和8年(2026年) |
13,926円 |
4.4% |
出典:厚生労働省「令和8年賃金引上げ等の実態に関する調査の概況」付表2。予定を含む。引上げ企業だけに限定しない全体の値です。
令和7年と令和8年は、率が同じでも額は同じではありません。自分の会社の実績も、率と額をセットで追います。会社が「前年並み」と説明しても、それが額なのか率なのかで意味は変わります。
この推移を、自分の将来の給与へそのまま掛け続けることはしません。毎年同じ企業や同じ個人が同じ率で増えることを約束した数字ではないからです。長く勤めることを考えるなら、等級ごとの給与帯や昇格時の変更を見ます。
求人票の「昇給あり」「前年度実績」で見落としやすい点
昇給ありという記載だけでは、対象者、額、適用時期はわかりません。前年度実績が載っていても、その職種や雇用形態に適用される実績かを確認します。会社全体の額と、今回の採用枠の額が同じとは限りません。
幅のある昇給額なら、下限と上限を分けて読みます。上限は全員の支給額ではありません。特別な評価や昇格を含むのか、通常の評価でどの程度の改定があったのかを聞きます。最高額の事例だけでは、通常の運用はつかめません。
実績の対象年も見ます。大きなベアを行った年だけを掲げているのか、定昇を毎年続けているのかで、読み取れる内容は違います。過去の実績と将来の約束を分け、入社後の給与を未確認の昇給で埋めないようにします。
賞与の実績も給与比較では別に確認します。毎月の給与の改定額と賞与の増減を足した説明なら、その内訳を聞きます。賞与を読むときはボーナスの平均と企業規模別の数字で、月給とは集計対象が違う点を確認できます。
面接では「何%上がりますか」より、対象と内訳を聞く
会社全体の率だけを聞くと、自分が当てはまるかが残ります。質問は、今回の職種と等級を明示して聞きます。求人票で確認できた部分を先に伝えると、同じ説明の繰り返しを避けられます。
| 確かめたいこと |
質問の形 |
| 自分の入社時の位置 |
今回の採用で想定する等級と、その給与帯を教えてください |
| 通常の評価での改定 |
同じ職種・等級の前年度の昇給実績は、どの範囲でしたか |
| 定昇とベアの内訳 |
公開された昇給実績には、ベアや手当の改定を含みますか |
| 初回の適用時期 |
入社後、最初の評価と給与改定はいつですか |
| 据置きの扱い |
評価によって昇給しないことや、給与が下がることはありますか |
| 昇格時の変化 |
等級が上がると、基本給と役職手当はどう変わりますか |
答えを受け取ったら、実績、制度、今回の提示条件を分けて残します。実績が高い会社でも、入社直後は評価対象期間が足りず適用時期が違うことがあります。自分の初回の条件を聞けば、期待と実際のずれを小さくできます。
面接で話した内容と、内定時の説明が違うなら、その場で確認します。入社後に上がるはずの給与を前提に決めると、据置きになったときに生活の計画が崩れます。提示された現時点の条件でも働けるかを先に考えます。
給与が増えた理由を、給与明細で切り分ける
現職で比較するときは、総支給額が増えた月だけを選ばないことです。残業や休日勤務の増加によって増えた分は、この調査の所定内賃金の改定とは別です。基本給と毎月の手当のどの項目が変わったかを、通知と明細で照合します。
役職に就いて手当が増えたなら、責任と業務範囲がどう変わったかも記録します。昇格による変更と、同じ等級での定昇、全体のベアを分けると、次の会社へ希望額を伝えるときも説明しやすくなります。
手取りだけの比較もしません。給与そのものの改定と、控除額の変化を分けないと、会社がいくら改定したのかを読み違えます。転職先とは基本給、適用される手当、賞与の条件を同じ欄で並べ、働く時間も確認します。
会社全体の平均と、配属先の評価の運用をつなげる
会社が高い賃上げ率を公表していても、対象に初任給の改定を含むか、既存社員の改定だけかを確認します。採用時の給与を大きく変えたことと、在籍する自分の給与が同じように上がることは別です。対象者が書かれていなければ、会社全体の率だけで自分への適用を判断しません。
評価制度の説明では、目標をいつ決め、誰が結果を判断し、どの給与改定へ反映するかを聞きます。目標が途中で変わる仕事なら、その変更を評価でどう扱うかも確かめます。制度が用意されていることと、配属先で説明を受けられることは別の確認です。
成果の説明が売上や件数に偏る職種でも、担当範囲や配属先が違えば達成条件は変わります。自分が担当する仕事で何を求められるかを聞き、昇給するために必要な行動が想像できるかを見ます。曖昧な評価のまま将来の増額だけを期待しないことです。
現職の給与が据置きだった人は、評価結果と会社全体の改定を分けて確認します。個人の評価による据置きなのか、等級の上限なのか、会社として改定を見送ったのかで、相談する内容が変わります。理由がわかれば、次の評価までに変えられる点も整理できます。
昇給のために昇格が必要なら、役職に就いたあとに任される業務も聞きます。給与だけ増える話として受け取らず、部下の指導、勤務の調整、顧客対応など、責任の変化まで比べます。自分が望む働き方と合うかを確認してから、給与の伸びを考えます。
会社から聞いた説明は、実績の年度と対象の職種を添えて残します。選考担当者と配属先で説明が違うなら、その違いを確認します。全国の平均額を繰り返し聞くより、自分に適用される制度の説明をそろえるほうが、入社後の見通しを立てられます。
その会社の実際の数字は、求人票・面接・しょくばらぼで確かめる
全国の改定額13,926円は、自分の会社が支払うべき昇給額を決める数字ではありません。給与制度の説明を読むきっかけとして使い、応募先の職種・等級・評価へ絞ります。求人票では昇給実績の対象年と内訳を確認し、面接で初回の適用時期と据置きの条件を聞きます。
厚生労働省のしょくばらぼでは、掲載されている残業や休暇、定着などの職場情報も見ます。昇給額が必ず載るサイトではありませんが、給与の伸びと一緒に働き方を調べられます。情報の集め方は企業研究のやり方で整理しています。
大きく上がる可能性だけでなく、今示されている額で続けられるか、評価の仕組みを理解できるかまで確認します。その会社の実際の数字は、求人票・面接・しょくばらぼで確かめます。