特定最低賃金(産業別最低賃金)は、特定の産業で働く人に、地域別最低賃金より高い水準で決める最低賃金です。厚生労働省の最低賃金特設サイトでは、全国で223件(令和8年4月1日現在)が決められています。地域別と特定の両方がかかる人には、高いほうの額が適用されます。
ただし、特定最低賃金は毎年かならず地域別より高いとは限りません。地域別の引上げが大きいと、特定最低賃金のほうが低くなる業種が出ます。厚生労働省の令和7年度 特定最低賃金の審議・決定状況(令和8年1月15日時点)では、一覧の223件のうち111件に「地域別最低賃金額が適用される」という印が付いていました。その業種では、実際の下限は地域別の額です。
自分に特定最低賃金がかかるかは、働く事業所の業種と、自分の年齢・業務内容で決まります。この記事では、法律のしくみ、都道府県ごとの件数、地域別より低くなった場合の扱いを順に見ます。数字は2026年10月25日に確かめました。
特定最低賃金と地域別最低賃金の違い
最低賃金は2種類あります。最低賃金特設サイトの説明と、最低賃金法の条文をもとに整理しました。
| 項目 |
地域別最低賃金 |
特定最低賃金 |
| 対象 |
都道府県内で働くすべての労働者 |
特定の産業の基幹的な労働者 |
| 件数 |
47件(各都道府県に1つ) |
223件(令和8年4月1日現在) |
| 決め方 |
最低賃金法9条〜12条。全国のすべての地域で決める |
最低賃金法15条。労使の申出を受けて決める |
| 額の決まり |
生計費・賃金・支払能力を考えて決める |
地域別最低賃金を上回る額で決める(16条) |
| 適用されない人 |
原則なし(減額特例の許可を受けた場合を除く) |
18歳未満・65歳以上、見習い中の人など |
| 下回ったときの罰則 |
50万円以下の罰金(40条) |
40条は対象外(船員の特定最低賃金を除く) |
出典:厚生労働省の最低賃金特設サイトの最低賃金の種類と適用される対象者のページ、e-Gov法令検索の最低賃金法。
地域別最低賃金は、働くすべての人のための下限です。パート、アルバイト、臨時、嘱託など呼び方に関係なく適用されます。特定最低賃金は、その上に、特定の産業で働く中心的な労働者のために決める上乗せの下限です。
罰則の違いにも注意します。最低賃金法40条の罰金は、地域別最低賃金と船員の特定最低賃金を下回った場合に限られています。それでも特定最低賃金を下回る賃金は、4条で無効になり、特定最低賃金と同じ額を定めたものとみなされます。足りない分を請求できることに変わりはありません。
特定最低賃金の決まり方:労使の申出と審議会
特定最低賃金は、地域別のように全国一律の手順で毎年決まるものではありません。最低賃金法15条1項で、労働者か使用者の全部または一部を代表する者が、厚生労働大臣か都道府県労働局長に、決定・改正・廃止を申し出ることができるとされています。
申出を受けた大臣か労働局長は、必要と認めるときに最低賃金審議会に調査審議を求め、その意見を聴いて決めます(15条2項)。16条では、決める額は、その事業場がある地域の地域別最低賃金を上回るものでなければならないとしています。
この決まりがあるので、新しく決めたり改正したりするときの額は、その時点の地域別最低賃金より高くなります。ところが、改正されずに年数がたつと、毎年上がる地域別に追い越されます。厚生労働省の一覧には、平成20年や平成10年に決まった額がそのまま載っている業種もあります。
改正の時期も、地域別とずれます。令和7年度の一覧を見ると、特定最低賃金の発効日は12月や翌年1月が多く、地域別の10月発効から2〜3か月遅れています。たとえば島根県の製鋼・製鋼圧延業、鉄素形材製造業は、島根労働局のページで令和8年10月6日に改正の答申があったと案内され、答申文の写しでは1時間1,230円ですが、効力発生日は「法定どおり」で、10月25日時点の適用額は1,163円です。
両方かかるときは高いほう:最低賃金法6条
最低賃金法6条1項は、2つ以上の最低賃金がかかる人には、そのうち最も高い額を使うと決めています。この記事で確かめた3県の例で見ます。
| 県・業種 |
特定最低賃金 |
地域別(令和8年度) |
適用される額 |
| 愛媛県・船舶製造・修理業、舶用機関製造業 |
1,136円 |
1,093円(11月1日から) |
1,136円 |
| 愛媛県・パルプ、紙製造業 |
1,113円 |
1,093円(11月1日から) |
1,113円 |
| 島根県・製鋼・製鋼圧延業、鉄素形材製造業 |
1,163円 |
1,092円 |
1,163円 |
| 島根県・自動車・同附属品製造業 |
1,094円 |
1,092円 |
1,094円 |
| 島根県・電子部品・デバイス・電子回路などの製造業 |
1,058円 |
1,092円 |
1,092円 |
| 鳥取県・電子部品・デバイス・電子回路などの製造業 |
963円 |
1,090円 |
1,090円 |
| 鳥取県・各種商品小売業 |
902円 |
1,090円 |
1,090円 |
出典:愛媛労働局の愛媛の最低賃金のページと島根労働局の最低賃金についてのページ。鳥取県の特定最低賃金の額は厚生労働省、令和7年度 特定最低賃金の審議・決定状況。地域別は厚生労働省、令和8年度地域別最低賃金全国一覧。2026年10月25日確認。
島根県の自動車・同附属品製造業は、特定と地域別の差が2円しかありません。島根県の電子部品などの製造業は、令和7年12月に1,058円に改正されたばかりですが、令和8年10月10日の地域別1,092円に追い越されました。鳥取労働局のリーフレットでは、鳥取県の2業種について「最低賃金法第6条第1項により、鳥取県最低賃金が適用されています」と書いています。
県ごとの業種の表と推移は、愛媛県の最低賃金と島根県の最低賃金と鳥取県の最低賃金の記事にまとめています。
都道府県別の特定最低賃金の件数:愛知・兵庫が9件
厚生労働省の令和7年度の一覧(令和8年1月15日時点)に載っている特定最低賃金を、都道府県ごとに数えました。件数が多い順です。右の列は、一覧で「地域別最低賃金額が適用される」印(※)が付いていた件数です。
| 順位 |
都道府県 |
件数 |
うち地域別が適用(※) |
| 1 |
愛知 |
9件 |
7件 |
| 1 |
兵庫 |
9件 |
3件 |
| 3 |
広島 |
8件 |
5件 |
| 4 |
千葉 |
7件 |
5件 |
| 4 |
神奈川 |
7件 |
7件 |
| 4 |
三重 |
7件 |
5件 |
| 4 |
大阪 |
7件 |
1件 |
| 4 |
岡山 |
7件 |
1件 |
| 9 |
岩手 |
6件 |
2件 |
| 9 |
栃木 |
6件 |
1件 |
| 9 |
埼玉 |
6件 |
1件 |
| 9 |
石川 |
6件 |
2件 |
| 9 |
静岡 |
6件 |
4件 |
| 9 |
滋賀 |
6件 |
2件 |
| 9 |
京都 |
6件 |
5件 |
| 9 |
島根 |
6件 |
1件 |
| 9 |
大分 |
6件 |
1件 |
| 18 |
福島 |
5件 |
4件 |
| 18 |
富山 |
5件 |
5件 |
| 18 |
愛媛 |
5件 |
1件 |
| 18 |
福岡 |
5件 |
0件 |
| 全国 |
47都道府県計 |
223件 |
111件 |
出典:厚生労働省、令和7年度 特定最低賃金の審議・決定状況(令和8年1月15日時点、表番号なし)。件数は一覧の業種の行を都道府県ごとに数えたもの。4件以下の26道県は省略。同数は同順位。
一覧の223件は、最低賃金特設サイトの「全国で223件(令和8年4月1日現在)」と同じ数です。都道府県で最も少ないのは2件で、山梨・和歌山・鳥取・高知の4県です。どの都道府県にも少なくとも2件あります。
右の列の※は、令和8年1月15日時点の地域別(令和7年度)と比べた結果です。令和8年度の地域別は全国加重平均で56円上がったので、10月以降はさらに多くの業種で地域別のほうが高くなっている可能性があります。最新の扱いは、各労働局のページで確かめます。たとえば島根県では、令和7年度には地域別より高かった電子部品などの製造業と自動車(新車)小売業が、令和8年10月10日からは地域別の1,092円を下回っています。
件数の多い県は、製造業の多い県とおおむね重なります。愛知県の9件には、輸送用機械器具製造業や製鉄業などが入っています。ただ、件数が多いほど給与が高いという意味ではありません。神奈川県の7件はすべて※が付き、地域別のほうが高い状態でした。
全国で1件だけの全国非金属鉱業最低賃金
都道府県ごとの特定最低賃金とは別に、全国を対象に厚生労働大臣が決めている特定最低賃金が1種類あります。厚生労働省の特定最低賃金の全国一覧のページでは、全国非金属鉱業最低賃金として、石灰石やけい石などを掘る事業場で坑内作業をする労働者に、1日5,772円(平成元年5月17日発効)と載っています。
こちらは日額で決まっていて、65歳以上の人、雇入れ3か月未満で技能を習っている人、清掃・片付けを主にする人は除かれます。対象は限られた仕事なので、ほとんどの人には関係しません。
特定最低賃金が適用されない人:年齢・見習い・軽い業務
特定最低賃金は、その産業の基幹的な労働者のための下限です。最低賃金特設サイトでは、次の人には適用されないとしています。
- 18歳未満または65歳以上の人
- 雇入れ後一定期間未満で、技能を習っている途中の人
- その産業に特有の軽い業務をする人
どの業務が外れるかは、特定最低賃金ごとに違います。愛媛県のはん用機械器具などの製造業では「バリ取り・溶接かす取り、洗浄」や「手作業による機械部品の組立て」などを主にする人が外れます。島根県の製鋼・製鋼圧延業では「清掃、片付け又は整理」と「手作業による運搬」の業務です。外れた人には、地域別最低賃金が適用されます。
派遣で働く人は、派遣先の事業所の最低賃金で比べます。最低賃金特設サイトの派遣労働者の説明では、派遣先の事業場に特定最低賃金が適用される場合は、派遣会社がその額以上を払う必要があるとしています。
自分の時給と比べるときの手順
- 働く事業所の都道府県と、その事業所の業種を確かめる
- 労働局のページで、その業種に特定最低賃金があるか、いくらかを見る
- 自分が年齢・見習い・軽い業務で外れるかを、労働局の表の「適用除外」欄で確かめる
- 特定最低賃金と地域別最低賃金のうち、高いほうを下限にする
- 時給(月給なら1時間あたりに直した額)と比べる
比べる賃金からは、精皆勤手当、通勤手当、家族手当を除きます。特定最低賃金の答申文にも「この最低賃金において賃金に算入しないもの」として、この3つの手当が書かれています。残業代や賞与も地域別と同じく比べる額に入れません。月給の直し方は時給の計算と最低賃金との比べ方で確かめます。各都道府県の地域別の額は最低賃金ランキング2026年度にあります。
業種は、日本標準産業分類に沿って決まると各労働局の表に注記されています。会社がいくつもの事業をしていて、どの業種に当たるか分からないときは、求人票の事業所の住所と仕事の内容を添えて、労働局か労働基準監督署に聞きます。
求人票・面接・しょくばらぼで、その会社の数字を確かめる
特定最低賃金があるかどうかは、その業種の働き手の下限が少し高いという情報です。会社の給与そのものの高さを表すものではありません。製造業の求人を比べるときは、時給や月給に加えて、残業の多さ、休みの数、賞与の有無で差が出ます。
求人票では、事業所の住所と業種、時給か月給、所定労働時間、手当の内訳を書き出します。面接では「この仕事に特定最低賃金はかかりますか」「月給のうち固定残業代を除いた額はいくらですか」と聞くと、比べるための数字がそろいます。
会社ごとの残業時間や有給休暇の取得率は、厚生労働省のしょくばらぼで確かめられます。県ごとの比較は、たとえば愛媛県の会社の比較ページや島根県の会社の比較ページで見られます。載っていない項目は、会社に聞く項目として残しておきます。
出典